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2018年9月28日金曜日

この良き時代に終わりは来ない(スティーブン・ローミック)

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バリュー・ファンドFPAのマネージャーであるスティーブン・ローミックが、少し前に第二四半期のコメントを公開していたので、ご紹介します。引用する話題は、今後の市場動向を占ったものです。この手の話題は疑念を抱きながら目を通すようにしていますが、今回取り上げるチャートはそれなりに信頼できると感じました。(日本語は拙訳)

Second Quarter 2018 Commentary (FPA Crescent Fund) [PDF]

下図における青色の線は、S&P500の10年平均収益率[過去10年間であげた総リターンの騰落率を年率換算した値]を示しています。一方で緑色(若草色)の線は、家計部門が保有する金融資産のうち株式投資が占める割合を示しています。ただしこちらは10年先に進めて描線するとともに、縦軸の天地を逆転させています。それによって、S&P500収益率との相関関係がいっそう明確になるように表現しています。


この図において緑色の線は、西暦2010年に最底辺に達しています。ただし先に述べたように縦軸が逆転しているので、実際には頂点に到達していました。さらにグラフを10年分先に進めて描いているので、40%ほどの保有率に達していたのは実のところ10年早く、2000年のことでした。これは言い換えれば、家計部門による株式の保有割合が頂点に達したのは2000年であり、収益率がやがてマイナス一桁の値になることを示唆していたのです。まさしくそのとおりになりました。

この図に示したように、家計部門における金融資産中の[株式]保有率と、市場平均があげる将来リターン率の間にみられる負の相関が、56年間にわたって存在してきたことがはっきりとみられます。

それでは、現在の家計部門が金融資産の面でとっているリスクの度合いは、将来についてなにを言わんとしているでしょうか。それはつまり、米国市場の想定リターン率が一桁前半の数値へ向かおうとしていることです(図中で緑色の線が右端へと向かっている箇所は、青色の線がそちらへ到達することを暗示しています)。(p. 6)

The blue line on this chart below shows the trailing 10-year return of the S&P 500. The green line shows household equity as a percent of household financial assets, shifted forward ten years and flipped upside-down to more clearly depict its correlation to the S&P’s return.

You can see the green line reaching its nadir in 2010. That was really the peak - remember, the chart is flipped. Since it’s also shifted forward ten years, that peak of about 40% really occurred 10 years earlier in 2000. In other words, household investment in stocks hit a high in 2000 and suggested that returns would be negative single digits and that’s what happened.

The inverse relationship between household ownership of financial assets and future market returns has clearly been present for 56 years.

So what does today’s household financial asset exposure suggest about the future? Current exposure suggests that the US market’s projected return will converge towards the [low single digits] (the green line data point to the far right of the chart suggests that the blue line will end up there.)”

大衆が正しかった例は稀有であり、今回も例外とはならないようです。株価が後退する時期には、上昇するときよりも速やかに下落するものです。「この良き時代に終わりは来ない」と投資家が考える時期は、「この苦難の時代が終わるとは思えない」と投資家が考える時期へと姿を変えるのです。(p. 10)

The Crowd is rarely right, and this time is unlikely to prove the exception. When stocks do decline, they tend to fall more quickly than they rise. The good times that investors think will never end morph into bad times that investors think will never end.

2018年9月24日月曜日

<新訳>誤判断の心理学(チャーリー・マンガー)

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本ブログではチャーリー・マンガーの講演を順次ご紹介してきました。ただし「誤判断の心理学」と銘打った講演は抄訳にとどまっていました。今回からのシリーズでは同講演の全訳を拙訳にてご紹介します。引用元原書の版はExpanded Third Editionです。なお「講演」と呼んではいるものの、実際には各種講演をもとにした新たな「書き下ろし」エッセイとのことです。

誤判断の心理学
チャーリー・マンガーの講演3件から抜粋してまとめられた初出の文章。2005年にチャーリー自身が改訂し、相当量の文章が加筆修正された。

前書き

15年ほど前に心理学の話をしたときの各講演録を読み返してみたところ、当初の内容のほぼすべてを含みながらも、より論理的で、ずっと長い「講演」を生み出せることに気がつきました。

