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2012年11月16日金曜日

網目のように考える(物理学者近角聰信)

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前回に続いて物理学の話題です。科学者がやる考え方を参考にしようと少しずつ探っていますが、『日常の物理学』という随筆集で興味をひく文章を目にしたので、ご紹介します。本ブログで取り上げているチャーリー・マンガーの「多面的メンタルモデル」とよく似ています。なお著者の近角聰信(ちかずみそうしん)氏は、東京大学の物性研究所で教授を務めていた方です。

物理学者はそのものの考え方から、明らかに次の二種類に分類することができる。論理型と直観型とである。しかし、論理型の人が数学者の考え方と似ていることはいうまでもないが、論理と直観とは、どちらが優れているとか劣っているとか比較できるものではなく、むしろ、お互いに直交する考え方なのであろう。物理学においてはその両者の考え方が使われる。普通は、理論物理学者はむしろ論理を、実験物理学者は直観を重んずると考えがちであるが、その傾向は研究者によってまちまちである。むしろ、論理型の人は整理的な研究を、直観型の人は創造的な研究をする傾向があるといった方がよいかもしれない。

では、直観型とはどういう考え方をいうのであろうか?世の中で直観というと、ものをよく分析せず、勘でものごとを判断することを意味する場合が多いが、直観型の物理学者の考え方は、決してそのようなものではない。第一に、そのような当てずっぽうな推理で、科学を推進することができるはずはない。一口でいえば、直観的な考え方は網のようなものだということができる。論理的な考え方が一本のロープであるとすれば、直観的な考え方は多重連結で、縦横無尽に糸をはりめぐらせた網にたとえられるというわけである。(p.78)


また、ある現象が数学的に解けた場合に、ひとつひとつの法則に矛盾しないかをチェックすることも、その網目構造を丈夫にすることに役立つ。たとえば、重力場で投げた物体が放物線を描いて運動することがわかった場合、この解がエネルギー保存則を満足しているかとか、運動量保存則を満足しているかなどとチェックしてみるのもその一例である。(p.81)


私がなぜ数式に物理的イメージを肉づけし、多重連結の思考構造を好むかというと、それは単に趣味の問題だけではなく、物理学の研究にそれが必要だからである。(中略)したがって、不完全な情報をもとにしてモデルを組み立てることが必要になってくる。いわゆる暗中模索というやつである。このような考えをする場合に、頭の中に物理学が有機的に組み立てられていないとどうにもならない。ただ一筋の論理を追っていけば、結論が得られるなどという簡単なものではない。文字通り一筋縄ではいかないのである。(p.82)


以下は、「多面的メンタルモデル」に関する代表的な過去記事です。

2012年11月14日水曜日

物理学から学んだこと(チャーリー・マンガー)

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おなじみの『Poor Charlie's Almanack』ではチャーリー・マンガーの前半生が記されており、短い大学時代に接した物理学の話題にも触れています。短いですが、チャーリーらしさが凝縮されている一節をご紹介します。(日本語は拙訳)

戦火の激しさが大西洋のこちら側にも伝わってきた1941年に、チャーリーはセントラル高校を卒業し、オマハを離れてミシガン大学へ進んだ。数字を使った論理・論法に惹かれていたので、数学を専攻した。また彼は、科学の履修要件を満たすためにある基礎的な単位を登録したことで、物理学に出会った。そして物理学のもつ力やその際限のない広がりに魅了されていった。とくに影響を受けたのは物理学者が従っているプロセスで、アルバート・アインシュタインのような人が未知の物事に立ち向かうときに使うものだ。その後チャーリーは、問題解決をする際には、好んで物理学的なやりかたで取り組むようになった。この技能は、人生におけるさまざまな問題を整理して把握するのに役立つ、と彼は考えているのだ。彼は折にふれてこう述べている。成功したければ、物理学を勉強しなさい。そこに登場する概念や数式は、理にかなった理論が持つ威力の大きさを、あざやかにみせてくれますよ、と。

In 1941, as the war raged across the Atlantic, Charlie graduated from Central High School and left Omaha for the University of Michigan. There he chose mathematics as his major, drawn by the appeal of numerical logic and reason. He also discovered physics after enrolling in a basic course to fulfill an academic requirement for science. Charlie was fascinated by the power of physics and its boundless reach. In particular, he was impressed by the process followed by physicists, such as Albert Einstein, to address the unknown. Physics-like problem solving was to become a passion for Charlie and is a skill he considers helpful in framing the problems of life. He has often stated that anyone who wants to be successful should study physics because its concepts and formulas so beautifully demonstrate the powers of sound theory.

