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2012年8月8日水曜日

脊椎動物はひっくり返った昆虫なのだ(動物学者サンティレール)

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少し前にとりあげた本『ビジュアル版 科学の世界』で(過去記事)、逆に考えることで成果を挙げた科学者が二人登場していたのでご紹介します。

有機化学すなわち炭素の科学に真の突破口が切り開かれたのは、1960年代、ハーヴァード大学の教授でノーベル賞も受賞したイライアス・J・コーリーが、「逆合成解析」という手法を考案したときのことだ。この技術は、化学者が大きくて複雑な分子を小さくて手に入りやすい-そして通常はずっと安価な-出発物質から作り出すのに使える、もっとも強力なツールの1つとなった。
この手法は、合成のターゲットとする分子をジグソーパズルのように考えることでうまくいく。ターゲットから逆に考えることによって、一緒に反応させると触媒や反応物の手引きによって組み合わさり、パズルが完成するような構成要素を探し出せるのだ。(p.152)


フランスの動物学者ジョフロワ・サンティレールは、すべての動物が同じ基本的な体制をもつと考えていた。だが昆虫の場合、主要な神経索は内臓の腹側にあるのに対し、脊椎動物の場合、脊椎は背中側にある。それでもサンティレールはひるまず、このことから脊椎動物は基本的にひっくり返った昆虫なのだと推論した! そんなはずはないように思えるが、この考えも最近の発見によって裏づけられている。(中略)脊椎動物は昆虫をひっくり返したものだというサンティレールの奇抜な推測も、正しいことが立証されている。無脊椎動物ではどちら側が腹になるかをきめているホメオティック遺伝子が、脊椎動物ではどちら側が背になるかを決めているのだ。(p.222)


こうして過去をふりかえってみると、逆に考えることで成功した例はいろいろ見つかるものですね。

2012年8月7日火曜日

投資の世界で生き残る公式(ハワード・マークス)

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ハワード・マークス氏(Howard Marks)というマネー・マネージャーのことを最近知りました。彼が立ち上げて会長を務めているOaktree Capital Managementは、預かり資産5兆円超のオルタナティブ・ファンドです。顧客向けに書いたメモが一般にも公開されており、これが話題となっていたのに目がとまった次第です。

ウォーレン・バフェットも彼の文章を読んでいるようですが、実はそれだけの関係ではありませんでした。本ブログでよくとりあげる『Poor Charlie's Almanack』のWebサイトに同氏の著作『The Most Important Thing』が並んでいたのです。

今回ご紹介するのは、少し前のメモWhat Can We Do For You?からの引用です。なお、Oaktreeの主な投資先はDistressed Debt(「債務不履行債券」あたりが近い訳)などの債券ですが、彼の見識は株式投資にもそのまま通じるものと感じています。(日本語は拙訳)

不確実なことを試みるときには、その先になにがあるのかわからなくても、わからないのにわかっていると考えるのと比べれば、全然悪いことではありません。知らない道を使ってドライブに行くときのことを考えてみてください。地図を調べて、GPSの指示に従い、コースどおりか目印を確かめたり、方角を確かめたりしながら慎重に進むでしょう。一方、よく知っている道であれば、そういう作業は省略するものです。しかし、そう思っていたのに実はよくわかっていない道だったとしたら、どうでしょうか。目的地に着くのはもっと難しくなるでしょう。

In any endeavor involving uncertainty, not knowing what lies ahead isn't nearly as bad as thinking you know if you don't. If you're setting out for a drive and recognize that you don't know the way, you're likely to check a map, follow your GPS, ask directions and drive slowly, watching for indications you've gone off course. But if you're sure you know the way, you're more likely to skip these things, and if it turns out you didn't know, that'll make it much harder to reach your destination.


次は、マーク・トウェインの一文を借りてきています。

未来のことがわかると考える人と、わからないと考える人では、かなり違った行動をとる可能性があります。ここで大切なのは、正しいほうの道を選んで進むことです。マーク・トウェインもこう言っています。「わからないのはたいしたことじゃない。絶対わかっていると思っているのに実はわかっていないほうがやっかいだ」。投資の世界には生き残る公式というものがありますが、これはそこに含まれる要素の一つなのです。

The difference in behavior between those who think they can know the future and those who don't is potentially enormous. It's essential to be on the right side of this choice because, as Mark Twain said, "It ain't what you don't know that gets you into trouble. It's what you know for sure that just ain't so." That's an essential component of the formula for investment survival.