しかし、そうすることで次の4つの不利益が生じるだろうと、即座に思い至りました。

第一に、その長い「講演」は論理的にずっと完成された内容に書き上げられるはずだったので、多くの読者が当初の講演以上に退屈かつ混乱すると思われた点です。心理的傾向における独特の定義を扱う際に、心理学の教科書やユークリッド[数学]を連想させるようなやりかたをとるつもりでしたから、その可能性は考えられました。一体だれが、気晴らしのために教科書を読んだり、ユークリッドを学びなおそうと考えるものでしょうか。

第二に、私が身につけた心理学に関する知識のうち正式と言えるやりかたのものが、15年前にわずか3冊の教科書に目をとおした程度だった点です。そのため、心理学の分野でその後に発展したことは、事実上なにも知りません。さらに、長き論説にはみずからの推考を含み、はるかに学術的な心理学に対して批判をくだすことでしょう。このように素人がプロの領域へと侵入すれば、その領域の先生方が苦く受けとめるものも当然です。私のあやまちを嬉々として探し出し、私が開陳した批判に対して自説を以って反論する労を厭わないかもしれません。そのような新たな批判に、なぜ私が直面する必要があるのでしょうか。情報の面で優位な上に弁の立つ批判者からの追及を待ち望む人など、いったいどこにいるのでしょうか。

第三に、わが考察を披露した長き改訂版が、私に対して好意を持つまいと過去に心を決めた人たちから、必ずや批判を受ける点です。表現面や本質的な面に対する反論もあるでしょうが、そのほかにもあるでしょう。一介の老人が「伝統的な知恵にはろくに目を向けない態度を示す一方で、自分がなにひとつ受講したことのない教科に登場する話題を『まくし立てる』」姿に対して、傲慢とみる見解です。ハーバード・ロースクール時代からの旧友であるエド・ロスチャイルドは常々、そのようにまくし立てる心情を「靴用ボタン・コンプレックス」と呼んでいました。家族関連の知り合いが、靴用ボタンの事業で優勢的な地位を占めた後になってから、あらゆる話題を予言的に話していた様子にちなんで付けた呼び名でした。

第四に、私自身が間抜けぶりをさらしてしまう可能性がある点です。そういった非常に憂慮すべき4つの点があるにもかかわらず、以前の文章を拡充した版を発表することに決めました。私が何十年間にわたって成功を収めることができたのは、仕事やその方策において失敗する可能性が低い行動だけに限定してきたからこそと言えます[参考文献]。しかし今や私は、これから歩む道を選択しました。重大な個人的便益が得られることはなく、家族の一員や友人には確実に痛みをもたらすと共に、みずから醜態をさらしかねない道をです。それでは、なぜそのような道を歩むのでしょうか。

(つづく)

The Psychology of Human Misjudgment
Selections from three of Charlie's talks, combined into one talk never made, after revisions bv Charlie in 2005 that included considerable new material.

PREFACE

When I read transcripts of my psychology talks given about fifteen years ago, I realized that I could now create a more logical but much longer "talk," including most of what I had earlier said.

But I immediately saw four big disadvantages.

First, the longer "talk," because it was written out with more logical completeness, would be more boring and confusing to many people than any earlier talk. This would happen because I would use idiosyncratic definitions of psychological tendencies in a manner reminiscent of both psychology textbooks and Euclid. And who reads textbooks for fun or revisits Euclid?

Second, because my formal psychological knowledge came only from skimming three psychology textbooks about fifteen years ago, I know virtually nothing about any academic psychology later developed. Yet, in a longer talk containing guesses, I would be criticizing much academic psychology. This sort of intrusion into a professional territory by an amateur would be sure to be resented by professors who would rejoice in finding my errors and might be prompted to respond to my published criticism by providing theirs. Why should I care about new criticism? Well, who likes new hostility from articulate critics with an information advantage?

Third, a longer version of my ideas would surely draw some disapproval from people formerly disposed to like me. Not only would there be stylistic and substantive objections, but also there would be perceptions of arrogance in an old man who displayed much disregard for conventional wisdom while "popping-off' on a subject in which he had never taken a course. My old Harvard Law classmate, Ed Rothschild, always called such a popping-off "the shoe button complex," named for the condition of a family friend who spoke in oracular style on all subjects after becoming dominant in the shoe button business.

