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2013年2月26日火曜日

コンサル会社のご託宣(ウォーレン・バフェット)

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今回ご紹介するのは、ウォーレン・バフェットの1995年度「株主のみなさんへ」からの引用で、企業買収の話題です。原文を読んでしばらくは意味がつかめなかったのですが、言わんとすることがわかって一笑してしまいました。おもしろい一節なので、既に翻訳がひろまっているものかもしれません。(日本語は拙訳)

買収に関するちょっとした論考をしめくくるにあたり、ある企業の重役が昨年わたしにうちあけてくれた小話をご紹介せずにはいられません。彼が歩んできたビジネスは優れており、業界において長らく主導的な地位を占めていました。しかし主力製品は悲惨なまでに魅力を失うようになり、数十年前のことですが、経営コンサルタントにみてもらうことにしました。当然ながら、多角化するように助言をうけました。それが当時の流行だったからです。(「集中」はまだ流行っていませんでした)。ほどなく同社は、コンサルティング会社の取りまとめた長大で費用のかかった分析結果をうけて、いくつかのビジネスを買収しました。さて、その結果どうなったかですが、その重役氏は力なく語ってくれました。「最初のころは、もとからのビジネスが儲けの100%をあげていました。それが10年後には、150%分になりました」。

Concluding this little dissertation on acquisitions, I can't resist repeating a tale told me last year by a corporate executive. The business he grew up in was a fine one, with a long-time record of leadership in its industry. Its main product, however, was distressingly glamourless. So several decades ago, the company hired a management consultant who - naturally - advised diversification, the then-current fad. ("Focus" was not yet in style.) Before long, the company acquired a number of businesses, each after the consulting firm had gone through a long - and expensive - acquisition study. And the outcome? Said the executive sadly, "When we started, we were getting 100% of our earnings from the original business. After ten years, we were getting 150%."


さて、予定どおりにいけば今週末にはウォーレンの新しいレターが公開されるはずです。ご参考までに、去年の分を過去記事でご紹介しています。

2013年2月24日日曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(クラレ)

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前回(マイクロソフト)に続いて4件目の企業です。

<当社の概要>
当社は投資雑誌などで取り上げられており、個人投資家にも知られている企業と思われますが、事業内容を概括しておきます。社名そのものやランドセルでおなじみだった「クラリーノ」から繊維系を想像させますが、現在の当社の主力製品はプラスチック(合成樹脂)です。ただしそれらは大手化学メーカーの汎用品とくらべると独自性を有しているため、価格競争力を維持し高収益につながっています。

事業セグメント毎の営業成績は次のような割合になります。樹脂事業(プラスチック)が利益の大半をあげています。


部品や部材を扱う優良企業として、日東電工がよく知られています。同社は液晶パネル向け製品を展開したことで、大きく飛躍しました。たとえば偏光版は、市場の多くを住友化学と占めています。偏光板を生産するそれらの企業に対して、当社はプラスチック原料(ポバールフィルム)を提供しています。これは工学的特性が優れていることで、現在でも代替品を排除しています。当社はさらに上流の原料(ポバール)の業界リーダーでもあるため、供給面においても競争力が高く、ポバールフィルムは80%のシェアを確保しています。

もうひとつの主力製品エバール(EVOH樹脂)は、他の一般的なプラスチックよりも空気などの気体をよく遮断する特徴を持っています。従来の代表的な採用先は食品包装材でしたが、最近は自動車の燃料タンクでの採用が増えています。

これらのプラスチック以外にも、独自な特性を持つ製品を展開しています。主なものとして、液状ゴム<クラプレン>、透明で柔軟なアクリル系熱可塑性エラストマー(ゴム)<クラリティ>、高耐熱性樹脂<ジェネスタ>があり、いずれも売上拡大が期待できます。

<投資に至った背景>
日本企業の中では、当社は今後もまずまずの成長が期待できる一社と捉えていたのですが、市場も妥当な評価をしていたため、株式を買うには至っていませんでした。しかし昨年(2012年)は株価が低調に推移したため、割安な金額に達したと判断し、投資することにしました。

1. 主力製品の継続的成長
当社が成長できると考える理由は、主力製品ポバールやエバールがいくつかの観点で利益拡大が期待できるからです。個別にみると第一にあげられるのが、地域的な市場の拡大です。直近の動向としては北米において、生産拠点を拡大したり、川下の企業を買収して展開を進めています。

