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2018年12月31日月曜日

2018年投稿分からのおすすめ四選

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今年投稿した記事から、印象に残った4件を選びました。小粒で地味な記事ばかりですが、奥行きのある味わいを楽しめる文章です。なお、昨年分の自薦記事はこちらです。

<市場予測>

1. この良き時代に終わりは来ない(スティーブン・ローミック)
大衆が正しかった例は稀有であり、今回も例外とはならないようです。株価が後退する時期には、上昇するときよりも速やかに下落するものです。「この良き時代に終わりは来ない」と投資家が考える時期は、「この苦難の時代が終わるとは思えない」と投資家が考える時期へと姿を変えるのです。

<人生哲学>

2. 2018年デイリー・ジャーナル株主総会(4)正しい生き方とは
人生とは先の長いゲームで、易しい時期もあればむずかしい時期もあり、好機がやってくれば不運に見舞われることもあるわけです。だから正しい生き方とは、「あるがままを受けいれ、最善を尽くす」、そう歩むことです。

<知恵>

3. ミクロがわかってもマクロがわかるとは言えない(『次なる金融危機』)
高い層の現象を低い層のシステムから直接的に推定するのは不可能だという発見は、今では純正な科学では共通の認識だ。それが複雑なシステムにおける、いわゆる「創発(エマージェンス)だ。

ひとつの複雑システムの支配的な諸性質は、考えられた単独の要素の性質よりも、むしろ要素の相互作用に由来する。

<今年の名文句(迷文句?)>

4. ヨギ・ベラの卓見(ウォーリー・ワイツ)
しかしヨギ・ベラが言ったように、「理論と実践に理論上の違いはないが、実践してみると違いはある」ものです。

2018年12月24日月曜日

いつ買い始めればよいのか(後)(ハワード・マークス)

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前回の投稿のつづきで、ハワード・マークスによる「証券の買いどき」の説明です。『市場サイクルを極める 勝率を高める王道の投資哲学』からの引用文です。

だが、真意はこうなのではないか。「(とりわけ下げどまる前に買うこと、そして市場の状態が良くないことに)恐怖を感じるから、相場が底に達して混乱が収まり、先行き不透明感がなくなるまで待とう」。だが、これまで述べてきたことから、もうすっかりおわかりではないかと思うのだが、混乱が収まり、投資家の気持ちが落ち着いたころには、バーゲンは終わっているのだ。

オークツリーでは、底に達するまでは買わない、という考え方を徹底的に排除している。

・第一に、いつ底に達したのかを知る方法などない。ネオンサインが光って知らせてくれるわけではないのだ。その時点を過ぎてからでなければ、底に達したと認識することはできない。回復が始まる前の日というのが底の定義だからである。したがって、当然のように事後でなければ認識できない。

・第二に、欲しい資産を最大限に買うことができるのは、だいたいにおいて相場が下落しているときだ。ナイフを掴もうとしない市場参加者が傍観している間に、降伏した売り手から買うのである。だが、ひとたび相場が底に達して下げどまると、当然のように売り手はほとんどいなくなる。そして、その後の反騰の時期には買い手が優勢となる。売り物は枯渇し、買い志望者は競争の激化に直面するのである。

(中略)

確実性と精度を重視する方針に基づいて実施されるであろう他の多くの投資行動の場合と同じく、底打ちするのを待ってから買いはじめるのは非常に典型的な愚行である。では、底値に狙いを定めるのが間違いだというのなら、一体いつ買えばよいのか。答えは単純明快だ。価格が本質的価値を下回ったときである。価格が下がりつづけている場合はどうなのか。さらにお買い得になっているであろうから、買い増せばよい。したがって、最終的に成功を収めるために必要なのは、(1)本質的価値を推計すること、(2)初志貫徹するための精神的な強さを身につけること、(3)結果的に本質的価値の推計が正しかったと判明すること、の三つに尽きる。(p. 316)