最後に、ハワード・マークスが顧客にむけて「できませんよ」と宣言している箇所です。

世界経済がどうなるのか、わかりません。
市場はいつどれだけ上がるのか下がるのか、わかりません。
どの市場あるいは市場の一部がいちばん成績をあげるのか、わかりません。
市場でどの証券が成績上位になるのか、わかりません。

we can't know what the economics of the world will do,
we can't know whether markets will go up or down, and by how much and when,
we can't know which market or sub-market will do best, and
we can't know which securities in a given market will be the top performers.


はっきりとものが言える、気持ちのいい5兆円のボスですね。

2012年8月5日日曜日

諸戸家遺訓(日本有数の大地主 諸戸清六)

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以前とりあげた『商家の家訓』から再び引用します(過去記事)。今回は明治維新前後に活躍した諸戸清六氏による家訓です。同氏は父親の残した莫大な借金2000両をかかえての出発でした。「時は金なり」を信条として「人が10時間働けば自分は15時間、人が3杯飯を食べれば自分は1杯で辛抱する、人が不用だと捨てたものは自分が利用する」という生きかたで財を成しました。明治21年(当時42歳)のころには、東京の恵比寿から渋谷、駒場に至る住宅地30万坪を買い捲り、一時は渋谷から世田谷まで、他人の地所を踏まずに行けたとあります。

第1条「時は金なり」
時は金なりである。時間は有効に使うべきである、決して忘れてはならない。

第3条「銭のない顔」
いつもお金がないという顔をすべきである。お金があるという顔をしていると、余分な出費が多くなる。仮に、お金がないという顔をしていて人様に笑われることがあっても、後々成功した暁には、流石だと褒められるものである。

第4条「質素」
派手な暮らしぶりはよくない。できるだけ質素な生活をすべきである。着物は垢が付きにくく、すぐに洗える木綿の服で十分であるので、無駄なことはするな。

第5条「人を選ぶ」
自分の財産を減らさないようにするには、平素の付き合いをする人は誰でもよいというものではない。質素倹約をして地道に生活をしている人がよいので、そのような人を交際相手に選ぶべきである。

第9条「知恵を得る」
いろんな人に会って、その人々から多くのことを教えてもらうように心掛けるべきである。

第10条「馬鹿になる」
賢い人は、いつでも馬鹿になれる人である。このような人になれば、頭を下げて色々な人に質問もでき、商売もできるのである。気位が高いだけの人間になってはいけない。

第13条「2年先を見よ」
2年先の予測、見極めができるようにすべきである。また、たまたま儲かったお金は労働の対価でないので、他人のお金を預かったのと同じことであると、心得るべきである。(p.271)


質素倹約を旨としていますが、かといって商機は逃さなかったようです。商用で汽車に乗るときは、必ず1等か2等の切符を購入し、3等には乗らなかったとあります。当人いわく「1等や2等の乗客は学識があり、実力のある人が乗り合わせている。このような人と乗り合わせるのは、商機が多く、自分のためになる。いたずらに少しのお金をケチって、チャンスを失うことは大きな利益を失うことになり、大きな損失である」としています。

2012年8月3日金曜日

シルバーの需要動向(2011年)

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最近は値動きが小さいかあまり注目されていないシルバー(銀)ですが、その動向は適宜追いかけるようにしています。シルバーの著名なアナリストであるテッド・バトラーによると、シルバーの相場はごく少数のJPモルガン・チェースのような大銀行によって操作されているとされています。そのため短期的な価格を推し量りたければ、それらの動向を考慮する必要があるかもしれません。一方、中長期の値動きとなると、他の商品と同様に需給の力関係がきいてくるようです。今回は、その需要動向に関する話題です。

シルバーの生産者等による業界団体The Silver Instituteが、2011年度の概況を最近公開しました(World Silver Survey 2012 A Summary)。それによれば、シルバーの加工用需要(つまり純投資用を除いたもの)は前年比で1.5%減になったとのことです。


今回同書から引用するのは、比率の最も大きい産業向け需要に関する一節です。(日本語は拙訳)

産業用途における需要は、通年で2.7%減の48,650万オンスとなった。第4四半期になって想定以上に需要が後退したため、第1四半期での増加分は帳消しになった。2011年末にみられた需要後退の原因は、主として最終ユーザーである需要家が欧州財政危機による[ユーロ]離脱を懸念して発注を控えたことによるものだった。また一部の用途では価格高騰に伴う節減や他材料による代替もいくぶんみられ、需要減の一因となった。セクター別に見ると、太陽光関連の減少がもっとも目を引いた。ただし潜在的な需要が減少したことよりも、在庫過剰の問題が大きかった。アメリカにおける昨年の需要減の大半がこれに起因するものだったが、絶対額ベースでは日本での減少が大きかった。とくに第4四半期にはエンドユーザーからの受注減がひどかった。絶対額の変動が3番めに大きかったのは中国だが、これは5%にのぼる増加であり、過去最高を記録した。

