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2012年9月30日日曜日

テクノロジーは事業主を満腹にしてくれない(チャーリー・マンガー)

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世知のつづき、今回からは「技術(テクノロジー)」の話題です。ウォーレン・バフェットがハイテク企業に投資したがらない背景がうかがえます。(日本語は拙訳)

ここで、ミクロ経済学から得られる大きな教訓をあげておきましょう。それは、技術というものがどんなときに身を助け、どんなときに破滅をもたらすのか、見極めるべきだということです。ほとんどの人はこのことをわかっていませんが、バフェットのような相棒はちゃんとわかっています。

たとえば我々が織物の事業に携わったときのことです。なんともコモディティー[汎用品]の商売で、安価な織物を製造していました。まさに、よそと同じ汎用品です。あるとき、ウォーレンのところにきた人たちがこう訴えました。「新しく開発された織機を導入すれば、現有機の2倍は作れます」。それを聞いてウォーレンは真剣な顔で答えました。「いいえ、そううまくいくとは思いませんね。うまくいくようだったら、工場を閉めますよ」

彼が何を考えていたと思いますか。そうです、こう考えていたのです。「平均以下の利益しかあげられないこの事業は、年配の労働者のために続けているだけのダメな商売で、巨額の追加資本を投入するつもりはない」

彼にはわかっていたのですね。汎用品を生産するために高性能の機械を導入しても、生産性が大幅に向上したところで、得られる利益はすべて織物を買う側のものとなるだろう。事業主を満足させてくれるものは何も残らないだろう、と。(中略)

もちろん、機械が悪いというわけではありません。コスト削減で浮いた分が自分のものにならないだけです。コスト削減はうまくいきますが、それによって得られたものは機械を買った人のものにはならないのです。簡単で基本的なことですね。しかし、人はこのことを忘れてしまいがちです。

The great lesson in microeconomics is to discriminate between when technology is going to help you and when it's going to kill you. And most people do not get this straight in their heads. But a fellow like Buffett does.

For example, when we were in the textile business, which is a terrible commodity business, we were making low-end textiles - which are a real commodity product. And one day, the people came to Warren and said, “They've invented a new loom that we think will do twice as much work as our old ones.” And Warren said, “Gee, I hope this doesn't work - because if it does, I'm going to close the mill.” And he meant it.

What was he thinking? He was thinking, “It's a lousy business. We're earning substandard returns and keeping it open just to be nice to the elderly workers. But we're not going to put huge amounts of new capital into a lousy business.”

And he knew that the huge productivity increases that would come from a better machine introduced into the production of a commodity product would all go to the benefit of the buyers of the textiles. Nothing was going to stick to our ribs as owners.

And it isn't that the machines weren't better. It's just that the savings didn't go to you. The cost reductions came through all right. But the benefit of the cost reductions didn't go to the guy who bought the equipment. It's such a simple idea. It's so basic. And yet it's so often forgotten.

2012年9月29日土曜日

自分の戦術に酔ってしまう(ハワード・マークス)

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少し前に取り上げたOaktreeの会長ハワード・マークスが、新しいメモOn Uncertain Ground(PDFファイル)を公開していました。先行きが見通せない最近の状況を概括していますが、唯一安心できる材料として投資家の心理が悲観的なことを挙げています。しかし、だからといって行き過ぎた行動を取らないように、今回ご紹介する文章では基本を忘れないよう戒めています。(日本語は拙訳)

どんな行動をとる場合でも、それによって得られる期待値を求めるには、「正しく実行したときに得られる結果に対して、その行動が正しいであろう確率を乗じたもの」から「失敗したときに発生する潜在的なコストに対して、その行動が失敗するであろう確率を乗じたもの」を減じることが必要です。ここで投資家にありがちなのは、自分の戦術によって得られるであろう利益に目が行ってしまい、それが正しいことなのかどうかの確率がお留守になりやすいことです。私自身は正しく予測する能力、とくにタイミングを適切につかむ能力が欠けているので、短期的なマクロの状況を判断して利益を得ようとは考えないことにしています。