Fourth, I might make a fool of myself. Despite these four very considerable objections, I decided to publish the much-expanded version. Thus, after many decades in which I have succeeded mostly by restricting action to jobs and methods in which I was unlikely to fail, I have now chosen a course of action in which (1) I have no significant personal benefit to gain, (2) I will surely give some pain to family members and friends, and (3) I may make myself ridiculous. Why am I doing this?

蛇足ですが、チャーリーがなにかを説明するときには、冗長とも思える前振りを語ります。もちろんそれには理由があって、そのひとつが過去記事「<旧約>誤判断の心理学(24)他人に何かを頼むとき」で示されていると思います(再帰的なリンクになっている点にご注目を)。

2018年9月20日木曜日

ミクロがわかってもマクロがわかるとは言えない(『次なる金融危機』)

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次なる金融危機』という本を読みました。本書の主張をまとめると、「家計部門や企業(除金融)部門の債務が、GDPと比較して高い割合へ上昇するほどに、経済危機を招きやすく、かつ回復も遅れる」というものでした。主流の経済学派からは大きく逸れた見解らしいですが、一市民としての感覚からすれば納得できる仮説だと感じました。なお同書の著者は、過剰債務がみられる国として中国などを挙げ、大きな揺り返しがやってくること必至と予測しています。

その本題とは別に、同書から今回ご紹介するのはハード・サイエンス関連の話題です。本ブログで取り上げる話題のひとつに、「ものごとを分析する際には還元的に捉えよ」というものがあります。その「還元的分析」に関して注意をうながすような文章がありましたので、引用します。

以上のようなわけで、ミクロ経済学からマクロ経済学を導くことはできない。だが、だからといって、ブランシャールが言うように、広く受け容れられてきた分析的マクロ経済学の核心、つまりその検討と展開の場が、夢想かもしれないことを意味しない。すべての経済学者が賛成する基礎から出発して、マクロ経済学を導き出す道が存在するのだ。だが、実際にその道を進むには、これまで主流派が避けてきた考え--複雑性を受け容れねばならない。

高い層の現象を低い層のシステムから直接的に推定するのは不可能だという発見は、今では純正な科学では共通の認識だ。それが複雑なシステムにおける、いわゆる「創発(エマージェンス)だ。 [参考記事]

ひとつの複雑システムの支配的な諸性質は、考えられた単独の要素の性質よりも、むしろ要素の相互作用に由来する。(中略)

(マクロ経済学のような)高いレベルの現象は(ミクロ経済学のような)低いレベルの現象から導き出され得るし、また導き出されねばならない、という信念の誤りについては、1972年--ルーカスが講演するよりも前に--ノーベル物理学賞受賞者のフィリップ・アンダーソンがつぎのように述べていた。

「この種の考えの主な誤りは、還元主義的な仮説が決して『構築主義的』な仮説を意味しないことだ。あらゆる事柄を単純な法則に還元できる能力は、そうした法則から出発して宇宙を再構築する能力を意味しない」

アンダーソンは、物理学で、とくに「ミクロ」から「マクロ」へと延ばす(外挿する)態度を排斥した。そうした排斥が素粒子の振る舞いにあてはまるならば、人間の行動にはどれほど多く応用されねばならないのだろうか。

「素粒子の大きな複雑な集合体の振る舞いは、少数の粒子の性質の単純な外挿として理解されるべきではない、ということが分かる。そうではなくて、複雑性のそれぞれのレベルにおいて、新しい性質が現れるのだ。だから、新しい振る舞いの理解には、他の場合と同じように、その性質について私が基本的と思う研究を必要とする」

アンダーソンは、科学には階層が存在するという考えをすすんで受け容れた。つまり、諸科学をほぼ直線的に階層として配列できるというわけだ。その着想に従えば、「科学Xの基本的存在は、科学Yの法則に従う」(表1を参照)。しかし、彼は、X欄のどの科学もY欄の相当する科学の応用版として扱えるという考えを排斥した。

表1
XY
固体物理学もしくは多体物理学素粒子物理学
化学多体物理学
分子生物学化学
細胞生物学分子生物学
......
心理学生物学
社会科学心理学

「だが、この階層は、科学Xは『単なる応用Y』を意味するのではない。各段階でまったく新しい法則、考え、一般化を要する。それにはインスピレーションや創造性が、前段階と同じ程度に必要だ。心理学は応用生物学ではなく、生物学は化学の応用ではない」(p. 28)

