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2012年12月17日月曜日

手つかずのまま眠っている(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの世知入門です。ディズニーの話題です。(日本語は拙訳)

どんな経営陣であろうが、値上げするだけで大幅に利益を向上できるビジネスというものが存在します。しかし、それが実施されていないとくれば、これこそ究極の「誰にでもわかる」投資先ですね。そのような企業には、手つかずのまま眠っている莫大な価格決定力があるわけですから。これは成長株モデルの一部をなすもので、人生を通じて何度か出会えるかもしれません。

たとえばディズニーはその力を有しています。孫を連れてディズニーランドへ行くのは非日常的なできごとで、それほど頻繁ではないでしょう。その上、たくさんの人が国中からやってきます。そこでディズニーは価格を大幅に上げられることに気づいたのです。その後も、来場者は増えつづけていきました。

ですから、アイズナーとウェルズがなした見事な業績は彼らの非凡さによるところも大きいですが、あとは値上げのおかげだったのです。ディズニーランドやディズニーワールド、それから昔のアニメ映画のビデオカセットですね。

Within the growth stock model, there's a sub-position: There are actually businesses that you will find a few times in a lifetime where any manager could raise the return enormously just by raising prices - and yet they haven't done it. So they have huge untapped pricing power that they're not using. That is the ultimate no-brainer.

That existed in Disney. It's such a unique experience to take your grandchild to Disneyland. You're not doing it that often. And there are lots of people in the country. And Disney found that it could raise those prices a lot, and the attendance stayed right up.

So a lot of the great record of Eisner and Wells was utter brilliance but the rest came from just raising prices at Disneyland and Disneyworld and through video cassette sales of classic animated movies.


値上げとディズニーの話題は、わずかですが過去記事でも触れています。この文章を踏まえていたのは、言うまでもありません。

2012年12月16日日曜日

合衆国憲法制定会議(アレグザンダー・ハミルトン伝)

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前回の投稿で、チャーリー・マンガーはアメリカ合衆国の憲法制定会議について触れていました。話の出所を調べようと思い、伝記作家ロン・チャーナウが書いた『アレグザンダー・ハミルトン伝』をあたってみたところ、内容が一致する箇所があったのでご紹介します。

また[草案を作る]この小委員会では、総じて秘密主義が好ましいという意見が優勢で、予備投票は記録されないことになった。さらに公正を期するため、小委員会は「議場での発言は、許可なく印刷されず、ないしは公表されたり伝達されてたりもしない」ことも決めた。(中略)

新しい憲章を作る会議に、このような非民主的な規則が用いられたのはなぜなのだろう。代表の多くは、自分たちのことを賢明な独立した市民だと考えており、彼らが気にかけていたのは、派閥などという唾棄すべきものではなく、公共の福利だった。「もし討議が公開で行なわれていたとしたら、派閥の怒号に邪魔されて満足な成果を出せなかっただろう」とハミルトンは述べている。「後になって討議の内容が明らかになっていたら、扇動的な雄弁に多くの材料を与えていたことだろう」。非公開の会議だったおかげで、活発で自由な議論が交わされ、史上屈指の啓発的な文書が生まれたのだ。だが同時に、この秘密主義のせいで、会議の内部事情は中傷的な伝説の材料となり、ハミルトンの後のキャリアに悪影響を及ぼすことにもなった。(p.450)


ベンジャミン・フランクリンが「生涯最高の威厳ある立派な会議」と絶賛したこれらの賢人は、いかなる人々だったのか。12邦の代表55名--ロードアイランドは変節して会議をボイコットした--は、アメリカを代表する人々とはあまり言えない。全員が白人で教育を受けた男性であるうえ、大半が裕福な資産家だった。過半数が弁護士で、そのため前例というものを気にしていた。プリンストンの卒業生(9名)が、イェール(4名)とハーヴァード(3名)よりも圧倒的に多かった。平均年齢は42歳で、32歳のハミルトンや36歳のマディソンは若いほうだった。(p.453)


さて、衆院選の投票に向かう時間です。

2012年12月14日金曜日

誤判断の心理学(27)質疑応答(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる「誤判断の心理学」は、今回が最後になります。25種類の傾向を示した後に、チャーリーは自問自答の形でいくつかの疑問に答えています。過去記事「(実例)旅客機からの脱出試験」が、今回の前段にあたる文章です。(日本語は拙訳)