第二に、適用製品の拡大です。これは、日常的なマーケティングで進められる一般的なものです。が、以前に信越化学の回でも感じたのですが(過去記事)、上流に近い素材製品は市場での認知が進むと代替品への切り替えが起こりにくく、製品ライフサイクルが長期にわたる傾向があります。ポバールやエバールといった製品も、性能を顧客に認知してもらい、既存材料からの切り替えがまだ進行している段階です。軽薄短小化の進展も追い風となっています。マーケットシェアの面でもリードしており、優位な立場にあります。いずれはより高性能な素材に置き換えられたり、価格面で譲歩を余儀なくされるのでしょうが、顧客や適用先が多様で、シェア全体が浸食されるには時間がかかります。

第三が、コスト増に伴う製品価格改定、つまり値上げです。独占・寡占的な地位を活かせる製品については、ナフサ価格の上昇を製品価格へ転嫁することができます。

最後が、生産性向上によるコスト低減です。投資を検討した時点ではこの観点には気づいていませんでした。少し前に読んだ本から受けたアイデアですが(過去記事)、ふりかえってみると当社の説明会で経営陣が「コンパクトな新規設備」と発言していたことが思い出されます。効率化によって利益をしぼりだせるというのは、別の意味で魅力のある事業だとみています。

2. シーズ志向の好循環
研究開発の観点で成功している素材や部品メーカーを観察すると、2つのやりかたがみえます。ひとつは少し先の市場動向を的確にとらえ、すじのよい製品を開発して提供すること。これにあてはまる企業には日東電工やJSRなどが考えられます。マーケティングと研究開発がうまくかみ合った上で経営陣が機動的な采配を発揮することが要求されるため、総合力という意味で模倣しにくい競争力を持つ企業だと評価できます。

もうひとつは、独自の基礎的材料の研究開発や量産化に成功し、応用製品に展開するやりかたです。当社はこちらに当てはまると考えます。このやりかたの評価できる点は、2つの個人的な仮説に基づいています。第一が「独自な基礎材料は、応用の際にも独自の性質をあらわしやすい」とするものです。新規の適用先を探究する際に、独自な特性を持つ材料はそもそも化学組成や構造に特徴があるため、応用したあとでもそれが引き継がれ、思わぬ特性を導き出すのではないかと想像します。第二に「シーズをみきわめて育てる好循環が、企業内のDNAに刻み込まれる」とするものです。一般に、最初の成功を収めて財務的な安定が得られると、ふたたび同じやりかたを志向しやすくなるものです。成功体験に酔って転落することは少なくないので、このサイクル自体は両刃の剣として働きます。しかし第一の仮説が成り立つとしたら、良いサイクルとして働く可能性が高まります。独自性やニッチに生きる道を大切にするようになれば、より自律的な企業文化をはぐくむ可能性を秘めているからです。ただし、現在の当社に対して楽観視しているわけではありません。あくまでも「望ましい可能性が期待できる」という程度です。

3. 好財務
2011年度末の時点で総負債控除後の現金等流動資産がおよそ1,000億円あり、自社株買いや買収に使える点で魅力を感じました。なお当社の有形固定資産純額(除く建設仮勘定)は、約1,300億円です。

<リスク>
1. 次の大型製品がみえないこと
上の図で示したように、利益の大半を樹脂事業(ポバールやエバール)に依存しており、多岐な採用が見込まれる他の基礎的製品は顕在化していません。市場の開発は日々の地道なマーケティングを踏まえたものであり、将来の市場の幅や深さを予想するのは難しいものです。さらに投資家の視点で当社の次世代製品を占うには、専門知識と洞察力が要求されます。その意味で、個人的には次の大型製品の可能性はまったくみえていません。

2. ディスプレイ市場における、液晶から新技術への急速な変化
上記と関連する話題ですが、液晶パネルの偏光板の材料であるポバールフィルムにおいて当社は市場を寡占しており、高水準の利益率を維持していると思われます。そのためディスプレイの市場や技術動向が当社の利益に大きく影響するとみるべきです。直近のニュースで「超複屈折フィルム」を採用した新型液晶パネルがとりあげられていました。これは液晶技術を延命させるのに寄与すると思われる新技術です。しかし、有機ELのような非液晶技術においても革新を目指した研究がすすめられているでしょうから、遠くない時点(たとえば10年以内)で液晶が新技術に置き換えられる可能性は大きいと考えます。

3. 生産拠点の災害リスク
主力生産拠点の岡山事業所は規模が大きく、川上製品を生産していることもあり、災害が発生したときには当社全体でみた製品出荷が滞る恐れがあります。しかし地震リスクの小さい地方であるとともに、国内外に他生産拠点が展開されており、大きなリスクではないと捉えています。