A largely unexpected slump in industrial demand during the fourth quarter outweighed strong first half gains, generating a full year loss of 2.7% to 486.5 Moz (15,132 t). The weakness seen late in 2011 was chiefly the result of industrial end-users slashing orders due to fears over the fallout from the Eurozone’s sovereign debt crisis. There was also a degree of pressure on offtake from price-led thrifting and substitution in some areas of industrial use. On a sectoral basis, the main feature last year was a fall in photovoltaic demand, which resulted from inventory mismatches, rather than a drop in underlying demand. That also explains much of US losses last year, although its absolute fall was just eclipsed by Japan, which suffered more from the fourth quarter drop in end-user orders. The third largest absolute change related to China but in this instance it was a rise of nearly 5% to a new record.

蛇足になりますが、個人的な見解としては、エネルギー消費が増大しつつも二酸化炭素の排出を抑えることが強く要求される時代においては、シルバーの有用性が下がることはないと考えています。その上で価格がどこまで許容できるのかは、使用用途によって異なってくると捉えています。

2012年8月1日水曜日

そもそも口は、きわめて個人的な場所である(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知入門、規模の経済の第2回目です。今回は心理学的な要因も関わっていて、チャーリーらしいモノの見方となっています。(日本語は拙訳)

また規模の経済は、情報面での優位にもつながります。どこか見知らぬ街へ行ったときにチューインガムを買おうとしたところ、リグリー[日本で言えばロッテに相当]の横にグロッツというブランドが並んでいたとします。リグリーの製品が満足に値することは知っていますが、グロッツのことは全然知りません。さて、リグリーが40セントでグロッツが30セントだとしたら、わずかな金額を節約するために知らないほうを買って口の中に入れるでしょうか。そもそも口というのは、きわめて個人的な場所ときているものです。

ですから、実のところリグリーは単に有名だからというだけで規模の経済を有しているのです。これは「情報優位」と呼ぶべきかもしれません。

他の規模の経済としては心理学的なものがあります。心理学者が「社会的証明」と呼ぶもので、あらゆる人は無意識に、あるいは意図してやることもありますが、他人がすることや認めることに影響されるものです。ですから他人が買ったもの、すなわちそれはよいものだと考えるわけです。ひとは外れ者になりたくないですからね。

重ねていいますが、これは潜在意識下で働く場合とそうでない場合があります。ときには意識しながら合理的に考えるのです。「ええと、自分にはよくわからないけれど、あの人たちのほうが知っているから、そっちに従うことにしよう」

まさに心理学からきているこの社会的証明とは、たとえば容易には構築できないような大規模の流通網を持つものに、莫大な優位をもたらしてくれる現象です。世界中のほとんどどこでも買えるということは、コカ・コーラが有利な理由の一つに挙げられるでしょう。

いま手にしているジュース、これが世界中どこでも手に入れられるようにするには、どうすればよいか正確に答えられるでしょうか。大企業は世界規模の流通網を培うのに時間をかけてきました。これは莫大な優位を与えてくれるものです。そうです、そのような大きな優位をいったん手にした人を他の者が追い落とすのは、とても難しいのです。

And your advantage of scale can be an informational advantage. If I go to some remote place, I may see Wrigley chewing gum alongside Glotz's chewing gum. Well, I know that Wrigley is a satisfactory product wheres I don't know anything about Glotz's. So if one is forty cents and the other is thirty cents, am I going to to take something I don't know and put it in my mouth - which is a pretty personal place, after all - for a lousy dime?

So, in effect, Wrigley, simply by being so well known, has advantages of scale - what you might call an informational advantage.

Another advantage of scale comes from psychology. The psychologist use the term "social proof." We are all influenced - subconsciously and, to some extent, consciously - by what we see others do and approve. Therefore, if everybody's buying something, we think it's better. We don't like to be the one guy who's out of step.

Again, some of this is at a subconscious level, and some of it isn't. Sometimes, we consciously and rationally think, "Gee, I don't know much about this. They know more than I do. Therefore, why shouldn't I follow them?"

The social proof phenomenon, which comes right out of psychology, gives huge advantages to scale - for example, with very wide distribution, which of course is hard to get. One advantage of Coca-Cola is that it's available almost everywhere in the world.

Well, suppose you have a little soft drink. Exactly how do you make it available all over the Earth? The worldwide distribution setup - which is slowly won by a big enterprise - gets to be a huge advantage.... And if you think about it, once you get enough advantages of that type, it can become very hard for anybody to dislodge you.