2012年11月13日火曜日

金持ちの知り合いはたくさんいます(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの世知入門、今回はセクター・ローテーションの話題です。(日本語は拙訳)

投資家が市場に勝つためには、いいかえれば平均以上の成績を長期にわたってあげるには、普通株の銘柄選定を行うものとしてはどのスタイルをとるべきでしょうか。耳目を集めているやりかたのひとつに、「セクター・ローテーション」と呼ばれるものがあります。何をするのかといえば、小売よりも原油銘柄のほうが株価が上がるのはいつだろうか、といったことを見極めるだけです。人気のあるセクターをそこそこ転々とすることで、他人よりもよいものを選ぶわけです。このやりかたは、長い目で見れば、まあ成功できるのではないでしょうか。

しかし、セクター・ローテーションで裕福になった人というのを、私は知りません。この方法では成功できない、とは言いません。たぶん誰かは成功しているのでしょう。しかし金持ちの知り合いはたくさんいますが、そうやって金持ちになった人は一人もいない、ということは申しておきましょう。

What style should the investor use as a picker of common stocks in order to try to beat the market - in other words, to get an above average long-term result? A standard technique that appeals to a lot of people is called “sector rotation.” You simply figure out when oils are going to outperform retailer, etc., etc., etc. You just kind of flit around being in the hot sector of the market making better choices than other people. And presumably, over a long period of time, you get ahead.

However, I know of no really rich sector rotator. Maybe some people can do it. I'm not saying they can't. All I know is that all the people I know who got rich - and I know a lot of them - did not do it that way.

2012年11月12日月曜日

少し先のことさえ、わかりません(ウォーレン・バフェット)

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今回は業績予想の話題です。ウォーレン・バフェットの2002年度「株主のみなさんへ」からの引用です。(日本語は拙訳)

業績予想や成長の見込みを吹聴する企業は疑ってかかるべきです。ビジネスを営む以上、平穏無事な状況はそうそう長続きしないため、利益は一本調子では上がっていきません。(そういうのは、投資銀行がだしてくる目論見書の中だけです)

来年はおろか、次の四半期でさえ、われわれの事業がどれだけ利益を挙げるのか、チャーリーにもわたしにも予測することはできません。ですからわたしどもは、将来が予測できると日常的に発言するようなCEOには、疑問を抱いています。宣言した目標をことごとく達成しているとしたら、絶対に信じられません。「これこれの数字を達成します」と常々約束するような経営者は、いずれは「数合わせ」をしたくなるからです。(PDFファイル20ページ目)

Finally, be suspicious of companies that trumpet earnings projections and growth expectations. Businesses seldom operate in a tranquil, no-surprise environment, and earnings simply don't advance smoothly (except, of course, in the offering books of investment bankers).

Charlie and I not only don't know today what our businesses will earn next year - we don't even know what they will earn next quarter. We are suspicious of those CEOs who regularly claim they do know the future - and we become downright incredulous if they consistently reach their declared targets. Managers that always promise to “make the numbers” will at some point be tempted to make up the numbers.


先行きが不透明になってきて、各社の業績予想も控えめになってきました。そうであっても先のことがわからない以上、細かな数字の差異にこだわるのはミスター・マーケットに任せておいて、事業の本質を的確に把握したり、じっと機会を待ち続けたりすることに、心を向けたいと思います。

2012年11月10日土曜日

誤判断の心理学(22)そこに点耳薬を差すのか(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの誤判断の心理学です。今回の逸話は楽しんで読めますが、われわれにも深く根ざしている傾向かと思います。(日本語は拙訳)

(その22) 権威によって、誤って影響される傾向
Twenty-Two: Authority-Misinfluence Tendency

ご先祖様もみな同じだったように、順位制の中で生きるということは、他人を従えることができる人はひと握りに限られているため、ほとんどの場合、人は指導者に従うように生まれつきます。人の社会というものは順位制によって成り立っており、考えずとも指導者に従うのを善とする文化が育まれています。

Living in dominance hierarchies as he does, like all his ancestors before him, man was born mostly to follow leaders, with only a few people doing the leading. And so, human society is formally organized into dominance hierarchies, with their culture augmenting the natural follow-the-leader tendency of man.


