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2014年10月30日木曜日

物理学を理解するには(リチャード・ファインマン)

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ファインマン物理学(第3巻)電磁気学』を拾い読みしていたところ、示唆に富んだ文章があったのでご紹介します。なお、原文はカルテックのWebサイトで公開されています(ただし、巻構成は日本語版と異なります)。

The Feynman Lectures on Physics (California Institute of Technology)

物理学者が問題をいくつかの見方からみるために手段を必要とする。現実の物理現象の正確な解析は大へん複雑なのが普通であって、物理的状態のどれをとっても複雑すぎて、微分方程式を解いて直接に解析できないほどである。しかし条件のちがう場合に対する解の性格についてある感覚を持っていれば、体系の振舞について適切な理解をもつことは可能である。場の線、容量、抵抗、インダクタンスなどの概念はこの目的に極めて役に立つ。従ってこれらの分析に今後かなりの時間を使うことになる。こうして、電磁気の事情がちがうときに何が起こるかについてある感覚をもつようになる。しかしながら、場の線のような発見的な模型で、すべての場合に適切で正確なものは一つもない。法則を表す正確な方法は唯一つしかなく、それは微分方程式を使う方法である。これは基礎的であり、我々の知る限り正確という利点をもつ。諸君がもし微分方程式を知っていれば、いつでも微分方程式に立ちもどればよい。習い残したことなど決してないのだから。

事情がちがうとき、何が起こるかを知るまでには少し時間がかかる。そのためには方程式を解かねばならない。方程式を解くたびに、解の性質について少し覚えることになる。解を覚えておくためには、場の線とかその他の概念を使って勉強するのは役に立つ。このようにして実際に方程式を"理解"できるようになる。数学と物理学のちがいはここにある。数学者や非常に数学的な心を持つ人は物理を"勉強"するとき迷ってしまうが、それは物理学を見失うからである。彼等はいう。"いいですか、これらの微分方程式 -- マクスウェル方程式 -- は電磁気学のすべてです。方程式に含まれていないものは何もないと物理学者は言います。なるほど方程式は複雑ですが、要するに数学的な等式にすぎません。従って方程式を数学的に理解し尽くせば、物理学を理解することになる筈です"。 残念なことにそうはいかない。物理をこういう考えで勉強する数学者 -- こういう人が沢山いた -- は物理学に貢献することがなく、実は数学にも貢献することがないのが普通である。彼等が失敗するのは、現実の世界の物理的状態は非常に複雑であるので、方程式のもっと広い理解が必要となるからである。

方程式を理解するとはどういうことか -- つまり、厳密に数学的な意味以上に -- これについてはディラックが次のように言っている。"実際には解かないで解の性質を知る方法があるとき私は方程式の意味を理解する"。従って、方程式を解かないで与えられた情況の下で何が起こるべきかを知る方法をもつときに、この情況に応用された方程式を"理解"しているのだ。物理的な理解は全く非数学的、不確実で不精確なものであるが、物理学者にとっては絶対に必要である。 (p.14)

前回などの投稿で、チャーリー・マンガーが「物理学はとても役に立つ」といった発言をしていますが、その一端がうかがえる文章だと思います。またものごとを考える際の一例として、p.11では「一番便利な眺め方は何か」を問うべきだと記しています。これも重要な示唆ですね。(関連記事)

もうひとつ、こちらはおまけです。

人類の歴史という長い眼から、たとえば今から1万年後の世界から眺めたら、19世紀の一番顕著な事件がマクスウェルによる電磁気法則の発見であったと判断されることはほとんど間違いない。アメリカの南北戦争も同じ頃のこの科学上の事件に比べたら色あせて一地方の取るに足らぬ事件になってしまうであろう。 (p.13)

世紀の天才ファインマンは、人類が遠い将来まで存続する可能性をどのように推し量ったのでしょうか。いずれ機会があれば考え直してみたい設問です。

2014年10月28日火曜日

ノーベル物理学賞の中村修二氏とチャーリー・マンガーがつながるところ

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次の1月にはチャーリー・マンガーは91歳になります。社会貢献はやや急ぎ足のようで、Forbesの記事から引用します。(日本語は拙訳)