3番目の質問も複合的なものです。これら一連の傾向をみてきましたが、現実問題として、この物事を考えるやり方[各種の傾向をチェックリストとして使う方法]にはどんなよさがあるのでしょうか。現実的なご利益は得られるのですか。そういった心理的傾向は広範な進化[遺伝的なものと文化的なものの組み合わせ]を通じて完璧なまでに人の心に組み込まれているので、取り除けないと思いませんか。では、この問いに答えましょう。これらの傾向は、おそらく悪性のものより良性のものが多いと思います。もし反対だったら、人間の状態や限定的な脳の容量から考えると、これらの傾向はきちんと働き、それゆえに人間はここまで到達していなかったと思われるからです。ですから、これらの傾向はただ自然に消失することはないでしょうし、そうなってはならないのです。にもかかわらず、これまで述べてきた心理学的な物事の考え方を正しく理解して使えば、知恵や良き行いを広めることができますし、また災難を避けるのにも役に立つでしょう。これらの傾向を宿命としてうけとめるのではなく、その実態を認識し、対応策を覚えておくことで、トラブルを未然に防ぐ一助となります。数はそれほどありませんが、次に挙げる例をみれば、基本的な心理学的知識があると非常に役に立つことが、改めて認識できるでしょう。

1. カール・ブラウン氏が実践してきたコミュニケーションのやりかた
[未訳出。コミュニケーションの際には、5W1Hを必須とするやりかた。なお同氏の話題は過去記事にもあり]

2. パイロットの訓練に使うシミュレーター

3. アルコホーリクス・アノニマス[断酒団体]が採用しているシステム
[過去記事]

4. メディカル・スクールにおける医療訓練の方法

5. 合衆国憲法制定会議における議事進行上の規則
この会議は完全に非公開とされ、予備的な投票の段階では投票者名は記録されませんでした。また会議末まではいかなるときでも票を覆すことができ、最終的には全会一致をもって決定としました。これは人の心理を重視した、非常に賢明なやりかたです。もし建国者たちがほかの手続きに従っていたら、さまざまな心理学的傾向に影響され、首尾の一貫しない、頑なな態度をとりつづける者が続出したことでしょう。エリートたる建国者たちが心理的な面において鋭敏だったことで、紙一重のところで建国がなしとげられたのです。

6. ばあちゃんのいいつけ
これは、やるべきことを抱えている人に対して動機づけを与え、よりよい成果を挙げるよう仕向けるものです。[過去記事]

7. ハーバード・ビジネス・スクールが強調する決定木の重要性
まだ若かったころの私はおろかにも、ハーバード・ビジネス・スクールのことをバカにしていました。「高校で習う代数を28歳にもなる人たちにむかって、実生活でどう使うのかを教えてるって、どういうこと?」。しかしのちになって私にも道理がわかり、それが非常に重要なことが理解できました。心理的な傾向から及ぼされる悪影響に対抗するためだったのですね。気がつくのが遅かったですが、そうでないよりはマシでしょう。[過去記事]

8. ジョンソン・アンド・ジョンソンにおける事後評価の実施
ほとんどの会社では、買収した会社が失敗だったとしても、おろかな買収に関係した人、事務作業、プレゼンテーションなどは全て、間をおかずに忘れ去られてしまいます。お粗末な結果に関わっていたと思われるので、誰も口にしないのです。しかしジョンソン・アンド・ジョンソンでは定められた規則によって、実施した買収が当初の予想とくらべてどれだけの成果をあげたのか振り返ることを、全員に課しています。これはとても賢明なやりかただと思います。

9. 確証バイアスを避けていたチャールズ・ダーウィンの卓越した先例
このやりかたを模倣したものとして、新薬の研究開発の例があります。これは、試験の際には「二重盲検法」に従うことがFDAによって義務付けられているものです。確証バイアスに対する究極の手段といえるでしょう。[過去記事]

10. 立会取引に対するウォーレン・バフェットのきめごと
参加しないこと。

My third question is also compound: In the practical world, what good is the thought system laid out in this list of tendencies? Isn't practical benefit prevented because these psychological tendencies are so thoroughly programmed into the human mind by broad evolution [the combination of genetic and cultural evolution] that we can't get rid of them? Well, the answer is that the tendencies are probably much more good than bad. Otherwise, they wouldn't be there, working pretty well for man, given his condition and his limited brain capacity. So the tendencies can't be simply washed out automatically, and shouldn't be. Nevertheless, the psychological thought system described, when properly understood and used, enables the spread of wisdom and good conduct and facilitates the avoidance of disaster. Tendency is not always destiny, and knowing the tendencies and their antidotes can often help prevent trouble that would otherwise occur. Here is a short list of examples reminding us of the great utility of elementary psychological knowledge:

One: Carl Braun's communication practices.

