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2014年5月6日火曜日

経営者教育について(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その23です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> [子会社の]経営陣を訓練したり指導するにはどうすればいいと考え、バークシャーで実践されていますか。

<バフェット> おもしろい質問ですね。実のところ、なにもしていません。たぶん半分ぐらいの[子会社の]経営陣はMBAかビジネスに関する他の教育を受けていて、もう半分の方々はそうではないと思います。良き経営者がどう作られるのか、興味がありますね。というのはビジネスの言葉[=会計]を理解していなければなりませんし、わたしが言うところの「商売魂」や「商売志向」を持つべきだと思うからです。しかし、わたしとしては経歴のことはまったく気にかけていません。ソロモンにいたときには、履歴書をみせてほしいとはだれにも聞きませんでした。ですから彼らがどこの学校を出たのか知らなかったですし、それが違いになるとは考えていませんでした。ミセスBの話をしましたが、彼女に学歴を聞いて白紙を出してきても、わたしにはそれでかまいません。ボーシャイムズを築き上げたアイク・フリードマンが学校で何をしたのか、あるいはその前はどうだったのか、そういうことも知りません。わたしには全然重要なことではないのです。基本的なやりかたとしてわたしたちは、すでに事業を成功させた人から買収して、そのまま経営してもらうのを好んでいます。打率が3割5分とか3割7分5厘の人の事業を買ってそのまま楽しく続けてもらうほうが、空地で野球をしているところへ出かけて熱心に観察し、3割5分打てますとか3割7分5厘いけますと申告する人をみつけるよりもずっといいです。ただし後者のやりかたをしないとは言っていません。後者でやったことも何度かあります。ただ、前者で行けるならばそのほうがいいです。新人をちゃんと仕込むのは大変だとわかっていますから。わたしたちにはすばらしいマネージャーが揃っていますが、65歳を超える人も多く、ビジネスに関する教育を受けていない人もたくさんいます。ちなみにわたしとしては、ビジネスに関する教育が害になるとは思っていません。わたしもペンシルバニア大学とネブラスカ大学、そしてコロンビア大学で教わりました。3か所のビジネススクールへ通い、それぞれの場所でいろんなことを学びましたが、実際に多くを学んだのは後の2つの学校です。学校でビジネスを学んだことはかなり有利に働いたかもしれません。ですが、不可欠なことだとは思っていません。

Q. What kind of management training or mentoring do you believe in and actually practice at Berkshire?

A. Well, that's interesting. We really don't do any. Perhaps half of our managers have MBAs or have had other kinds of business training. Probably half of them didn't. It's interesting to me what makes a good manager, because I think you have to understand the language of business, and you should have what I would call a "business mind" or "business orientation." But, we don't care about background at all. When I was at Salomon, I did not ask to see anyone's resume. I didn't know where any of the dozen went to school. It just didn't make a difference to me. You know Mrs. B; if I asked her for her educational experience and she handed me a blank piece of paper, that would be fine with me. Ike Freidman, who built Borsheim's - I don't even know what he did in terms of school, or what he had done. It really is irrelevant to me. We basically like to buy into businesses where people have already succeeded and then keep them on. I would much rather have somebody who has been batting .350 or .375, buy their business and try and keep them happy than have to go out and start casting around the sandlots looking for people who tell me they are going to bat .350 or .375. I'm not saying I won't do the latter. We've done some of the latter, but when you can do the former, we like it. We find it's hard to teach a new dog old tricks. We've got some terrific managers, many of whom are over 65 and many of whom did not have a business education. I don't think a business education hurts, incidently. I got one at Penn, Nebraska and Columbia, so I went to three different business schools and learned a lot at each place. Actually, I learned more at the last two. It can be quite advantageous, but I don't think it is essential.