Charles Munger, Buffett's Right Hand, Donates $65 million to Theoretical Physics Institute (Forbes)

(KITP ResidenceのWebサイトより)

バークシャー・ハサウェイの副会長を務めるビリオネアのチャーリー・マンガーはこの金曜日に、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)理論物理学科の発展を支援するために6,500万ドルを寄付すると発表した。寄付金は、同校カブリ理論物理学研究所付きの来訪者用宿舎を建設するために充当される。なお同校所属の物理学者[中村修二氏]が、今月のはじめに2014年ノーベル物理学賞を受賞した。

今回マンガーから贈与される資金は、個人からの寄付としては同校史上最大のものである。

「この宿舎はUCSBにとって極めて有用なものになるでしょう。最善を尽くした建物として、物理学者が経験できる最良のものを提供するようになります。これ以上の場所は他では望めないと思います」。発表の中でマンガーはそう語った。「物理学者がお互いを知り、話を交わし、信頼しあうことから得られるものは、莫大なものになります。このことは実に何十年も前から認識されていたものの、ずっと実現できませんでした。今や世界中にいる仲間を集めることができます。そうして集まった人たちがお互いに発展を促せるようになるのです」。

(中略)

「私の人生において、物理学は非常に有益なものでした。その論理や、それ自身が持つ能力ゆえにです」。つづけてマンガーはこう語った。「微積分とニュートンの法則が組み合わさることで何ができるのか、それによって自分に解決できるものは何か。それらをひとたび理解すれば、物事を正しく成就させる科学の持つ力に対して深く畏れ入ることでしょう。物理学は付随的な便益も生み出すのです。 物理の世界で『科学の威力』を実感できるほどには、他の領域で感じることはできないと思います」。(関連記事)

Berkshire Hathaway vice-chairman and billionaire Charles Munger is giving $65 million to support the growth of the theoretical physics department of University of California Santa Barbara. The donation, announced Friday, will help construct a visitor-housing building at the university's Kavli Institute for Theoretical Physics, where a professor won the 2014 Nobel Prize in Physics earlier this month.

Munger's gift is the largest individual donation in the university's history.

"This residence is going to be hugely helpful to UCSB. This building will be about as good as it can get and offer as good an experience as a physicist can have - and I don't think you could have a better place on earth to do it," Munger said in the announcement. "Physicists gain enormously from knowing one another and talking to one another and trusting one another. That's been recognized for a great many decades, but for a long time it just wasn't feasible. Now we can get people together from all over the world and these people can cross-fertilize each other."

"Physics has enormously helped me in life - the logic and power of it," Munger said in the announcement. "Once you see what a combination of calculus and Newton's laws will do and the things you can work out, you get an awesome appreciation for the power of getting things in science right. It has collateral benefits for people. And I don't think you get a feeling for the power of science - not with the same strength - anywhere else than you do in physics."

UCSBのWebサイト、ホームページではお二人の写真が並んでいました。

(UCSBのWebサイト、2014年10月27日付)

2014年10月26日日曜日

2014年バークシャー株主総会; ウェルズ・ファーゴを選んだ理由

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2014年5月に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会で、ウォーレン・バフェットが2008年の世界金融危機当時に下した投資判断をふりかえります。興味ぶかい内容です。(日本語は拙訳)

<質問33> 投資先の候補をどのように比較しているのか、もう少しご説明頂けますか。2008年や2009年には、お気に入り銘柄を買い増しすることもできました。当時とった行動と比較して、コカ・コーラ社やムーディーズ社のような企業を買い増していればどうだったでしょうか。もっと集中したポートフォリオのほうが、バークシャーはより大きな成果をあげられたのではないでしょうか。