なお本書の主張は冒頭に示したとおりですし、引用文を読まれてお気づきと思われますが、本書を読むために自腹で購入する必要はないと思います。あくまでも個人的な意見ですが。

2018年9月16日日曜日

2018年バークシャー株主総会(17)若きバークシャー株主諸君に告ぐ

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バークシャー・ハサウェイ株主総会での質疑応答からおなじみの話題、「バフェット以後」についてです。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

22. マンガーいわく、「我らが立ち去った後でも、心を移さず、株を売らぬべし」

<ジョナサン・ブラント> いいですか。

<キャロル・ルーミス> わたしの番を飛ばしていますよ。

<ウォーレン・バフェット> ええと、キャロルを飛ばしましたか。

<キャロル> そうです。

<ウォーレン> それはすみません。

<キャロル> いいですよ。

<ウォーレン> はい、それではお願いします。

<キャロル> この質問は軽い話題ではないと思います。モントリオールのギデオン・ポラックさんからの質問です。

彼はこう訊ねています。「1965年にあなたが指揮をとり始めてからバークシャー・ハサウェイの様相が変わったことは、世間が広く認めるところだと思います。当時のバークシャーは北東部で織物を製造する会社でした。それが今では、フォーチュン500のうちの第4位に位置する企業となりました。

「それでは、これからの50年間ではどうなるのでしょうか。2068年までのバークシャーはどのような姿をしているか、ご意見を披露していただけますか」。

<ウォーレン> それはずいぶん先のことだと思います(笑)。

残念ですが、わたしにはわかりません。50年前のときにも、今のようになっているなどわかりませんでした。

つまり、ある種の原則に従っていくとは思います。しかしそのころには、わたしとは違った考えをする人たちを見つけだして、会社を任せていると思います。また世の中も違っていることでしょう。

ただし、「世界中のどの大企業に劣らず、株主のことを考える企業」であってほしいとは強く願っていますし、そうなるに違いないと思います。株主をパートナーとして扱うでしょうし、自分たちを利するものとして会社の資金を使おうと考えるのではなく、自分の資金とまったく同じように使うことを心がけると思います。それ以外のことがどうなるかは、知るすべはないでしょう。

チャーリーはどうですか。

<チャーリー・マンガー> 私からは、若手の株主諸君に申し上げたいですね。我々が消え去った後に、さまざまな友人からの導きにしたがって、みなさんがバークシャー株を売却し、別のものに取り組むのであれば、そのほうが悪い結果につながると思いますよ(笑)。

ですから、「そのまま信頼せよ」と申し上げましょう(拍手)。

まあ、すでにそうしてしまったご家庭も数多くあるでしょうが。

<ウォーレン> みなさんからこれほど称賛されたのですから、次からはわたしも彼と同じように答えることにします(笑)。


22. Munger: Keep the faith and don’t sell your stock when we’re gone

WARREN BUFFETT: Jonathan?

JONATHAN BRANDT: Hello ?

CAROL LOOMIS: You skipped me.

WARREN BUFFETT: Did I skip ? I skipped Carol?

CAROL LOOMIS: Yup.

WARREN BUFFETT: Oh. I’m sorry.

CAROL LOOMIS: OK.

WARREN BUFFETT: OK.

CAROL LOOMIS: This question, and I would concede it is not a small one, comes from Gideon Pollack of Montreal.

He says, “The world knows generally how the looks of Berkshire Hathaway have changed since you began to run the company in 1965. Berkshire was then a tiny northeastern, textile company. And now it is the number-four company on the Fortune 500.

“What about the next 50 years? Could you give us your view of what Berkshire looks like in 2068?”

WARREN BUFFETT: I think it’ll look a long way away. (Laughter)

No, the answer is I don’t know. And I didn’t know, 50 years ago, what it would like now, I mean -

It will be based on certain principles. But where that leads, you know, we will find out and we’ll have people that are thinking about different things than I am. And we’ll have a world that’s different. But -

We will be - I very much hope and believe that we will be - that we’ll be as shareholder-oriented as any large company in the world. We will look at our shareholders as partners and we will be trying to do with their money exactly what we’d do with our own, not seeking to get an edge on them. And who knows what else will be happening then?

Charlie?

CHARLIE MUNGER: Well, I want to talk to the younger shareholders in the group. Those of you who, after we are gone, sell your Berkshire stock and do something else with it, helped by your many friends, I think are going to do worse. (Laughter)

So I would advise you to keep the faith. (Applause)

By the way, some of that has already happened in many families.