2014年4月24日木曜日

バークシャーという名のロック・コンサート(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その21です。質疑応答が3件です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> 会社を調べるときは3つのこと、つまり経営者、価格、人材のことを確認すると言われていました。なみはずれた株価にまで達したのは、人に関する分析が良かったからでしょうか。

<バフェット> その3つの中の1つなのですが、しかし3つすべてが大切です。たしか事業の「経済性」と言ったかと思います。つまり最高にすばらしい人がいても、わたしたちが30年前に買ったような織物の事業を経営するのであれば、好業績はあげられないでしょう。反対にコカ・コーラ社を経営すれば、みんなが仰天するほどうまくいくと思います。わたしたちが加わりたいと考える事業は根本的に優れた経済性を持っている、つまりコカ・コーラやジレットのような会社です。その次にくるのが人材と値段です。しかしどれも非常に大切なことです。

Q. You said that you look at three things when you are looking at a firm. You look at management, price and people. Is your analysis of people what makes your stock prices exceptional?

A. It's one of three, but it's all three things. I think I said the "economics" of the business. I mean, you can have the most wonderful person in the world, but if they are running a textile business like we had 30 years ago, they're not going to do well. On the other hand, if they're running Coca-Cola, they are going to do sensationally. So, we want to be in a business that has fundamentally good economics like a Coca-Cola or a Gillette or something of the sort. And, then we want people and the price. But all three are very important.


<質問者> 私の父は必死になって働いたことで、かなりの成功をおさめました。そんな家庭で育ったのですが、バフェットさんは仕事とご家庭をどのように両立されていますか。奥様を仕事のなにかと結びつけることがありますか。それとも2つはまったく別次元・別世界のものとしてとらえているのですか。

<バフェット> ちがいます。2つは別のものとして扱っています。今日ここに来ているわたしの娘は一度質問していたので、高校時代になって自分の父は「セキュリティー」の分析家だと他の人に説明したことがあります。わたしの仕事は家々などを調べてまわり、泥棒に侵入されないことを検証する何かだと考えていたのですね。仕事と家庭は別々のものだとわたしは考えています。自分のしていることが仕事だと考えたことはありません。生活のためにしているわけではなく、これが絶対一番やりたいと思えることをしているわけです。

Q. I've come from a family where my father works a lot and he's rather successful. How do you balance work with your family? Do you tie your wife into any of your work, or is it totally two different dimensions, two different worlds?

A. No, it's two different deals. My daughter, who is here, was doing an interview one time and explained that when she was in high school, she told people I was a securities analyst. She thought that meant I went around checking on homes or something to be sure they wouldn't be burglarized! No, work and family are two independent things. I don't consider what I do as work at all. I'm not doing this for a living. I'm doing it because I would rather do it than anything else I can think of in the world.


<質問者> 年次報告書の中で、株式交換や株式分割によって投資家の数を増やしたくないと書かれていました。しかし、ある種の大きな相互会社[投信]や巨大な持ち株会社となれば、なぜ使える資本の額を増やさないのですか。

<バフェット> たしかにそういったことはやりませんでした。株主数を増やすのとは違う話ですが、わたしたちは資本を追加することを望んでいません。毎年利益をあげることで自然と資本が増えるので、それで十分満足しています。現在の資本以上の妙案を持ち合わせていないのです。学校を出たころは資本以上にやりたいことがありました。ですが資本が決定的に不足しており、追加が必要でした。そこで1956年に共に参画してくれるパートナーを募ってパートナーシップを設立しました。しかしバークシャーは今後の運営に新たな資本を必要としないでしょう。そこで疑問となるのは、「だれが株主になるのか」「だれが株主の座を占めるのか」です。株式を100万株発行する場合、できれば私がと思うのですがだれかが保有することになります。全部の席が埋まると次の疑問になります。「ずっとその座を占めていてほしい人に、どうすればそう思ってもらえるか」、これはすごく簡単です。会場の外に「ロック・コンサート」と書いた看板を出せばその類いの人たちが来ますし、「オペラ」と書けば別の集団があつまります。どちらの集団でもよいのですが、オペラを期待してやってきた人たちが入ってみたらロック・コンサートだった、とはならないほうがよいはずです。その逆でも同じです。