誤った影響には、こっけいなものもあります。チャルディーニが示した例によると、耳の治療をしている看護婦に対して、医師が文書で指示を残しました。「1日2回、2滴。'r. ear'」。それを読んだ看護婦は患者を反対向きにして、肛門へ点耳薬を差したのです[right earとrearを取り違えた]。

権威からくるわかりにくい指示が悲劇を招いた例もあります。第二次世界大戦中の、将軍付きのなりたてのパイロットの話です。自分のそばの副操縦士席に座っている将軍に気に入られようとするばかりに、彼がちょっと動いたことを誤って解釈し、ばかげたことをする命令ととらえました。そのせいで航空機は墜落し、パイロットは下半身不随となったのです。

当然ながらバフェットも上司の立場にある者として、このような事例を参考にしています。事業を経営する各パイロットのそばでは、静かすぎるぐらいほど口をつぐんでいます。

Some of the misinfluences are amusing, as in a case described by Cialdini. A physician left a written order for a nurse treating an earache, as follows: “Two drops, twice a day. 'r. ear.'” The nurse then directed the patient to turn over and put the eardrops in his anus.

Other versions of confused instructions from authority figures are tragic. In World War II, a new pilot for a general, who sat beside him in the copilot's seat, was so anxious to please his boss that he misinterpreted some minor shift in the general's position as a direction to do some foolish thing. The pilot crashed the plane and became a paraplegic.

Well, naturally, cases like this one get the attention of careful thinkers like Boss Buffett, who always acts like an overquiet mouse around his pilots.


コスタリカのリオ・コロラドで釣りをした時に、私についたガイドがあきれ顔で話をしてくれました。ターポン[大型の肉食魚]は初めてという釣り人が以前にこの川にやってきたときのことです。私と同じように付き添いのガイドが船を進め、釣りについて助言をしました。このガイドこそ、権威を持つ者の話をする上でぴったりの人物なのです。さて、その釣り人にも巨大なターポンが食いつき、「ガイド」という名の権威ある者が指示を出しはじめます。「上げて、下げて、リールを巻いて」、釣り人はそれに従って釣り竿を扱います。そしていよいよ釣り竿をたわませて、魚に対してもっと力をかける必要になった時に、ガイドが英語でこう言いました。ガイドの母国語はスペイン語だったのですが、釣り人のほうは英語だったのです。「さおを魚へ、さおを魚へ」。なんと、釣り人は高価な釣り竿を魚にむかって放りだしたのです。釣り竿はリオ・コロラドをくだり、海のほうへと流れていったのでした。この例は、権威を発揮する人によって生まれる傾向が、いかに強力で人の脳みそをぐだぐだにしてしまうか、よく示しています。

最後の例はビジネスからです。ある大企業のCEOに、心理学の博士号をとった人物が就任しました。やりたいほうだいの彼は、人里離れたところに大枚はたいて本社オフィスを建てました。しかも見事なワインセラー付きです。当然のことですが、しばらくすると彼の部下たちが、資金がつきかけていると異議を唱えました。それに対するCEOの返事は「減価償却引当金からなんとかしろ」。減価償却引当金は貸方の勘定科目ですから、そうするのは容易ではないでしょう。

このCEOやもっと悪い例が他にもいろいろあるように、権威というものを過剰に尊重しすぎると、その人たちは排除されて然るべきとわかっても、その後も長きにわたって重要な会社の手綱さばきを任せたまま、ということがあります。これが暗示していることはわかりやすいですね。権力を持たせる相手には注意せよ。というのは、権威によって誤って影響される傾向が働くために、権威をふるう者を取り除こうとしても難しいことがあるからです。

When I once fished in the Rio Colorado in Costa Rica, my guide, in a state of shock, told me a story about an angler who'd earlier come to the river without ever having fished for tarpon. A fishing guide like the one I had runs the boat and gives fishing advice, establishing himself in this context as the ultimate authority figure. In the case of this guide, his native language was Spanish, while the angler's native language was English. The angler got a big tarpon on and began submitting to many directions from this authority figure called a guide: tip up, tip down, reel in, etc. Finally, when it was necessary to put more pressure on the fish by causing more bending of the angler's rod, the guide said in English: “Give him the rod, give him the rod.” Well, the anger threw his expensive rod at the fish, and when last seen, it was going down the Rio Colorado toward the ocean. This example shows how powerful is the tendency to go along with an authority figure and how it can turn one's brain into mush.

My final example comes from business. A psychology Ph. D. once became a CEO of a major company and went wild, creating an expensive new headquarters, with a great wine cellar, at an isolated site. At some point, his underlings remonstrated that money was running short. “Take the money out of the depreciation reserves,” said the CEO. Not too easy because a depreciation reserve is a liability account.

So strong is undue respect for authority that this CEO, and many even worse examples, have actually been allowed to remain in control of important business institutions for long periods after it was clear they should be removed. The obvious implication: Be careful whom you appoint to power because a dominant authority figure will often be hard to remove, aided as he will be by Authority-Misinfluence Tendency.


<誤訳修正> 2017/7/17(月) 「点耳薬」とすべき言葉を、当初は「目薬」と訳していました。