Two: The use of simulators in pilot training.

Three: The system of Alcoholics Anonymous.

Four: Clinical training methods in medical schools.

Five: The rules of the U.S. Constitutional Convention: totally secret meetings, no recorded vote by name until the final vote, votes reversible at any time before the end of the convention, then just one vote on the whole Constitution. These are very clever psychology-respecting rules. If the founders had used a different procedure, many people would have been pushed by various psychological tendencies into inconsistent, hardened positions. The elite founders got our Constitution through by a whisker only because they were psychologically acute.

Six: The use of Granny's incentive-driven rule to manipulate oneself toward better performance of one's duties.

Seven: The Harvard Business School's emphasis on decision trees. When I was young and foolish I used to laugh at the Harvard Business School. I said, “They're teaching twenty-eight-year-old people that high school algebra works in real life?” But later, I wised up and realized that it was very important that they do that to counter some bad effects from psychological tendencies. Better late than never.

Eight: The use of autopsy equivalents at Johnson & Johnson. At most corporations, if you make an acquisition and it turns out to be a disaster, all the people, paperwork, and presentations that caused the foolish acquisition are quickly forgotten. Nobody wants to be associated with the poor outcome by mentioning it. But at Johnson & Johnson, the rules make everybody revisit old acquisition, comparing predictions with outcomes. That is a very smart thing to do.

Nine: The great example of Charles Darwin as he avoided confirmation bias, which has morphed into the extreme anti-confirmation-bias method of the “double blind” studies wisely required in drug research by the F.D.A.

Ten: The Warren Buffett rule for open-outcry auctions: Don't go.

2012年12月12日水曜日

ほんまはこいつ賢いんちゃうか(山中伸弥教授)

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ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の聞き語りが新刊で出ていたので、読んでみました。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』という本です。そのなかで「逆から考える」好例が語られていたので、ご紹介します。

僕らはこの24個の中に、確信するほどではないものの、初期化に必要な遺伝子があるかもしれないと予想していました。そこで24個を1個ずつ、レトロウイルスという遺伝子の運び手を使って、皮膚の細胞(正確には繊維芽細胞)に送りこんでみました。しかし、皮膚の細胞は初期化せず、ES細胞のような細胞はできませんでした。途方に暮れていたところ、ぼくと一緒に奈良先端大から京大に移ってくれた高橋君が驚くべき提案をしました。

「まあ、先生、とりあえず24個いっぺんに入れてみますから」

これがなぜ驚くべきことかというと、遺伝子を外から細胞に送りこんでも、ちゃんとその細胞が取り込んでくれる確率はそんなに高くなく、だいたい数千個のうち1個くらいの割合です。もし遺伝子2個同時であれば取りこまれる確率はもっと低くなる。まして24個なんてできるはずがない。そう考えるのがふつうの生物学研究者です。その点、もともと工学部出身の高橋君はふつうの生物学研究者にはできない発想ができたのだと思います。

実際に24個すべて入れたところ、なんとES細胞に似たものができました。(p.113)


わたしだったら、頭ごなしに確率的に考えてしまい、このような柔軟な発想はできないと思います。24個いっぺんに入れることで、予期せぬ相互作用が生じたのでしょうか。ビジネスの世界では「やってみなけりゃわからない」という言葉をきくことが多いですが、複雑な状況が手詰まりのときには実は有効な選択肢なのかもしれませんね。

そしてもうひとつ、工学部出身にふさわしい秀逸なアイデアが続きます。

24個の中に初期化因子があることは間違いありませんでした。しかし、その中の1個だけではないことも明らかでした。それでは2個か。しかし24個から2個を選ぶ組み合わせの数は24 * 23 ÷ 2で276通りもある。もし3個なら、24 * 23 * 22 ÷ 6で2024通り。こんなにたくさん実験できません。そう考えあぐねていたところ、またしても高橋君が驚くべき提案をしてくれたのです。