ですから投資の世界と意思疎通してわたしたちの狙いを、つまりどのように考えているかやバークシャーと相性の合う人たちにどれぐらいの期間にわたって加わっていてほしいのか、そういったことを説明するのが大切だと固く信じています。これまでもずっとそうしてきました。バークシャー株の売買回転率が低い理由はそのためです。ニューヨーク証券取引所でいちばん回転率が低いのです。取引所はそれを好みませんが、わたしは気に入っています。というのは、株主でいてほしい人が株主となっていることを基本的に語っているからです。株式を分割したりすれば、少し違う人たちが入ってくるものです。ひどい集団ではないものの、以前の人たちとくらべて良いわけではありません。だれかが入ってくるには、だれかが出ていかなければなりません。わたしたちの目的や期間をわかっている人、別のことに焦点をおいている人々と対峙する人を失わないようにしたいのです。

Q. You say in your annual report that you do not want to increase the number of investors you have through a stock swap or a split, but if you are, in a sense, a large mutual company, a large holding company, why would you not increase the amount of capital available to you?

A. Well, we haven't; we don't want to increase the amount of capital, which is different than increasing the number of shareholders, of course. We get a natural increase in capital just by the amount we earn from year to year, and that's plenty satisfactory. I do not have way more ideas than I have capital at the present. When I got out of school, I had way more ideas than capital. I was definitely capital short and at that point I did need more capital. So that's why I formed a partnership in 1956 to have some partners join with me. But, Berkshire will not need new capital as we go along. Now, the question is, "Who are going to be your shareholders?" "Who is going to sit in every seat?" If you have a million shares outstanding, somebody has to own them, preferably me. All the seats get filled and then the question is, "How do you encourage the people you want to have in those seats to attend?" It's very simple. If you stick a sign outside an auditorium and say "rock concert", you will get one group and if you say "opera", you will get another group. Either group is fine, but you'd better not have people coming who think they are going to the opera and find that they are at a rock concert, or vice versa.

So, I believe in communicating with the investment world about our objectives - how we think, and the time horizons to draw a compatible group into Berkshire - and we've done that over time. That's why the turnover in Berkshire stock is so low. We have less turnover than any stock on the New York Stock Exchange. The New York Stock Exchange doesn't like it but I like that because it means that basically the people are there who want to be there. Splitting the stock or anything like that would tend to draw a slightly different crowd; not a terrible crowd, but not a better crowd than the crowd we have already. The only way somebody can enter is for somebody to leave. And we want to make sure that we're not losing people who identified with our objectives and horizons, to take on people who have some other different focus.


本ブログも看板を掛け替えたほうがいいでしょうかね。「投資翻訳練習所」とか。

2014年4月14日月曜日

バークシャーの組織運営について(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その20です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> あなたはバークシャー・ハサウェイを非常に効率的な組織として運営されています。大きく成長したというのに、どうすればそれほど贅肉が少ないのでしょうか。

<バフェット> いい質問ですね。現在の従業員は[グループ全体で]2万2千名か3千名、もしかしたら2万4千名になっているかもしれません。20年前にはたぶん千名ほどでしたが、今でも本社は10名か11名だけしか雇っていません。なるべく単純にするのが私の信条です。ですから社内には弁護士や広報はいません。守衛もいませんし、カフェテリアもありません。そのように運営するのは、実はすごく簡単です。ずばり言えば、上司に報告するような人の階層がいくつもあるよりもずっと仕事が進むと思います。ほとんどの会社にはムダがたくさんあります。一度ついたムダを取り除くのは非常に大変です。まったくそうしないのはすごく簡単です。相方のチャーリーはこんな言い方をします。「自分が死すべき場所はどこか知りたいね。そこには決して近づかないことにするよ」。巨大な組織というものに対して、わたしはそれと同じように感じています。つまりわたしに関する限りでは、それは事業の死を意味しています。ですから、わたしたちはそこに近づくつもりはありません。人を増やさないのは難しいことではありません。ただ誰も雇用しないだけで、今後もそうするつもりです。株式の売買もすべて自分でやっています。次のような質問を受けることがあります。「業務の上で、あなたに報告する立場にある人は何名いますか」。それが標準的な組織管理のやりかたなのでしょう、彼らは「最適な人数はこうです」といったことを教えてくれます。わたしからの答えは「正しい人を雇っているならば、たくさん人がいるのと同じ」です。その人たちが自分のしていることを理解し、喜んで仕事に臨んでいるのであれば、何十人何百人がいるも同然です。しかしくだらない人を雇ってしまえば、たとえ一人であっても多すぎです。悩みの種となるでしょう。つまり大切なのは「正しい人を雇うこと」です。きわめて有能な人たちといっしょに仕事ができて、わたしたちは非常に幸運でした。