<売買記録>
2012年7月下旬から10月上旬にかけて購入しました。平均購入単価は900円弱で、予想PER9倍程度の金額でした。株価がもっと下落するのに備えていたこともあり、本格的な買い付けには至りませんでした。割安な水準になれば、今後も買い増ししたい銘柄です。

2013年2月22日金曜日

既婚者だったらわかること(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの講話『実用的な考え方を実際に考えてみると?』の第5回目です。今回は人生における教訓がさりげなくほのめかされており、いかにもチャーリーらしい文章です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

オペラント条件付けのほうは容易に解決できます。必要なのは次の2つだけで、まずは我々の飲料を飲むことで得られる報酬をできるだけ増やしてあげること。もうひとつは、「我が社の製品を飲みたい」とする反射行動がせっかく形成されたのに、競合製品を擁する他社が「オペラント条件づけ」を仕掛けてくることで帳消しにされないよう、手を尽くすことです。

実際のところ、「オペラント条件づけ」として得られる報酬とは次の数種にとどまります。

(1) カロリーに代表される、食物としての価値
(2) 感触、味わい、香り。これらは消費者に飲みたいと感じさせる働きをするもので、ダーウィン言うところの自然選択を通じて、人間の神経にあらかじめ組み込まれています。
(3) 砂糖やカフェインが刺激として働くこと
(4) 暑い時には体を冷やし、寒い時には体を温めてくれる効果

とびっきりの結果を望む以上、当然ながらこれらの報酬すべてが得られるようにしましょう。

はじめに、我々が温冷どちらの飲料を手がけるかは、かんたんに決められます。冷たいほうです。寒さをしのぐのに比べて暑さに対応するには、飲み物以外には打つ手があまりないからです。そのうえ、暑ければ暑いほどますます水分をとる必要がありますが、寒いときにはそうはなりません。次の課題ですが、砂糖とカフェインを両方入れることにするのも、すぐに決まります。紅茶やコーヒー、レモネードといった飲み物が広く飲まれているのをみれば、明白です。次の件も言うまでもありません、われらの供する砂糖とカフェイン入り飲料の風味やその他の特性を決定するには、飲んだ人が最高の喜びを得られるように、何度も試行錯誤をくりかえして徹底的に取り組むべきです。最後に、我々にとって好都合となるように創りだされたオペラント条件付けによる反射行動が、これまたオペラント条件付けを採用している競合製品によって打ち消される可能性を引き下げる件ですが、これも答えはわかりきっています。我が社の飲料が世界中のあらゆる場所でいつでも手に入るように、できる限りすばやく、しかも営々と取り組みつづけることです。競合製品のほうがそうしなければ、報酬を得るためにわざわざ習慣をくつがえそうとは、実際のところ考えないものです。伴侶を持つ人なら誰でも知っていることでしょう。

The operant conditioning part of our problem is easy to solve. We need only (1) maximize rewards of our beverage's ingestion and (2) minimize possibilities that desired reflexes, once created by us, will be extinguished through operant conditioning by proprietors of competing products.

For operant conditioning rewards, there are only a few categories we will find practical:

(1) Food value in calories or other inputs;
(2) Flavor, texture, and aroma acting as stimuli to consumption under neural preprogramming of man through Darwinian natural selection;
(3) Stimulus, as by sugar or caffeine;
(4) Cooling effect when man is too hot or warming effect when man is too cool.

Wanting a lollapalooza result, we will naturally include rewards in all the categories.

To start out, it is easy to decide to design our beverage for consumption cold. There is much less opportunity, without ingesting beverage, to counteract excessive heat, compared with excessive cold. Moreover, with excessive heat, much liquid must be consumed, and the reverse is not true. It is also easy to decide to include both sugar and caffeine. After all, tea, coffee, and lemonade are already widely consumed. And, it is also clear that we must be fanatic about determining, through trial and error, flavor and other characteristics that will maximize human pleasure while taking in the sugared water and caffeine we will provide. And, to counteract possibilities that desired operant-conditioned reflexes, once created by us, will be extinguished by operant-conditioning-employing competing products, there is also an obvious answer: We will make it a permanent obsession in our company that our beverage, as fast as practicable, will at all times be available everywhere throughout the world. After all, a competing products, if it is never tried, can't act as a reward creating a conflicting habit. Every spouse knows that.

