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2012年12月28日金曜日

ビジョナリー・カンパニーのその後(ダニエル・カーネマン)

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前回に続き、カーネマンの『ファスト&スロー』から引用します。今回は「たぐいまれな」能力を持つCEOの話題です。

多かれ少なかれ成功した企業同士の比較は、要するに、多かれ少なかれ運のよかった企業同士の比較にほかならない。読者は運の重要性をすでに知っているのだから、めざましい成功を収めた企業とさほどでない企業とを比較して、ひどく一貫性のあるパターンが現れたときには、眉に唾をつけなければならない。偶然が働くケースで出現する規則的なパターンは、蜃気楼のようなものである。

運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップや経営手法のクオリティを推定しても、信頼性が高いとはいえない。たとえCEOがすばらしいビジョンとたぐいまれな能力を持っているとあなたがあらかじめ知っていたとしても、その会社が高業績を挙げられるかどうかは、コイン投げ以上の確率で予測することはできないのである。『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、おおまかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。トム・ピーターズとロバート・ウォータマンのベストセラー『エクセレント・カンパニー』で取り上げられた企業の平均収益も、短期間のうちに大幅減を記録している。(p.302)


最近取り上げたチャーリー・マンガーの言葉「平均してみれば、ビジネスの質にかけるほうが、経営者の質にかけるよりもよいでしょう」が思い返されますね。(過去記事)

2012年12月26日水曜日

自信を持つなど言語道断である(心理学者ダニエル・カーネマン)

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以前とりあげた心理学者ダニエル・カーネマンの新刊『ファスト&スロー』が翻訳されていました。過去記事では、題名の訳を『ぱっと考える、じっくり考える』としてご紹介したものです。現在は上巻を読み終えた段階ですが、内容の充実ぶりに圧倒されています。一般向けの心理学の本は少しずつ読むようにしていますが、本書はチャーリー・マンガーの推薦書『影響力の武器』にならぶバイブル級の一冊になると思います。

重要な意思決定をしなければならない人にとって、参考になるところが多い作品です。投資家のみなさんにも、一読されることを強くおすすめします。

今回は同書から、自信や信念に関する話題を引用します。

あなたはどうしても、手持ちの限られた情報を過大評価し、ほかに知っておくべきことはないと考えてしまう。そして手元の情報だけで考えうる最善のストーリーを組み立て、それが心地よい筋書きであれば、すっかり信じ込む。逆説的に聞こえるが、知っていることが少なく、パズルにはめ込むピースが少ないときほど、つじつまの合ったストーリーをこしらえやすい。世界は必ず筋道が通っているという心楽しい信念は、盤石の土台に支えられている。その土台とは、自分の無知を棚に上げることにかけて私たちはほとんど無限の能力を備えている、という事実である。(p.293)


システム1[瞬発的に判断する機能]は、ごくわずかな情報から結論に飛躍し、しかも飛躍の幅がどの程度かがわからないようにできている。「見たものがすべて」なので、手元にある情報しか問題にしない。それに基づく結論のつじつまが合っていさえすれば、自信が生まれる。私たちが自分の意見に対して抱く主観的な自信は、システム1とシステム2[熟考する機能]がこしらえ上げたストーリーの一貫性に裏付けられているのである。情報は少ないほうがつじつま合わせをしやすいので、情報の量と質はほとんど考慮されない。私たちは、人生で信じていることのうち最も重要ないくつかについては、何の証拠も持ち合わせていない。ただ愛する人や信頼する人がそう信じている、ということだけが拠りどころになっている。自信を持つことはたしかに大切ではあるが、私たちが知っていることがいかに少ないかを考えたら、自分の意見に自信を持つなど言語道断といわねばならない。(p.304)


自信は感覚であり、自信があるのは、情報に整合性があって情報処理が認知的に容易であるからにすぎない。必要なのは、不確実性の存在を認め、重大に受け止めることである。自信を高らかに表明するのは、頭の中でつじつまの合うストーリーを作りました、と宣言するのと同じことであって、そのストーリーが真実だということにはならない。(p.309)