当社は3年前に作業用靴のH.H.ブラウン社を買収しました。従業員はおよそ4千名で売上げが2億5,000万ドル程度です。同社のどの工場にも行ったことはないですし、他のだれも行っていません。もしかして存在していないのかもしれません。つまりは、同社の人たちは毎月こんな風に話し合っていると思います。「今月はウォーレンにどれだけ送ったらいいだろうか。280万ドルでどうかな。そうだな、たぶん彼はそれでいいと思ってくれるだろうから、送っておこう」。このように正しい種類の人を得たのです。ブラムキン一族がファニチャー・マートなどを経営している以上、一体わたしに何ができるでしょう。そこへ出向いて、「これの小売価格は398ドルではなくて498ドルにしたほうがいい」と彼らに忠告すべきでしょうか。そういったことは、わたしにはまったくわからないのですが。

子会社の経営者のうちの4分の3は、経済的に独立した人たちです。何億ドルもの資産を持っている人ばかりで、朝起きて仕事に行く必要はまったくありません。ですからわたしとしては、今日も明日も仕事に行くことが彼らにとってのいちばんの楽しみだ、という雰囲気をつくりだしたり、維持しなければなりません。そこで「自分ならどうすればそう感じるだろうか」と自問してみました。自分自身のショーを自分で運営していると感じられれば、そのひとつと言えると思います。もしわたしに対して一日中とやかく言う人がいたら嫌気がさして、「なぜこんなことをやる必要があるのだろうか」と考えるでしょう。わたしが子会社の経営者に対して後ろ向きなことばかり言ったり、仕事のやり方を指示していたら、 彼らもちょうど同じように感じるでしょう。良き人たちがいれば、わずかの人数でやっていけます。わたしたちのやろうとしているのは、そういうことです。

Q. You keep a very lean machine going at Berkshire Hathaway. How do you keep it so lean when it grows so much?

A. Well, that's a good question, because now we have 22,000 employees or maybe 23,000 or even 24,000, I guess. We probably had 1,000 twenty years ago but we've still got 10 or 11 people in headquarters. I really believe in keeping things simple. We have no inside counsel. We have no public relations people. We have no guards. We have no cafeteria. And, it's a lot easier to run that way. Frankly, I think way more gets done than if you have floor after floor of people that are reporting to people on the floor above them. I see so much waste in most companies and once it gets there, it is very hard to get rid of. It's much easier never to get there. My pal Charlie says that, "All I want to know is where I'm going to die, so I'll never go there." And, that's the way I feel about a large organization. I mean, that would be business death as far as I'm concerned; so we're not going to get there. It's not a problem keeping it down. We just don't hire anybody and we won't. I buy and sell all the stocks myself. Some people say, "How many people can you have reporting to you in a business?" That's standard organizational management stuff. They say, "The optimum number is this" or something like that. The answer is, if you've got the right kind of people, you can have tons of people. You can have dozens and dozens and dozens of people, if they know what they are doing and they like their jobs. But if you have somebody who's a clown, one is too many. They will drive you crazy. The trick is having the right people. We have been very fortunate in getting in with people who are extremely able at doing their jobs.