2013年2月18日月曜日

ウォッカの大瓶を買ってきてあげる(ミセスB)

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以前にとりあげた『最高経営責任者バフェット』は、バークシャ・ハサウェイ傘下のそれぞれの子会社を率いるCEOの横顔を描いた著作です。その一人であるミセスBといえば、ウォーレン・バフェットとやりあった頑固者として有名ですね。今回は、彼女の生い立ちを引用します。ずっと印象に残っている文章です。

1998年8月11日火曜日、ローズ・ブラムキン(104歳)は、故イザドーの未亡人として、ルイ、フランシス、シンシア、シルビアの母として、12人の孫、21人のひ孫のいるおばあちゃんとして、そしてネブラスカ・ファニチャー・マート(NFM)の創業者としてオマハのゴールデン・ヒル共同墓地に埋葬された。家族、友人、隣人から非常に尊敬されていたこともあり、葬儀に参列した人の数は1000人を超えた。しかし、このころすでに孫のアーブとロンによって経営されていたオマハの店は、その日も休まず営業している。「店を閉めることなど母は望まないと思いますから」と、娘のフランシス・バットがオマハ・ワールド・ヘラルド紙の記者に対して答えている。

1937年、ローズ・ブラムキンが44歳の時、兄弟から500ドル借りて創業したネブラスカ・ファニチャー・マートは、彼女の忍耐力のおかげで、今やネブラスカ州オマハの中心部に77エーカー(約9万4000坪)の事業用地を所有し、1500人の従業員を抱え、家具・カーペット類・家電製品・電子機器等の年間売上高は3億6500万ドルに上る。利幅を業界平均より10ポイント下に抑えることで、市場を完全に支配し、家具の売り上げではオマハで約4分の3のシェアを獲得している。しかも、数量ベースでは全米最大の家具小売業者となっているのである。NFMの60年間の歴史を通して売上高は常に増加傾向をたどり、毎年記録を更新している。従業員1人当たりの売上高は他の国内小売業者よりも40%多く、純利益率はほぼ2倍。年間売上高にいたっては、平均的なウォルマートの店舗の8倍以上もある。特に何がすごいかというと、1平方フィート(約0.09平方メートル)当たりの売上高は865ドルで、これはホールセールクラブ(会員制倉庫型安売り店)最大手でディスカウント業界首位のコストコよりも100ドルも多いのである。帝政ロシア時代、まだつつましかったミセスBの駆け出しのころからは、とても想像できないことだ。

1893年12月3日、ローズ・ゴーリックはロシア帝国(現ベラルーシ共和国)のミンスク市に近いユダヤ人村シドリンで生まれた。父ソロモンと母チャシアの間に生まれた8人の子どものうちの一人だった。家は2部屋しかない掘っ立て小屋で、わら製のマットの上で寝ていた。当時のユダヤ人居留地ではよくあることだが、父は研究に明け暮れ、母は家計を支えるために食料品店を営んでいた。ローズは正式な教育を一度も受けたことがない。グラマースクール(小学校)にさえ行ったことがなかった。わずか6歳のころから店の手伝いをしていたと、のちに回想している。あるとき、「夜中に目を覚ましたら、母がパンをこねていた」のを覚えているという。「で、そのとき、こう言ったのさ。『ママがこんなに一生懸命がんばってるなんて、なんか悲しいよ。あたしが大きくなるまで、待ってて。あたしがお仕事見つけてアメリカに行く。そしたら、ママをアメリカに呼んであげる。大きな町に行ったら、きっとお仕事見つかると思うの。ママをお姫様にしてあげるね』って」

13歳になるころには、もう村を離れる覚悟を決めていたという。靴底を減らさないように靴を肩に背負い、最寄りの駅まで約30キロの道のりをはだしで歩いた。汽車に乗り、仕事を求めて訪ねた店は25軒。そしてついに仕事をくれる店を見つけた。衣料品店だった。それから3年もたたないうちに、店をやりくりするようになり、男性従業員6人を従えるようになった。

1913年、20歳のとき、靴の販売をしていたイザドー・ブラムキンと結婚。しかし翌年、第一次世界大戦が勃発。皇帝のために戦う気のなかったイザドーは兵役を逃れるためにロシアを離れた。それから3年後の1917年、ローズは夫のあとを追ってアメリカに行こうと決意し、シベリア鉄道に乗った。シベリアまで来た彼女は、ロシアと中国の国境付近で兵士に呼び止められた。兵士には「軍のために革製品の買い付けに行くところだ」と答え、「帰りにウォッカの大瓶を買ってきてあげるから」と言ったら通してくれたそうだ。