上の引用文には重大な注意点があります。「価格が本源的価値を下回ったとき」が買いどきだとしていますが、ハワード・マークス氏自身が本書全般で触れているように、下落中の価格はさらに下落し続ける可能性が十分に考えられる点です。その方向性に対する感覚を学べるのが本書であり、それこそが本書の持つ最大の価値ですから、上記引用の字面だけをとらえて行動に移すのは早計だと思われます。

また価格下落については、高名な2人のバリュー投資家が教示してくれた言葉を以下の過去記事でご紹介しています。

3割下がっても、油断は禁物(セス・クラーマン)
「いずれ来たる下落を見やった投資家3名の言葉」中の、チャーリー・マンガーの言葉

2018年12月23日日曜日

いつ買い始めればよいのか(前)(ハワード・マークス)

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ハワード・マークスの新刊『市場サイクルを極める 勝率を高める王道の投資哲学』を読了しました。「市場サイクル」という言葉をみるとわかりきったことに思えるかもしれませんが、内容にはもっと奥行きがあり、新たに学べることのある一冊でした。ベテランの持つ知恵や業界的な話題もあり、中級以上の投資家の方にとっても一読する価値はあると思います。

本書では市場における価格変動サイクルの話にとどまらず、そのサイクルを構成する主要成分としていくつかのサブ・サイクルをあげています。そしてそれぞれについて事実や経験をもとに著者自身の見解を説明しています。具体的には、景気サイクル、企業収益サイクル、投資家自身の心理的サイクル、リスク管理面でのサイクル、信用サイクルなどです。これは言い換えれば、「市場価格の変動サイクルは、それらサブ・サイクルの合成や相互作用によって生じる」となります。この見解は本書の中核をなすもので、たしかに勉強になりました。その上でさらに参考になったのは、「個々のサブ・サイクル要因がどのようなベクトルを有しているかを考慮すべきだ」と示唆している点です。各サブ・サイクルの位相はある程度そろいやすいと思いますが、そうならないときに、世間一般とは違う自分独自の判断をくだす基盤となってくれる見方だと感じました。

さて、同書から今回引用する文章は、彼が率いるファンドであるオークツリーが投資に踏み切るタイミングについてです。個人的には、本書を読んで得られた即物的な大きな成果のひとつでした。今回は前半部だけ引用し、後半部は次回の投稿で取り上げます。残された後半の内容がどのようなものなのか、どうぞ想像してみてください。

2008年終盤の情勢を振り返っているところだが、このあたりで投資家が市場の底へと向かっている時期に、そして市場の底でどう振る舞うのかについて、話しておきたい。

そもそも底とは何か。サイクルの中で最も価格が低くなったところである。つまり底は、パニックに陥った資産保有者の最後の一人が資産を売った日、あるいは買い手よりも売り手が優勢だった最後の日と考えることができる。理由はさておき、価格が下がった最後の日であり、一番下に達した日である(もちろん、このような表現はかなり誇張されている。「底」や「頂点」といった言葉が表すのはたった1日ではなく、ある程度の期間だ。したがって「最後の日」と表現するのは、言葉のあやみたいなものである)。底を起点として価格は上昇する。それは、降伏し、売りに動く資産保有者がもはや存在しないから、あるいは売り手の売りたいという気持ちよりも、買い手の買いたいという気持ちがまさったから、である。

そこで次に出てくる疑問は「いつ買いはじめればよいのか?」である。以前の章で「落下するナイフ」という表現を用いたが、これは非常に重要な概念を表している。相場が滝のような勢いで下落しているとき、投資家はしばしば「落下するナイフを掴もうとはしない」という言葉を耳にするかもしれない。別の言い方をすると、「下落トレンドが続いていて、いつ歯止めがかかるかは知りようがない。底に達したと確信できるまで買わなくてよいのではないか」である。(p. 315)

(つづく)

2018年10月24日水曜日

2018年バークシャー株主総会(21)官僚主義について(後)

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バークシャー・ハサウェイ株主総会での質疑応答から、官僚主義に関する話題です。前回のつづきです。(日本語は拙訳)