WARREN BUFFETT: I’ll give his answer next time now that I see it get all of that applause. (Laughter)

ウォーレン以降のバークシャーがどうなるのか。以下の過去記事ではチャーリーがその予想を披露しています。

2014年度マンガーからの手紙(4)ウォーレン・バフェットが去った後

2018年9月12日水曜日

中国が米国にもたらした、ささやかで劇的な日常(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーのインタビューのつづきです。今回は質問者が投げかけた下世話な問いに対して、チャーリー・マンガーは直接的には答えず、そのかわりにコスモポリタニズム的な話題を展開しています。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

なお文中に登場する著作『プーア・チャーリーの暦(Poor Charlie’s Almanack)』は、チャーリーの主要な講演をまとめた本です(ほかに、チャーリーに関連する文章も掲載されています)。ご存知とは思いますが、本ブログでは同書に含まれる全講演を訳出してあります。それらの記事に関する目次は以下のとおりです。ただし「講演その11: 誤判断の心理学(Talk 11: The Psychology of Human Misjudgment)」は抄訳にとどめていたため、遠からず全訳に取り組むつもりです。

(目次)チャーリー・マンガーの主要記事

<質問者> バークシャーの年次総会に参加するために、今年は1万名を超える中国人がオマハにやってきました。総会では中国に関する話題がよく取り上げられています。マンガーさんのお話しでは、「中国の将来は非常に明るく、中国での潜在的な投資先をこれまでに探してきた」とのことでした。それでは、現在の中国は投資環境の面でどういった時期にあるとお考えですか。現在の中国市場は、ちょうど米国市場の1973年や1974年、あるいは1982年のような段階でしょうか。また中国で物色されているのは、どの領域のものでしょうか。

<チャーリー・マンガー> 実に奇妙な事態だということは承知していますよ。ニューヨーク・タイムズ紙からは、「なぜバークシャー・ハサウェイやチャーリー・マンガーが、かの人々に人気があるのか」という質問を受けました。例の書物『プーア・チャーリーの暦(Poor Charlie’s Almanack)』のせいもあるでしょうが、それではなぜ中国人はあの本を好むのでしょうか。その答えは儒教を感じさせるからだと思いますね。中国には儒教の教えが深く根差しています。裕福だったり権力を有していたとしても、礼節を重んじることが要求されます。絶えず学ぶことを忘れず、品格と分別をもって行動することを良しとします。年を経てさらに充実し、働き続けるわけです。そういった教えはひとつの国に限定されはしませんが、おどろくべきことにウォーレン・バフェットや私が、儒教的な価値観を重要視してきたさまざまな人たちと同じように振舞ってきたのも事実です。

それから、ウォーレンや私が実のところ中国人を好んでいる、という理由もありますよ。もちろん人間とは自分を好む相手のことを好むものです。それでは、なぜオマハの二人組が中国人をひいきにするのだと思いますか。実は、多くの中国人が理解していない点があるのですね。米国人という観点から中国をながめると、こんな感じになるのですよ。中国人がはじめてやってきたころ、ここではシエラネバダ山脈を越える大陸横断鉄道を敷設しようとしていました。冬のさなかにひどい山道を通って険しい山々を越えようとする仕事で、だれにも果たせませんでした。不可能でした。人々が死に至ったのも、ひどく難事業だったからです。そこで、1万5千人ほどの中国人労働者が呼ばれました。当時の彼らは奴隷も同然でした。その労働者を冬季の山へと送り込み、鉄道を敷設するように言い渡しました。すると彼らは成し遂げたのです。アメリカ人だけでは成し得なかったことをです。もちろんそのことが非常に好ましい印象を残しました。そして月日は流れ、現在はアジアからの移民がたくさんやってきています。そういったアジア出身の人たちが米国で何を成し遂げたでしょうか。アジアからやってきた人たちは早々に、医者や法律家、学者、事業家などになりました。目ざましい成功をおさめました。以前の交響楽団をみれば、中国人は含まれていなかったものです。しかし今日では、練習をしている人たちをながめたときに、難易度の高いあらゆる楽器をうかがえば、そこには中国人の顔がみられます。この国で大きな成功を収めつつある人には有名な人たちもおり、当然ながらそのことは大きな問題とはなっていません。ですから、我々が中国人を好むのも当たり前と言えるわけです。