We bought H. H. Brown, which is a work shoe company, three years ago. It has probably 4,000 employees, and two hundred and fifty million dollars in sales. I've never been to one of their plants. No one ever has. Maybe they don't even exist. I mean, maybe those guys sit there every month and say, "What figures should we send Warren this month? $2.8 million, will he like that? Yeah, he'll probably like that; let's mail it to him." I've got the right kind of people. If you've got the Blumkins running the Furniture Mart or something, what can I do, you know? Should I go out there and tell them we should price this stuff at $498 retail instead of $398? I don't know anything about it.

Three quarters of our managers are independently wealthy. They don't need to get up and go to work at all. Most of them have tens and tens of millions of dollars. So, I've got to create or I've got to maintain an environment where the thing they want to do most in the world is to go to work that day and the next day. And, I say to myself, "What would make me feel that way?" One way is to feel you are running your own show. If I had people second-guessing me all day, I would get sick of it. I would say, ‘What the hell do I need this for?" And, that's exactly the way our managers would feel if I went around second-guessing them or telling them how to run their business. So, you can get by with very few people if they are good people. That's what we try to do.

備考です。バークシャーの2013年度の年次報告書によれば(p.107)、現在の従業員は33万名で、そのうち本社には25名とのことです。その本社一同の集合写真が、今回の「株主のみなさんへ」に載せられていました(最終ページ)。残念ながらチャーリー・マンガーの姿はみられません(カリフォルニア在住のため)。

2012年9月22日土曜日

還暦前のわたしのいけない癖(トーマス・J・ワトソン・シニア)

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前回の投稿で「より積極的な経営者であれば、もう一歩進んで谷の局面では買収を行い」とありましたが、昔に読んだ本の一節を思い出しました。今回は、IBMのワトソン・Jrが書いたその本『IBMの息子』から、彼の父親である当時のIBMの社長ワトソン・Srが世界恐慌の最中にくだした決断を引用します。

景気回復は目前に迫っていると信じていた父は、大不況にさいして、思い切った方針を打ちだした--生産の拡大、である。父は困難な時期こそ事業拡大の好機ととらえたのだ。販売が落ち込んで工場の稼動率が落ちると、父は、需要の回復に備えて倉庫に予備部品をどんどんためこむように命じた。営業部門にはよりいっそう販売を強化するよう促して、セールスマンの採用を増やした。後年、父が好んで語ってくれたエピソードに、次のようなものがある。ある日、父は画廊を訪ねた折りに、統計機分野におけるIBMの最大のライヴァル、レミントン・ランド社の総帥、ジム・ランドとばったり鉢合わせしたのだそうだ。大不況が泥沼の状態に陥っていた1933年のことである。さしもの父も参っていると見たのだろう、ランドはこう声をかけてきたという。「やあ、トム、君はまだセールスマンを雇っているのかね?」
父は答えた。「ああ、雇っているとも」
「そいつは驚きだ!」ランドは首をふった。「いまやどの企業も社員を一時解雇しているというのに、きみは新規にセールスマンを雇っているというわけか。それは豪気なことだな」
「私もこの道一筋でやってきた男だよ、ジム」父は答えた。「そしてもうすぐ60になる。この人生の節目を迎えた男にはいろいろなことが起きるものでね。急に飲酒に耽りだす者もいれば、若い女性に入れ揚げる者もいる。わたしのいけない癖はセールスマンを雇うことなんだ。だから、これからも雇いつづけるつもりさ」

これが別の業種だったら、父は破産していたかもしれない。けれども、IBMに関するかぎり、父の方針は正しかった--それに、幸運にも恵まれたと言っていいだろう。ニュー・ディールの間に、IBMの規模は倍に成長したのだ。1933年のはじめに全国産業復興法が成立すると、全企業は突然連邦政府に対し、史上未曾有の膨大な情報を提供しなければならなくなった。それを処理するために、政府官庁はIBMの機械を数百台と必要とした--ルーズヴェルトの、福祉、価格統制、公共事業計画を軌道にのせるためには、それしか方法がなかった。1935年に実施された社会保障のおかげで、"アンクル・サム"はIBMの最大の顧客となったのだ。膨大な情報に呑み込まれないようにする数少ない方法の一つは、IBMに電話を入れることだった。こうして、アメリカ全土の基本的な統計が、穿孔カードに入れられたのだった。(上巻 p.60)