<バフェット> それは、わたしたちが気にいっている銘柄が2008や2009年にどれだけ打ちのめされていたかによります。しかし2008年に相当な金額を費やしたのは早すぎでした。160億ドルを使ったのが2008年の9月や10月でしたが、市場の底はそれよりもかなり下まで行きました。またMars社の案件[リグリー社買収]で60億ドルを出しましたが、その件も動くのが早かったと思います。「じっと待ち構えて、底に達した時点で一度に資金を投入する」、そうしていれば全然違う結果だったと思います。目をみはるタイミングになっていた可能性もありますが、どうすればそうできるのかは、わたしたちには到底わかりえないことです。しかし2009年10月に買ったBNSFは、やがて当社の大きな部分を占めることになると思います。ハーレーダヴィッドソン社の債券を利率15%で買ったのは、株式を買っておくべきでした。しかし、いつであってもそれが現実というものでしょう。現在のわたしたちの規模や範囲からすれば、すばらしい経営陣が率いる良い事業を妥当な金額で買い、長期にわたってその会社を発展させることができれば、と考えています。ただし事業を加える際には、株式を追加発行せずに済ませたいですね。過去を顧みれば、以前よりはうまくできるだろうと思います。このゲームでは引き続きうまくやれると思っていますが、永々と続けられるわけではありません。しかし興味をひくものはまだ残されています。

<マンガー> [バークシャーでは]非公開の子会社が大きな割合を占めるようになってきました。昔は株式の額のほうが大きくて子会社はそうではなかったのですが、今では子会社のほうが大きいですね。

<バフェット> 株の成否は[バークシャーの成績として]純資産に現れますし、事業の成否は将来得られる利益に現われます。ですから、あちこちへと渡り歩く必要はありません。わたしたちが次の段階へと進んだからですね。

<マンガー> 我々がささやかな資金で投資していた頃は、どん底のときにいくらかは買うことができました。しかし今となっては、意味があるほどの株数をその値段で買うことはできません。一方、事業を買うときには大きなポジションをとれます。こうせざるを得なくなったのも、我々が過去に成功したせいです。アルバータ州[カナダ]の送電線を買う案件、あれはいいですね。ひどいことは何も起きないですよ。

<バフェット> そうなったとしても、わたしたちにはわからないでしょうね。

<マンガー> 我々は適応してきましたし、変化が生じたことで我々にとってずいぶんと有利に働きました。今後も望ましい変化が起こるかもしれません。物事が移り変わることは不可避なのですから、どうやってそれに適応するかがカギとなるわけです。

<バフェット> わたしたちはこの数年間にウェルズ・ファーゴの株をかなり買いました。ですが増えた資産のほとんどは、それより質の低い諸銀行を買ったおかげでした。彼らが回復するには、経済が好転する必要があったのですね。しかしウェルズ・ファーゴを買うとなれば100%安心できますが、他を買う場合の安心感は50%です。それで、いちばん安心できるほうを選んだわけです。

Q33: Station 11. Philadelphia. Fund manager. Can you expand on how you compare investment opportunity? When you can buy more of a favorite in 2008/2009, how did case of more of company like Coke or Moody's, compare with other things which you did. Could Berkshire have achieved more with more concentrated portfolio?

WB: Depends on which favorite name we had was hit harder in 2008/2009. I spent a considerable amount too early in 2008, and bottom was quite a bit lower than Sept and Oct of 2008 when we spent $16bil. We were also committed to $6bil of Mars funding, which we had committed earlier. We didn't do as remotely as well if we had kept powder dry and spent it all at once at bottom. Timing could have been improved dramatically, but we will never be able to figure out how to do it. But we bought BNSF in Oct 2009 which will be enormous part of our future. When we bought HD bonds at 15 we should have bought the stock, but that will always be the case. What we want to do at our present size and scope, we want to buy good businesses with great management at a reasonable price and try to build them over time. We want to be able to add them without issuing shares. Looking back we can do it better than we've done it. I feel the game is still a viable one, but it can't be forever. But still has juice left in it.

CM: Private businesses have gotten to be a bigger portion. We used to be worth more in stock, not privates, but now bigger in privates.

WB: When right on stocks, shows up in net worth, and when right on businesses it shows up in future earnings. It doesn't require us going from flower to flower. We've moved into phase 2.