蛇足ですが、字数が多くてうれしいと感じた本は久しぶりでした。

2012年12月25日火曜日

2012年の投資をふりかえって(2)一口投資で撤退編

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ピーター・リンチが投資する際に、「気になった企業はひとまず少し買い付ける」という文章をどこかで読んだ記憶があります。この1年はわたしも同じやり方をとってしまい、リンチさんには申し訳ありませんが、あまり誉められたものではないと自省気味に感じています。

今回は、昨年や今年に少額を投資したものの、早々にひきあげた銘柄を振り返ります。基本的には、昨年の投稿で注目銘柄としてあげた企業が対象となります。

6140 旭ダイヤモンド工業
6157 日進工具
3891 ニッポン高度紙工業
6988 日東電工
5201 旭硝子
5333 日本ガイシ
2178 トライステージ

上記のうち、最終的に本格的に投資した銘柄は1社のみとなりました。各銘柄について、以下に売却した理由等を若干記します。

■旭ダイヤモンド工業(6140)
当社は、機械加工で使用する工具のうち、主にダイヤモンドを刃材とするものを製造しています。ニッチで利益率がまずまずだったのですが、近年になってシリコンウエハー切断用のワイヤー「エコメップ」が大ヒットし、利益水準を押し上げました。また財務や配当方針の面でも、株主のほうを向いているように見受けられます。このように、自分の投資方針と合致している会社なのですが、どこか腑に落ちない点が残り、投資をひきあげました。購入は1000円強、売却は1077円で若干の売却益ですが、時期がたまたまよかったようです。その後、昨年来の太陽電池の需給バランスが悪化したことで主力のエコメップの販売が伸び悩み、それに同調して株価も低迷気味で、現在は780円前後です。

何がひっかかっているのか自分でもよくわからないのですが、きちんと納得できないときは、じっとするか手を引くことを旨としています。

■日進工具(6157)
当社は今年の主要投資先となったので、別の回でとりあげます。

■ニッポン高度紙工業(3891)
当社は、主にコンデンサ用セパレータを製造しており、製造技術や素材に特徴があることで、それなりの利益率を確保してきました。地方に本拠地をかまえていることもあり、個人的には応援したい企業なのですが、投資はやめとしました。購入は1400円前後、売却は1250円前後で損失を出しました。現在の株価は650円前後です。

投資をやめた主な理由は2つです。まずは製造拠点の立地についてです。株式投資を始めたころから、リスク管理の中心テーマとして巨大地震のリスク回避を念頭においてきました。今回は東日本でしたが、東海地方を最大のリスクと捉え、同地域周辺を中心拠点とする企業への投資は避けてきました。当社の主要拠点は高知県ということで、当初は確認していませんでしたが、拠点の地図をみると海岸沿いに立地しており、津波の直撃を受ける恐れがありました。なお、このリスクは当社の有価証券報告書に明記されており、新工場を日本海側に建設する大きな理由にも挙げられています。

第2の理由は、設備投資費用が重いことです。この影響のせいか、財務諸表をさかのぼって読むと、株主資本がそれほど増加していない点が気にかかりました。

■日東電工(6988)
投資家に人気のある企業なので、他言は無用かと思います。和製3Mという言葉がぴったりで、経営がうまくまわり、勢いの良さが感じられます。しかし昨年に2900円前後で購入するも、早々に3200円前後で売却しました。現在は4000円前後です。売却した理由として、利益が液晶関連の事業に偏重していることを考えましたが、当社の実績を鑑みれば、もう少し長い目で見て、売らずに保有すべきだったと感じています。株価がまた下がることがあれば、継続保有したいと考えています。

ただし、このような優良企業は全部は売らず、最後の一口(1単元)だけは残すようにしています。

■旭硝子(5201)
当社は液晶ディスプレイ用ガラスで世界シェア第2位につけており、寡占的な事業のため、利益率が高水準です。購入したのは1単元のみで600円、売却は570円なので売却損です。現在は640円です。

売却した理由は2つです。第一に、競合他社のコーニングを調べると、そちらのほうが有望かつ割安に思えたからです。ただし、同社の株式を買うには至っていません。第二は、利益水準と比して自動車関連の事業に関する設備投資が重いことです。これには中長期的な成長戦略が織り込まれているのかもしれませんが、うまく判断できませんでした。きちんと納得できなかったので、利益が出ていたとしてもいずれは売却したと思います。