海が荒れているようなときには、次に来る波が船のへさきを持ち上げるのかそれとも沈めるのかといったことは考えずに、長く続く航海を成し遂げることに集中するのが一番です。私たちの投資にとって目指す目的地へ向かう最善の方法とは、投資対象となる資産の価値を的確にみさだめ、その価値と価格のあいだにあるものを評価し、間違った価格をみつけたときには感情を排し、断固として行動にでることです。それこそが投資で成功するためのもっとも信頼できる、そして私が思うにただひとつの航路です。現在の状況がどうであれ、これはいささかも変わることはありません。(p.12)

The expected value from any activity is the product of the gains available from doing it right multiplied by the probability of doing it right, minus the potential cost of failing in the attempt multiplied by the probability of failing. Investors are often blinded by the potential gains from a tactic and thus don't think much about the likelihood they can get it right. Because I think so little of the ability to make correct forecasts - and especially of the ability to get the timing right - I dismiss attempts to benefit from short-term macro judgments.

The best response when seas are choppy is to focus on completing the long-term voyage and not think about whether the next wave is going to push the nose of the boat up or down. Our investment destination is best reached by accurately valuing assets, assessing the relationship between price and that value, and acting resolutely and unemotionally when mispricings are detected. That's still the best - I think the only - reliable path to investment success. Nothing about the current environment alters that one bit.


チャーリ・マンガーのファンのみなさんにおまけです。メモの最後のほうで、ハワード・マークス氏がチャーリーから教わった助言が紹介されています。

2012年9月26日水曜日

ボブ、あなたのせいですよ(ボブ・ロドリゲス)

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慎重派ファンド・マネージャーのボブ・ロドリゲスが、マクロ経済と株式市場に大きな懸念を示しています。FRBバーナンキがQE3を決定してすぐに、FPAファンドのWebサイトでコメントALL IN!を公開しました。その中でファンドの顧客とポートフォリオ・マネージャーに対して、こう書いています。「このまま株式市場が上昇し続ければ、わたしたちにとっては規律が試されるときがやってきます」。株価が上がれば割安度が下がるため売却し、現金の比率を高めるという意味です。たしかに、アメリカ株式市場は気持ちよく上昇しています。


最近は彼の弱気ぶりも有名になったようで、CNBCが早速インタビューをしています。動画へのリンクは以下のとおりです。

Brace for Another Big Drop in Stocks?(CNBC Video)

ところで、映像の5分過ぎあたりで司会の女性曰く、「ボブ、今日のマーケットはプラスだったのですが、あなたのおかげでマイナスになってしまいましたよ」。こういう軽いジョーク、いいですね。ボブも思わず笑っていました。ふと、ニュースステーション時代の久米宏さんを思い出しました。

2012年9月25日火曜日

きわめて有利なときに賭ける(経済学者ステファン・マンデル)

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最近読んでいる本『素晴らしき数学世界』で興味をひかれた箇所があったので、ご紹介します。投資ではなくギャンブルの話題ですが、その確率的思考と絶妙な行動力は参考になります。文中に登場するステファン・マンデル氏は、ルーマニア出身の経済学者です。

数学的に言えば、ロトくじは合法的な賭け事のなかで圧倒的に客の分が悪い。どれほどがめついスロットマシンでも、還元率は85パーセントくらいはある。ところがイギリスの国営ロトくじの還元率は、およそ50パーセントだ。くじの売上金の一部を賞金にまわすだけなので、くじの運営者にリスクは生じない。イギリス国営ロトくじでは、売上金の半分が賞金に充てられる。

しかしまれに、ロトくじがきわめて有利な賭け事となる場合もある。こうなるのは、賞金が次回に持ち越される「キャリーオーバー」によって、生じうる数字の組み合わせをすべて買う費用よりも賞金のほうが高くなったときだ。この場合、すべての組み合わせを買えば、そのなかには確実に当選の組み合わせも入ることになる。ここでリスクとなるのは、ほかにも同じ組み合わせを買った人がいて、1等の賞金を分配するはめになる可能性だけだ。ただし、全部の組み合わせを買うというやり方は、それを実行する力があるかどうかにかかっている。理論的にも現実的にも、きわめて難しいことなのだ。(中略)