CM: When we were just investing modest amount of capital we could get a little bit at the bottom, but there is no significant volume of shares at that price. When we buy businesses we get large positions. We are forced into this by past success. I love buying transmission lines in Alberta. Nothing horrible will happen.

WB: If it does we won't know it.

CM: We have adapted and the changes have been very much in our interest. There may be future changes just as desirable. Since change is inevitable, how you adapt to it is the key.

WB: We've bought a fair amount of Wells Fargo over last few years. But the most money was made by buying banks of lesser quality. They needed better economy to recover. But we felt 100% comfortable buying Wells Fargo, and 50% comfortable somewhere else, so we went where we were most comfortable.

2014年10月24日金曜日

手間をかけた決断で大損をしたGM(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の3回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

しかしみなさんはこう考えるかもしれません。「私の財団では寄付金の集まりは良好だし、最高の人材を集めており、投資上のあらゆる問題に対処する際には熟慮の上で客観性を重視したプロ意識を以って取り組んでいる。だから少なくとも平均以上のはずだろう」と。それでは私からはこうお答えしましょう。プロ意識とみなされるものが行き過ぎると、そのせいでひどい目にあうことが往々にしてみられます。そうなる理由はずばり、慎重な手続きを踏むこと自体が、結論に対して過剰な自信を持つきっかけとなりやすいからです。

つい最近ゼネラルモーターズ(GM)がそのような過ちを犯し、とびっきりな顛末となりました。手の込んだ消費者調査を実施して、行き過ぎたプロ根性を発揮した結果、[ピックアップ・]トラックには4つめのドアを付けないと結論を下したのです。そのトラックは、5名がゆったり乗れる乗用車に相当することも狙って設計されたものですよ。一方の競合他社はもっと基本的なやりかたをしました。実際に5人が車から乗り降りする様子を観察したのですね。さらには、5名が快適に乗れる乗用車ではドアが4つとも利用されていることに、彼らは気がつきました。生き物とは一般に定型動作にはなるべく労力をかけず、ずっと享受してきた便益を捨て去りたいとは考えないものだ、とわかったのです。GMが下したお粗末な、やがては何百億円も吹き飛ばすことになる決定を吟味した際に、私の脳裏にさっと浮かんだ言葉はわずかに2語だけでした。そのひとつが「やれやれ」です。

同じように最近の話ですが、「ロングターム・キャピタル・マネジメント」という名で知られているヘッジファンドが、極度な借り入れに依存する手法を過信したために、つぶれてしまいました。主要な人物のIQの平均は、間違いなく160はあるにもかかわらずです。頭が切れて徹底的に働く人たちでしたが、自信過剰がもたらす職業上の災厄からは逃れられませんでした。彼らのような人たちは、自分たちには卓越した才能と手法があると自己評価し、それゆえに選んだ一層困難な旅路をさまよってしまうことがよくあります。

ものごとを考える上で用心を重ねるのは良いことばかりではなく、それによって過ちが加わることもあります。それを苛立たしく感じるのは当然でしょう。しかし良きこととは、ほとんどにおいて望ましからぬ「副作用」を有しているものです。これはものごとを考える際でも例外ではありません。それを防ぐ最良の方法とは、次の言葉に示される心がまえを抱いた最上の物理学者たちが、体系的な自己批判を徹底するやりかたです。ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンによる言葉です。「最初にくる原則とは、自分自身をごまかさないこと。なんといっても、自分をだますのがいちばん楽だからね」。

しかし異常なほどに現実的な財団がファインマンのように考えることで、投資による成果が将来低迷するのを恐れたとしましょう。なぜかと言えば、「借入れをせずに株式へ投資しても、投資にかかる全費用を控除した上で株式インデックスを凌駕できる」と仮定したくないからです。それというのも、単に財団が「ファンド・オブ・ファンズ」の道を選んでいるからですね。売買回転率が高い上に、自らを平均以上とみなしている何層もの投資顧問を使っているわけです。さて、それではこの怖がりの財団が明るい見通しを得るには、どのような選択肢が考えられるでしょうか。

But, you may think, my foundation, at least, will be above average. It is well endowed, hires the best, and considers all investment issues at length and with objective professionalism. And to this I respond that an excess of what seems like professionalism will often hurt you horribly - precisely because the careful procedures themselves often lead to overconfidence in their outcome.