「そんなに考えないで、1個ずつ除いていったらええんやないですか」

これを聞いたとき、「ほんまはこいつ賢いんちゃうか」と思いました。24個から1番目の遺伝子を抜いて23個を入れる、次に2番目の遺伝子を抜いた23個を入れるという具合に、1個ずつ抜いていきます。もし本当に重要な遺伝子なら1個欠けても初期化できなくなってしまう。まさにコロンブスの卵のような発想でした。まあ、ぼくも一晩考えれば思いついていたとは思いますが。(p.114)


組合せの回数を減らす取り組みとしては、品質工学(タグチ・メソッド)がよく知られていますが、この高橋さんのアイデアも美しいまでに実学的ですね。個人的な経験を振り返ってみれば、こういうアイデアはいったん頭を冷やした後や第三者からだと出やすいものと感じています。

ところで、新聞を読まないこともあって、山中教授の人となりを知りませんでした。が、本書を読んだかぎりでは、いい意味で普通のおじさんらしい印象を受けました。それほど歳がいっていないせいでしょうか、まだ大きな仕事が残っているとの強い意気込みが感じられる方です。

2012年12月10日月曜日

なかなか2回も当てられない(ハワード・マークス)

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前回に続いて、ハワード・マークスの著書『投資で一番大切な20の教え』の話題です。同氏は将来を確率的にとらえた上で意思決定するよう説いていますが、そのプロセスと結果のあいだに横たわる溝に対する見方を引用します。

多くの人は未来が不確実性で覆われていることを認めているが、少なくとも過去は既知で不動だと感じている。しょせん過去は歴史であり、絶対であり、不変だ。だが[ナシム・ニコラス・]タレブは、実際に起こったことは、起きる可能性があったことの小さな集まりに過ぎないと指摘している。したがって、ある計略あるいは行動が(実現した環境下で)良い結果をもたらしたとしても、その背景にあった決断が賢明であったとは限らないのだ。

もしかすると、最終的にその決断を成功に導いたのは、起きるとはまったく考えられていなかった出来事であり、運が良かっただけかもしれない。だとすれば、(結果的にうまくいった)その決断は軽率だった可能性もある。そして、数多くの「違った歴史」のどれかが実現していれば、その決断は誤ったものになっていたかもしれない。(p.237)


すぐれた決断というのは、論理的で知力に秀でた情報通の人が下した決断で、その時点、つまり結果がわかる前の段階において、すぐれているとみなされたものだ。(中略)

損失リスクの場合と同様に、ある決断が正しいものとなるかどうかを左右する多くの要因は、あらかじめ知ったり、数値化したりすることができない。堅実な分析に基づいて、すぐれた決断を下したにもかかわらず、異常事態によって不利益を被った者がいたのか、またヤマを張ったことで利益をあげた者がいたのかを確実に知るのは、事が起きたあとでも難しいかもしれない。つまり、誰が最良の決断を下したのかを知ることは困難なのだ。一方で、過去のリターンは容易に評価できるため、誰が最も儲かる決断を下したのかはわかりやすい。「すぐれた決断」と「儲かる決断」は混同されがちだが、洞察力のある投資家はその違いを十分に認識しているはずだ。

長期的には、すぐれた決断が投資利益をもたらすと信じるほかない。だが短期的には、すぐれた決断が投資利益につながらなかったとしても、冷静に振る舞わなければならない。(p.239)


「世界は、習熟することや予測することが可能な、秩序だったプロセスの中で動いている」と思い込んでいる投資家はプロ、アマを問わず多い。これらの投資家は、物事につきまとうランダム性と、将来の成り行きに関する確率分布を無視している。このため、自分が予測するたった一つのシナリオに基づいて行動する道を選ぶ。それでうまくいくこともあるが(その投資家は称賛されるだろう)、長期的な成功をもたらすほどの一貫した成果はあげられない。注目すべきは、経済予測でも投資戦略でも、その時々でみごとに的中させる者が必ずいるが、同じ人物が2回ということはまれだ。最も成功している投資家とは、大半の場合に「だいたい当たっている」者であり、それが他の投資家よりもはるかにすぐれた点なのだ。(p.310)


確率の話題は、本ブログで何度か取り上げています。たとえば、チャーリー・マンガーが勧めているやりかたは、将来のシナリオを描く際に順列・組み合わせを使うといったものです(過去記事)。