メルボルンに落ち着くと、マンデルはロトくじ購入の国際シンジケートを設立した。会員から十分な資金を集めて、すべての組み合わせを買いたいと思うロトくじがあれば買えるようにしたのだ。世界中のロトくじを調べて、賞金のキャリーオーバーがすべての組み合わせの購入費用と比べて3倍以上になっているものを探した。そして1992年、ヴァージニア州営ロトくじに目をつけた。1口1ドルで、数字の組み合わせは700万通りあり、1等賞金が2800万ドル近くに達していた。マンデルは行動を開始した。オーストラリアで申込用紙を印刷し、コンピューターを使って700万通りの組み合わせをすべて記入して、アメリカへ航空便で送った。すると1等が当たり、さらに2等以下も13万5000本当たった。(中略)

マンデルはすでにロトくじ購入から引退し、南太平洋の熱帯の島で暮らしている。(p.458)

2012年9月24日月曜日

複数のモデルが相乗的に働く「とびっきり効果」(チャーリー・マンガー)

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前々回の投稿で「経営者が適切なアクションをとれない」原因として複数の心理学的傾向が働いているのでは、と書きました。これが適切かどうかはともかく、このように複数の原動力が同時に働くときには注意して考えるように、とチャーリー・マンガーが説いています。今回は彼の名言"Lollapalooza effects"をとりあげます。日本語は拙訳で、「とびっきり効果」と訳しました。

これはとても重要なので忘れないようにしてください。とくに大きな力というのは、100種にわたるモデルのどれかからくることが多いのです。そして複数のモデルが結合すると、「とびっきり効果」(lollapalooza effects)が生じます。2つや3つ、4つの力がすべて同じ方向へ向かって働くわけです。単なる足し算では終わらずに、物理学で言うところの臨界量のようなものになることがよくあります。臨界に達したときには核爆発が起きますし、臨界に達しなければ特に何も起きません。それぞれの力は順次追加されていくこともありますし、破断点や臨界量に達した時点で合わさることもあります。

もっとよくあるのは、それらの100種類ものモデルからくる力同士が、部分的に対立してしまうことです。その場合、心ならずも大きなトレードオフをしなければなりません。しかしトレードオフができなかったり、そもそもトレードオフが存在するのを認識できていない人は、ただのおばかさんです。真剣に考えている人たちからすれば厄介ものでしょう。ですから、そういったモデルがどのように結合するのか認識しなければなりません。生物学者のジュリアン・ハクスリーが言ったことの本質を悟るべきです。「生命とは、まさに次にくるものとの関連性である」。モデルを頭の中に叩き込んだ上で、お互いにどう関連するのか、そして関連によってどんな効果が生じるのか想像しなければならないのです。(Outstanding Investor Digest誌、1997年12月29日号)

The most important thing to keep in mind is the idea that especially big forces often come out of these one hundred models. When several models combine, you get lollapalooza effects; this is when two, three, or four forces are all operating in the same direction. And, frequently, you don't get simple addition. It's often like a critical mass in physics where you get a nuclear explosion if you get to a certain point of mass - and you don't get anything much worth seeing if you don't reach the mass. Sometimes the forces just add like ordinary quantities and sometimes they combine on a breakpoint or critical-mass basis.

More commonly, the forces coming out of these one hundred models are conflicting to some extent. And you get huge, miserable tradeoffs. But if you can't think in terms of tradeoffs and recognize tradeoffs in what you're dealing with, you're a horse's patoot. You clearly are a danger to the rest of the people when serious thinking is being done. You have to recognize how these things combine. And you have to realize the truth of biologist Julian Huxley's idea that 'Life is just one damn relatedness after another.' So you must have the models, and you must see the relatedness and the effects from the relatedness.(Outstanding Investor Digest, December 29, 1997)


ご参考になる過去記事は次のとおりです。