General Motors recently made just such a mistake, and it was a lollapalooza. Using fancy consumer surveys, its excess of professionalism, it concluded not to put a fourth door in a truck designed to serve also as the equivalent of a comfortable five-passenger car. Its competitors, more basic, had actually seen five people enter and exit cars. Moreover they had noticed that people were used to four doors in a comfortable five-passenger car and that biological creatures ordinarily prefer effort minimization in routine activies and don't like removals of long-enjoyed benefits. There are only two words that come instantly to mind in reviewing General Motors' horrible decision, which has blown many hundreds of millions of dollars. And one of those words is: "oops."

Similarly, the hedge fund known as "Long-Term Capital Management" recently collapsed through overconfidence in its highly leveraged methods, despite I.Q.'s of its principals that must have averaged 160. Smart, hardworking people aren't exempted from professional disasters from overconfidence. Often, they just go around in the more difficult voyages they choose, relying on their self-appraisals that they have superior talents and methods.

It is, of course, irritating that extra care in thinking is not all good but also introduces extra error. But most good things have undesired "side effects," and thinking is no exception. The best defense is that of the best physicists, who systematically criticize themselves to an extreme degree, using a mindset described by Nobel laureate Richard Feynman as follows: "The first principle is that you must not fool yourself, and you're the easiest person to fool."

But suppose that an abnormally realistic foundation, thinking like Feynman, fears a poor future investment outcome because it is unwilling to assume that its unleveraged equities will outperform equity indexes, minus all investment costs, merely because the foundation has adopted the approach of becoming a "fund of funds," with much investment turnover and layers of consultants that consider themselves above average. What are this fearful foundation's options as it seeks improved prospects?

(後席ドアあり)

(後席ドアなし)

2014年10月22日水曜日

2013年度バフェットからの手紙 - (付録)企業年金制度について(3)

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ウォーレン・バフェットがワシントン・ポストのキャサリン・グラハム向けに書いた企業年金制度に関する注意について、3回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

保険数理上の基本的な諸原理に関する説明

ここで、理解しておくに値する保険数理的な原理を説明します。ただし専門用語や注記に頼らずに、あなたのご家庭を例にしてみましょう。さて、反故にできない約束をあなたが個人的に交わしたとします。たとえば4人のお手伝いさんに対して、65歳[定年]に達したらそれ以降は毎月300ドルの年金を支払うとの約束です。話をかんたんにするために、全員の現在の年齢は55歳としておきます。さて、約束したのが今だとすれば、まさしく今日からあなたの純資産は70,000ドル減ったことになります。(単純化するために、性別などの要因は無視しています。たとえば女性は長生きするのでその分費用がかかりますし、また65歳以前に亡くなることもあります。それらを考慮した計算こそ、アクチュアリーが輝く時です)

なぜたちまちのうちに70,000ドル分を損したことになるのでしょうか。70,000ドルを手元から除けて7%の利息がつく投資へ回し、得られた利息はそのまま複利で増やすとしたら、元手とした資金は10年後、つまりお手伝いさんが65歳に達した時にはだいたい140,000ドルまで増えることになります。年間3,600ドルを受け取れる終身年金を買うには、一人あたり35,000ドルが必要です。それで140,000ドル全額が使われます。つまりそのような約束をすれば、今後10年間はびた一文払う必要はないのですが、法的あるいは道義的な義務が発生して、今日の時点で支出を計上しなければなりません。その金額が70,000ドルです。