■日本ガイシ(5333)
当社には投資していません。

■トライステージ(2170)
以前の投稿で触れたので、ここではとりあげません。

これ以外の「一口投資」としては、マニーに投資しました。数単元購入しましたが(2600円強)、日東電工と同じように、株価が若干上がったところで売却し、今は1単元だけの保有です。現在は3200円強です。売却した理由は、そもそもの自分の買値にもうひとつ納得できなかったからです。買値に自信が持てない最大の要因は、当社の顧客動向をきちんと理解していないことです。そのため、顧客との力関係や市場の成長性を、自信をもって判断できていません。当社に対しては、株価が大きく下がらないと本気になって勉強しない、という悪い面がでています。

2012年12月21日金曜日

チェスの名人たちを、目隠ししたまま相手にする(チャーリー・マンガー)

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現代の古典ともいえるチャーリー・マンガーの講演は少しばかり古いものが多いのですが、比較的近年のものが公開されていたのでご紹介します。以下のサイトから、Scribdへアップロードされたファイルにリンクされています。

Charlie Munger Lecture at the Harvard-Westlake School (Santangel's Review)

題名にでている「ハーヴァード・ウェストレイク高校」とは以前にとりあげたプレップ・スクールのことで(過去記事)、チャーリーが理事会に関わっている高校です。また、この講演にはオークツリーのハワード・マークスも同席していたようです。

今回から始まるこのシリーズでは、上記のテキストを全訳していきます。PDFファイルで10ページほどの文章ですが、毎度のことながら、のんびりペースで進めていくことをご容赦ください。

ハーバード・ウェストレイク高校におけるチャーリー・マンガーの講話
(2010年1月19日)
Charlie Munger at Harvard-Westlake School January 19, 2010

ジム・ギブソン:
チャーリー、なぜそんなにたくさんの頭脳明晰な人が過ちを犯したのでしょうか。[金融危機のこと]

チャーリー・マンガー:
ああ、それはすばらしい質問ですな。私自身もまったく同じ謎を明かしたいと、これまでかなりの時間を割いてきたものです。非常に優秀でしっかりした人たちが、よってたかってまるでおかしな判断を下し、災厄を招くことがあります。はっきりいって、これはいたるところで見かけられますね。その原因のいくつかは若いころに合点していましたが、この件にはすごく興味があったので、その頃に自分なりに悟りを開きました。6人ものチェスの名人を相手に、しかも目隠ししながら勝負を挑んで勝ちを得るなんて、できっこないと。神は、そのような力をチャーリー・マンガーには与えて下さらなかったのですね。「しょうがないな、わたしがずっと堅実にやっていくのだったら、そういう人たちのように愚かではいけないんですね」。そうしてきたのが、今の私です。

バークシャー・ハサウェイが注目されているのは、我々が何かコツをつかんだように見えることも、その理由のひとつかと思われます。しかしそれは、目覚ましいといったものではなく、単にバカなことを避けているだけのことです。結局は同じことでしょうと思うかもしれませんが、まあ、そうなのかもしれません。しかし我々のようにやってみれば、より深く理解してもらえると思います。つまり、賢い人たちを誘う愚かさの主だったものを見つけ出し、考えたり組み立てるパターンを体系化するのです。そうすれば、その手の愚かしさにはまり込むことはないと思います。さて、現在の状況は、きわめて聡明な人がそろっている場所にも関わらず、ものすごい認知上の誤りがあちこちで起きています。これは本当に興味深いことですね。

それでは、一連の事例をざっとながめていきましょう。まずは学術界による過ちです。最高水準の大学にいる教授連が、完璧にばかげたアイデアにとりつかれています。筆頭にくるのが効率的市場理論ですね。その昔、マッキンゼーに多大なる影響を及ぼした人が、ワシントン・ポストの株が1/5の値段で売られているときに同社に来て、こう発言しました。「株を買ってはなりません。効率的市場理論によれば、会社全体を買う金額の1/5で売られるということはありえないのですから」。当然ながら、こういった愚かな概念を信奉するような心の持ち主は、それを否定するような事実が出てきても、科学における伝統や心の中にある良識に、まるで従わないのです。彼らは何十年間にもわたって、このたわごとを我々の子供に教え込んできましたし、なんともまあ、今でも同じことをやっている人がたくさんいます。この概念は経済学の代表的な教科書にも載っており、ポール・サミュエルソンのような頭のいい人が信じているものです。彼は本当に頭脳明晰な人ですよ。では、賢い人がそのようなばかげた考えをずっと抱いてきたのはなぜでしょうか。もう少し事例をたどった後で、またこの主題に戻ることにします。

Jim Gibson:
Charlie, why did so many smart people get it wrong?