私が思うに、中国本土で暮らす普通の人たちは、米国でうまくいっている中国のイメージがどのようなものかを理解していませんね。これから極端な話をしますが、だれも想像していなかったでしょうし、だれも口にしたことがないことです。それというのも、かつて中国ではひどい貧困が続きましたし、人口が多すぎました。そこで、アメリカ人の夫婦が子宝に恵まれなければ、中国へおもむいて非常に貧しい家庭から中国人の女の子を養女に迎えることができました。ほどなくすると、米国における主要なあらゆる都市の人たちは、遠い中国の農地で産まれた望まれぬ女の子を引き取ってきたことで、「良い赤ちゃんを迎え入れた」と考えるようになりました。そういった赤ん坊は平均してみると、米国人の子供たちよりも健全に成長していきます。だから養子を欲しがる人たちはだれもが、米国の子供を欲しがらないのです。彼らが求めるのは中国人の女の子です。ことごとく立派に育ったからですね。中国本土の人たちは、それがどれだけ極端なことだったのか理解していません。米国におけるあらゆる町で起きてきたことなのですよ。米国のあらゆる私立学校では、中国の田舎から棄てられた女の子たちであふれています。彼女たちが取る成績はオールA、そのうえ表彰も受けています。当然ながら、このことは良い印象をもたらしました。全米でみられる、実に劇的なできごとですよ。

Question: There are more than 10,000 Chinese who came to Omaha to attend this year’s Berkshire’s annual meeting. China is a focus among those topics. Mr. Munger mentioned that the future of China would be very bright and you had already looked for potential targets in China. What kind of investment environment period is China now in? Is China’s market like the U.S. market in 1973, 1974 or even 1982? And what areas have you looked at to find your potential targets in China?

Munger: I know it’s very peculiar, and The New York Times asked me why are these people so interested in Berkshire Hathaway and Charlie Munger. Partly the book ("Poor Charlie’s Almanac"), yes, but why do the Chinese like the book? I think the answer is it sounds Confucian. China has a deep Confucian ethos. They want people to act modestly even though they are rich and powerful. They want people to constantly keep learning and behave with dignity and reason, and improves as they get old and keep working. Those lessons are not confined to one country. But it just happens that Warren Buffett and I act like much of the people who take Confucianism very seriously.

The other reason is that Warren and I really like the Chinese. And of course everybody likes people who like them. Now you say, why have the Chinese got so popular with the couple of Omaha boys? There’s something that a lot of Chinese don’t understand. If you look at China with a viewpoint of a U.S. citizen, here is what you see. The Chinese first came in here, trying to build the Sierra, the trans-continental railroad, in the winter through horrible passes in the steep mountains. Nobody could do it. It was impossible. They were dying and it was just too hard. So they brought in like 15,000 Chinese labors, who in those days were practically slaves, and they took those labors to the mountains in the winter and said you build the railroad. And they did. And the Americans couldn’t do it by themselves. That of course made a very favorable impression. While fade in fade out, now we have Asians immigrants. What have those Asians done in America? Well they come in and rapidly become doctors, lawyers, professors, businessmen and so forth, and succeeded mightily. If we go to a symphony orchestra, which used to have no Chinese. Every instrument that’s hard to play, and pick someone that are doing practice, you look up the instruments, there’s a Chinese face. Of course we find people popular who are succeeding so much in our country and not causing a lot of troubles. So naturally we like the Chinese.

And I don’t think the ordinary person on mainland China understands what an image of success China has in the United States. And the most extreme thing of all, nobody could have anticipated and nobody ever talks about it, it’s because there was so much poverty in China and it was so overpopulated, if an American couple were unable to have children of their own, they can always go to China and adopt a Chinese girl of a very poor family. So in every important city of America, people soon learned they got better babies, taking the unwanted Chinese girls from the remote Chinese farms. Those babies on average work out better than their own children. So everybody if they want to adopt a child they don’t want an American child. They want a Chinese girl. And of course all those girls worked out well. And most people in China don’t realize how extreme that’s been. That’s happened in every American city. Every American private school is full of the discarded Chinese girls from the Chinese countryside. They are getting all As and winning prizes. Of course they made a favorable impression. It’s just dramatic it’s all over America.