<チャーリー・マンガー> それは、本社の要員が30名で、その半数が社内監査役とくれば、米国の大企業を経営するふつうのやりかたとは言えないでしょうな。

当然ながらもここで興味深いのが、当社は大企業ゆえに優位性をいくぶん失っている点です。しかしまた当社では、巨大官僚主義が招く数々の不利な点も持ち合わせていないですよ。本社を中心にして、会議また会議が延々連なるといったことがないからですね。

つまり正味でみれば、小規模な間接部門かつ分権型の方式を採用していることで、当社は大きく優位に立ってきたと思いますよ。さらにはそういったことが、凄腕で高潔な事業家を当社の一員に招き入れる要因にもなったでしょうね。

概して言えば、当社の今あるシステムはものの見事に機能してきたわけです。幾多の会社にみられるような、減らせば効率が上がる雇用状況ではないと思いますね。当社のやりかたでうまくいっているわけですから、それを変えることはまず考えにくいですよ。

<ウォーレン> そのとおりです。当社はさしずめ「ゼロベース未満予算」と言えると思います(笑)。

ぜひとも、本社のあるべき手本として、大幅に模倣され...

<チャーリー> これは単なる費用削減の話ではないですよ。官僚主義を消滅させることで、より良い意思決定がくだせるようになるわけです。

<ウォーレン> まさしくそのとおりです。

<チャーリー> 官僚主義とは、さながら癌だと言えますね。その振る舞いも、まさしく癌のようです(拍手)。

我々は非常なる反官僚主義でやっています。そのおかげで、良かったことがいろいろありましたよ。そう考えると当社は、頂点に達していたアンハイザー・ブッシュ社とはまるっきり異質な会社ですね。

CHARLIE MUNGER: Well, if you’ve got 30 people at headquarters and half of those are internal auditors, that is not the normal way of running a big company in America.

And what’s interesting about it is, obviously, we lose some advantages from big size. But we also lose certain disadvantages from having a big bureaucracy with endless meeting after meeting after meeting around headquarters.

And net, I think we’ve been way ahead with our low overhead, diversified method. And also, it makes our company attractive to very able, honorable people who have companies.

So generally speaking, the existing system has worked wonderfully for us. I don’t think we have the employment that could be cut effectively that a lot of other places have. And I think our methods have worked so well that we’d be very unlikely to change them.

WARREN BUFFETT: Yeah. I think if some - at headquarters, you could say we have kind of subzero-based budgeting. (Laughter)

And we hope that the example of headquarters is, to a great extent, emulated by our -

CHARLIE MUNGER: But it isn’t just the cost reduction. I think the decisions get made better if you eliminate the bureaucracy.

WARREN BUFFETT: Oh yeah.

CHARLIE MUNGER: I think a bureaucracy is sort of like a cancer. And it functions sort of like a cancer. (Applause)

And so, we’re very anti-bureaucracy. And I think it’s done us a lot of good. In that case, we’re quite different from, say, Anheuser-Busch at its peak.

2018年10月20日土曜日

2018年バークシャー株主総会(20)官僚主義について(前)

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バークシャー・ハサウェイ株主総会での質疑応答から、今回はおなじみの話題、企業における官僚主義についてです。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

25. 「官僚主義とは、癌のごとし」

<ウォーレン・バフェット> 次はベッキーがお願いします。

<ベッキー・クイック(質問者の代行)> 奥さんと共にロンドンに在住されている、アンガス・ハントンさんからの質問です。バークシャー・ハサウェイの株主になってから30年以上になるとのことです。

質問の内容は次のとおりです。「3Gパートナーズと提携して投資したクラフト・ハインツ等の会社では、ゼロベース予算がうまく機能していると報じられています。それでは、バークシャー・ハサウェイという巨大企業における別の領域の各経営者が、そういった費用削減の手法を使うと期待してよいものでしょうか」。

<ウォーレン> そうですね。概して言えば各社の経営者が、ゼロベース予算という点で多くの変化が生じるような位置づけにあるとは期待していません。これは、「始終そのように考えていないとは、一体全体どういうことなのか」とも言うことができます。