Charlie Munger:
Well, that is a marvelous question and it is such a marvelous question that I have devoted a big chunk of my life to studying that exact question. It was obvious to me for some reason, at an early age, that a great many very brilliant and disciplined people made perfectly screwy decisions that were disastrous -- and that it happened, frankly, wherever I looked. I found this extremely curious, and somehow early in life I got the idea that I would never be able to play chess blindfolded against six Grandmasters and win. God just did not give Charlie Munger any such skill. But I said, ‘Oh my gosh, I cannot be as asinine as all these other people if I just kind of work at it steadily for a long time,' and that is what I did.

I think part of the popularity of Berkshire Hathaway is that we look like people who have found a trick. It's not brilliance. It's just avoiding stupidity. You say it is the same thing just stated differently -- well, maybe it is the same thing just stated differently. But you understand it better if you go at it the way we do, which is to identify the main stupidities that do bright people in and then organize your patterns for thinking and developments, so you don't stumble into those stupidities. Of course, this present situation involves massive cognitive failure at a great number of places dominated by very, very bright people, and that is quite interesting.

Let's just go through the list, briefly. Academia failed. The professors at our greatest universities [have] perfectly asinine ideas -- first, about efficient market theory. One of those people influenced McKinsey [& Company] so much that McKinsey came to the Washington Post at the time it was selling at one-fifth of what it was plainly worth as a share of the total enterprise, and said, ‘You can't buy [the stock] in because, under efficient market theory, it can't be worth a fifth of what people would pay for the whole company.' Of course, the kind of mind that would keep a stupid idea like this when they have a fact that would clearly refute it -- it clearly violates traditions of science and mental decency. They taught this drivel to our children for decades and, by God, a lot of people are still doing it. It was in the major textbooks in economics and people as smart as Paul Samuelson [believed it] -- and that is a significantly smart man. How do smart people get such dumb ideas and hold them so long? I'll try to come back to that theme after I've enumerated more examples.

2012年12月19日水曜日

最高の商売に立ち返る(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知入門で、バークシャー・ハサウェイが買収したGEICO(ガイコ)の昔話です。このシリーズも今回が最終回になります。(日本語は拙訳)

特上たる事業を営んでいたGEICOはひどい災厄に陥りましたが、それでも商売を続けていました。成功に酔って天狗になってしまい、ばかげたことに踏み入ってしまったのです。これだけ大儲けできるのだから、なんでもやれると考えたのですね。そのツケがまわり、莫大な損失を抱えることになりました。

そんな彼らのすべきことは、やらかした愚行をすべて切り捨て、前からやっていた最高の商売に立ち返ることでした。なんとも単純なモデルだと思われるでしょうが、そのとおりです。過去を振り返れば、この手段は何度も繰り返されています。

我々がGEICOに投資し続けたことであげた利益を考えてみてください。同社のビジネスは素晴らしいものです。しかし一方で、とんでもない商売も抱えていました。容易に手放せたはずなのに、頭はいいけれど気難しい方々がいたおかげで、そうできなかったのです。これこそ、探し当てたい事例の典型といえるでしょう。

いろいろと話をしてきましたが、人生を通じてみれば2,3回は大当たりをみつけられるかもしれませんし、けっこうなものであれば20回や30回はみつけられると思います。

And GEICO had a perfectly magnificent business - submerged in a mess, but still working. Misled by success, GEICO had done some foolish things. They got to thinking that, because they were making a lot of money, they knew everything. And they suffered huge losses.

All they had to do was to cut out all the folly and go back to the perfectly wonderful business that was lying there. And when you think about it, that's a very simple model. And it's repeated over and over again.

And, in GEICO's case, think about all the money we passively made. It was a wonderful business combined with a bunch of foolishness that could easily be cut out. And people were coming in who were temperamentally and intellectually designed so they were going to cut it out. That is a model you want to look for.

And you may find one or two or three in a long lifetime that are very good. And you may find twenty or thirty that are good enough to be quite useful.