船で太平洋を渡り、ワシントン州シアトルに着いた。英語も分からず、入国ビザも所持していなかったが、幸い、ユダヤ人移民援助協会とアメリカ赤十字の計らいで、移民帰化局(INS)のお役所手続きをパスし、アイオワ州フォートドッジで夫と合流することができた。彼女は亡くなるその日まで、この町の名を「フォートドッチビー」と発音している。おそらくロシアを離れたおかげだろう。彼女はここで命拾いすることになる。生まれ故郷の村ではユダヤ人2000人のうち「1900人が新年祭の当日、ヒトラーに殺された」そうだ。彼女いわく、「村人たちは自分たちの墓を掘らされた揚げ句、ナチスに灯油をかけられて葬られたのさ。あいつらに皆殺しにされたんだ。村中の人たちが」(p.140)

2013年2月15日金曜日

物陰に潜んでいる愚劣(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによるハーヴァード・ウェストレイク高校での講話、その5です。心理学の有用性を熱心に説くチャーリーですが、一方で心理学者の不手際に対しては厳しい視線を向けています。なお、前回分はこちらになります。(日本語は拙訳)

たしかに、優秀な教授陣を抱えた心理学部では、彼らの専門用語でいうところの「自己奉仕バイアス」[成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい]に陥らないよう、若者に対して指導しています。しかし、そういう自分たちときたら、男の子がチョウを収集するかのように、心理学の実験結果をあつめるだけの人ばかりです。成果を披露したり、他のチョウ蒐集家と知り合いになるのを楽しんでいるだけで、実験結果同士を総合することはほとんどなされていません。リスクに直面したときには、心理学によって得られた知見を使い、それらを合成することで、複雑で雑然とした状況下で正しい答えを導きだしてくれる強力なしくみを構築することが望まれるでしょう。しかし心理学の先生にそうお願いしても、助けてはくれません。他の学問分野のこともいろいろ調べ、心理学を使ってそれらを流麗に合成したいなどと言い出せば、心理学部から脱落したりするのが現実です。かつてホワイドヘッドが学術分野における宿命的な非連携について話していたことを、思い出します。まったく、あの馬鹿どもときたら、重要なアイデアをあらゆる分野から学び取ったり、学際的に合成した上で現実をみつめる義務などない、と考えているのだ。高いIQの持ち主でありながらも、井の中の蛙で満足しているのだ。このような過ちをすっかり犯しているのは、そもそも心理学のイロハを教える時点で、うまくやる方法をわかっていないからです。非常に重要な発明や発見を数多くなした心理学の教授でも、文明を推し進めるという意味では、それほどには寄与していません。ないよりかあったほうがましですが、学術界が果たしうる最高の水準からみれば、ひどい失敗にとどまっています。認知の面で薬学は最上級ですし、生物学もよい傾向にあると考えますが、自然科学や工学から外れて社会科学に足を踏み入れるときには、くれぐれも用心することです。あらゆる物陰に潜んでいる愚劣が襲いかかり、打ちのめそうとしてくるからです。

We have psychology departments with distinguished professors, surely they can teach our young to avoid - the psychology term for this is ‘self-serving bias.’ Surely the psychology department is teaching our children to avoid this. Well, it’s not so. The psychology department is full of people who collect psychology experiments the way a boy collects butterflies. They just like listing them and knowing the other people who collect the butterflies and so forth. Very little synthesis is done from one experiment to another, and if you ask them to synthesize - where you use the findings of psychology against the risks of reality, and through synthesis create a powerful machine that will get the right answer in a complex mess - the psychology professors are not going to help you. In fact, you’d be sort of dropped out of a psychology department if you purported to know a lot of non-psychology and integrate it beautifully with psychology. It goes back to what Whitehead said. He talked about the fatal unconnectedness of academic disciplines. Those bastards feel no duty to master the big ideas in all the disciplines and get synthesis and reality across the disciplines. They are rewarded in their own little shop for being silly and monomaniacal and with their high IQs. They do all this terrible mischief because they don’t know in a functional way what they teach in Psychology 101. The psychology professors who invented and discovered a lot that is very important, they are not really helping the wider civilization all that much. We’re better off having them than not having them [but] in terms of what is the best that can be in academia, it has failed us horribly. With hard science and engineering excepted - [and] I think the cognition of medicine tends to be quite good in the best places and biology also tends to be good - but boy, you get into the rest of the social sciences and you have to be very wary because there is an asininity trying to clobber you up behind every rock.