3G社の面々はおそらく主として要員の面で、また他の費用についても同様に、1ドルの費用が1ドルの価値を生み出していない支出が多々みられる状況に陥っていました。

そのため彼らは、そうあるべきではないと当初は考えていた状況へと、急速に変化させました。

そうだとしても、当社配下の各社経営陣に望みたいことは、たとえばGEICOの例では、同社を支配下に置いてから従業員の数が8,000名から39,000名になったと覚えています。しかし同社は、ものの見事に生産的な会社です。つまり、3G社のやりかたが何千人もの要員を取り除くには及ばないだろうということです。

その一方で、「それこそ大勢の要員を取り除くことができるものの、事業が端(はな)から非常に高収益であるがゆえに、人減らしを進めていない組織」を思い浮かべることもできます。

たばこ会社ではそのことが実際に起こっています。あまりにも儲かるので、あらゆる種類の人たちを抱えたまま、要員を減らす必要がありませんでした。ただただ、金が入ってきたのです。

当社配下の各経営者は、必要な費用以外をかけずして顧客満足度をできるだけ高めるために、異なった手段をとっています。

当社の経営者のなかには、ゼロベース予算あるいはそれと似たものを使っているところもあるかと思います。予算がわたしに提出されたことは一度もありません。つまり、わたしたちから要求したことが一度もないという意味です。バークシャーでは予算を立てたことがないのです。

当社では、連結ベースでの月次決算を作成していません。各社から個々に報告を出してもらってはいます。しかし余計な時間を費やして、4月末や5月末に連結の数字を出すといった作業をするべき理由などありません。

[事業の状況という意味で]今どこにいるのかは承知しています。フォーチュン500社のなかで月次の連結決算を作成していないのが当社だけなのは、おそらく間違いないでしょう。しかしバークシャーでは不要なことはしません。大企業でなされているさまざまな仕事は、不必要なものです。だからこそ、3Gは折に触れて機会を見出せるわけです。

チャーリーはどうですか。

(つづく)

25. “A bureaucracy is sort of like a cancer”

WARREN BUFFETT: OK, Becky?

BECKY QUICK: This question comes from Angus Hanton (PH), who - he and his wife are based in London, and he says they’ve been shareholders in Berkshire Hathaway for over 30 years.

He says, “We have all read about the zero-based budgeting that has been so effective with Kraft Heinz and other investments that you’ve done with 3G Partners. Can we expect these cost-reduction techniques to be used by your managers in other parts of the Berkshire Hathaway enterprise?”

WARREN BUFFETT: Well, in general, we do not expect the managers, generally, to get in the position where there would be a lot of change in terms of zero-based budgeting. In other words, why in the world aren’t you thinking that way all of the time?

The 3G people have gone into certain situations where there were - probably primarily in personnel, but in other expenses as well - a lot of expenses that were not delivering a dollar of value per dollar expended.

And so, they made changes very fast that - to a situation that probably shouldn’t have existed in the first place.

Whereas, we hope that our managers - take a GEICO. GEICO’s gone from, I think, 8,000 to 39,000 people since we bought control. But they’re all very productive. I mean, you would not find a way for a 3G operation to take thousands of people out of there.

On the other hand, I can think of some organizations where you could take a whole lot of people out, where it isn’t being done because the businesses are very profitable to start with.

That’s what happened with the tobacco companies, actually. They were so profitable that they had all kinds of people around that didn’t - weren’t really needed. But they - the money just flowed in.

So I - our managers have different techniques of keeping track of - or of - trying to maximize customer satisfaction at the same time that they don’t incur other than necessary costs.

And I think, probably, some of our managers may well use something that’s either zero-based budgeting or something akin to it. They do not submit budgets - never have - to me. I mean, they’ve never been required to. We’ve never had a budget at Berkshire.

We don’t consolidate our figures monthly. I mean, I get individual reports on every company. But there’s no reason to have some extra time spent, for example, by having consolidated figures at the end of April, or consolidated figures at the end of May.

We know where we stand. And - you know, I’m sure we’re the only company that - probably in the whole Fortune 500 - that doesn’t do it. But we don’t do unnecessary things around Berkshire. And a lot of stuff that’s done at big companies is unnecessary. And that’s why a 3G finds opportunities from time to time.

Charlie?