それではここから話しをもう一歩進めましょう。お手伝いさんはそれぞれ毎月600ドルの給料を得ているとします。そして定年退職後に毎月300ドルの年金を支払う代わりに、退職時給与の50%を[毎月支払う金額として]約束するとします。もし給与の増加率が年率7.2%だと仮定すると、その数字は往々にしてそうなると思われる値ですが、65歳になったときには毎月1,200ドルの給料を受け取ることになります。その場合お手伝いさんにした約束を果たすには、年金を買う費用として一人あたり70,000ドルが必要です。すると現在の給料50%分から定年退職時の給料50%へと約束を変更したことで、現時点で実際に計上すべき費用は、当初元手のちょうど2倍分に変わります。つまり現時点で手元から除けておく金額は70,000ドルではなく、140,000ドルになります。

多くの年金制度では、[計算の際に]最終平均報酬月額を使っています(よく使われるのは、定年退職前直近5年間の平均、あるいは雇用期間の最終10年間において総額が最高だった連続5年間の平均)。一方、雇用期間中の平均報酬月額を使うところもあります。どちらを採用すべきかは論じませんが、文言のわずかな違いによって費用面で大幅な差異が生じうることを、ここでは示しました。

当然ながら、労働集約的な事業における年金費用は巨額になり、費用の全体像をみる際に重要な変数となる可能性があります。高インフレ率の特徴がある社会においては、なおさらです。冗長になりますが、後者によって生じる影響を強調しておきます。というのもわたしの知っているほとんどの経営者や、政府の年金制度では選出された役人の事実上全員が、相対的に痛みが少ないので今の時点で約束をするものの、それによって社会が負うことになる債務の全体像はきちんと把握しないからです。公的な領域では多くの場合、大部分のツケは次の世代へと先送りされ、増税あるいは輪転機の回転を増やして支払うことになります。しかし企業の場合、これから将来の売上によって債務を賄う必要があります。その際には利子の支払いがあったり、実際には生活費の上昇に伴って費用増になることがよくあります。 (p.119)

Illustrated Elemental Actuarial Principles

To illustrate a few actuarial principles worth understanding, but without employing the technical jargon and the asterisks, let's use the example of your household. Assume that you, personally, make irrevocable promises to pay pensions of $300 per month for life after they reach 65 to, say, four household employees. To make it easy, let's say that they each are 55 years of age at present. If you make that promise today, you have reduced your net worth today by about $70,000. (For simplicity's sake, I am ignoring some variables such as sex of employees - women live longer and therefore cost more - death before 65, etc. In calculating such factors the actuaries shine. )

Why are you immediately $70,000 poorer? Well, if you set aside a $70,000 fund now and invest it at 7% interest - and let all such interest remain in the fund to be compounded - the principal value of the fund will grow to about $140,000 in ten years when your employees reach 65. And to buy them a lifetime annuity of $3,600 per year will then cost about $35,000 each, utilizing the entire accumulated capital of the fund. So if you make the promise and it is binding - legally or morally - figure you have spent today $70,000, even though you don't have to pay out a dime of cash for ten years.

Now take it one step further and assume that your employees each are earning $600 per month but, instead of promising them $300 per month upon retirement, you promise them 50% of their salary at the time they retire. If their increases run 7.2% per year - and they probably will in the world I foresee - they will be earning $1,200 per month by the time they reach 65. And it will now cost you $70,000 each to purchase annuities for them to fulfill your promise. The actual cost, today, of modifying your promise from 50% of present pay to 50% of terminal pay was to exactly double the fund that needed to be set aside now from $70,000 to $140,000.

Many pension plans use final average pay (usually the average of the last five years, or the highest consecutive five years in the last ten years employed) and some use career average pay. I am not arguing here which should be used, but am illustrating the dramatic difference in costs that can occur because of rather minor-appearing changes in wording.

Pension costs in a labor intensive business clearly can be of major size and an important variable in the cost picture, particularly in a world characterized by high rates of inflation. I emphasize the latter factor to the point of redundancy because most managements I know - and virtually all elected officials in the case of governmental plans - simply never fully grasp the magnitude of liabilities they are incurring by relatively painless current promises. In many cases in the public area the bill in large part will be handed to the next generation, to be paid by increased taxes or by accelerated use of the printing press. But in a corporation the bill will have to be paid out of current and future revenues - with interest - and frequently with what is, in effect, a cost-of-living escalator.