2012年9月20日木曜日

景気循環型企業の経営者が考えること

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少し前に取り上げた『企業価値評価』第4版の下巻では、景気などの周期的変動による影響が大きい企業を評価するやりかたにも触れています。このような循環型の企業は、消耗品を扱う「質の高い」企業と違って年次ごとの利益が変動しやすく、企業価値が測りにくいものです。これは投資家にかぎらず、企業を経営する側にも同じことがいえるかもしれません。今回は、そういった企業の経営者が留意すべきだと本書の著者が主張する箇所を引用します。

企業の経営者は、業界の周期的変動の幅を減らす、ないしは、うまく利用できないだろうか。筆者の経験によると、残念ながら経営者はむしろ誤って変動の幅を大きくしてしまっていることが多い。(中略)汎用化学企業は、全体でみると、価格や収益性が高いときに巨額の投資をしていることがわかる。それによって生産能力が大幅に拡大するため、稼働率が急に下がり、結果として価格の低下やROICの低下を引き起こす。このような周期的な生産能力拡大への投資が、周期的な利益変動を起こす原因となっている。顧客の需要の変動が利益変動の原因ではなく、生産者の供給量の変化がその原因なのである。

自社の製品市場に関し、詳細な情報を把握している経営者は、資本市場よりも周期をよく理解し、適切なアクションがとれるはずである。しかし、実際には、それができないのはなぜだろうか。経営者らと議論してみると、このような行動には3つの要因があることがわかった。第1に、価格が高いときは手元に資金があるため、投資がしやすい。第2に、高い利益を生み出しているときほど、投資に対する取締役会の承認を得やすい。最後に、競合が自社よりも速いスピードで成長しているかどうかが問題である(投資はマーケットシェアを維持するための方策の1つなのである)。

このような行動は、資本市場にも紛らわしいシグナルを送ることになる。価格が高いときに事業を拡大すれば、資本市場は将来の見通しが明るいと考えるだろう。また、これは、業績が下降周期に入る直前に起きることが多い。反対に、業績が上昇に転じる直前の、悲観的なシグナルも、同様に市場を混乱させる。資本市場が周期的な変動のある企業の価値評価に苦労しているのは、驚くべきことではないのかもしれない。

経営者は、業界の周期についての理解をどうビジネスに生かせるのだろうか。最もわかりやすいのは、設備投資のタイミングをはかることである。加えて、ピークで新株発行を行い、谷の局面では自社株の買戻しを行うなど、財務戦略にも利用できる。

しかしより積極的な経営者であれば、もう一歩進んで谷の局面では買収を行い、ピークで資産売却を行うであろう。(中略)

しかし企業は、本当にこのとおりに行動できるのだろうか。実際には、業界の見通しが悪くて競合が業容を縮小しているなかで、自社だけ拡大すべく、取締役や銀行を説得する、あるいは競合が周期のピークで投資を増大させるなかで自社は投資を切りつめる、というように逆を行うのは非常に難しい。そこで、周期的な変動をより悪化させてしまうことが多いのだ。周期を断ち切ることは可能だが、それができるCEOは非常に少ない。(p.321)


「価格や収益性が高いときに巨額の投資をしている」の一文は、昨今の薄型テレビを思い起こさせるものです(過去記事)。また「経営者が適切なアクションをとれない」のくだりでは建前の発言が書かれていますが、実際には以下のような心理学的傾向が働いていたのではないでしょうか。
ウォーレン・バフェットが言うように経営者の人となりを把握したり、また業界や企業風土を把握することも投資家にとっては重要な仕事ですね。