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2012年7月30日月曜日

誤判断の心理学(実例)旅客機からの脱出試験(チャーリー・マンガー)

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このシリーズでは主に、チャーリー・マンガーが挙げている25種類の心理学的傾向をとりあげています。今回は順序が入れ替わりますが、チャーリーがすべての傾向を説明した後に触れている実例の部分をご紹介します。本ブログで未紹介のものも含まれていますが、いずれも文意から想像がつくものです。(日本語は拙訳)

二番目の自問自答に進みましょう。これまで私がとりあげてきたシステムを使って、心理学的傾向が複合的にあらわれている実例を挙げてもらえますか。ミルグラムがやった心理学の実験のようなものではなくて、ちゃんと因果関係がわかるように互いに影響したやつですよ。わかりました、私が気に入っている例をご紹介しましょう。マクドネル・ダグラス社[現ボーイング社]が新型旅客機の脱出試験を行ったときの話です。新型機を販売する前には、政府が決めた脱出試験に合格することが義務付けられています。これは、所定の短い時間のうちに定員の乗客が脱出することを要求するものです。政府は現実に即した形で試験を実施するよう定めているので、試験に参加する乗客をたとえば20歳の運動選手だけで構成するというのは認められません。そこでマクドネル・ダグラスは、脱出要員として年の入った人も少なからず手配し、薄暗い格納庫で試験を実施するよう計画しました。格納庫のコンクリートの床から乗客席のある高さまではおよそ6メートル、ごくふつうの軟らかさのゴム製シューターを使って脱出するという手はずです。最初の試験が実施されたのは午前中でしたが、20名の重傷者がでました。脱出に時間がかかって制限時間を超過し、試験結果は不合格でした。そこでマクドネル・ダグラスが講じた手は何かというと、その日の午後に同じ試験を繰り返したのです。結果はまたしても不合格。今度も重傷者20名以上、そのうち1名は麻痺が残るほどでした。

My second question is: Can you supply a real-world model, instead of a Milgram-type controlled psychology experiment, that uses your system to illustrate multiple psychological tendencies interacting in a plausible diagnosable way? The answer is yes. One of my favorite cases involves the McDonnell Douglass airliner evacuation test. Before a new airliner can be sold, the government requires that it pass an evacuation test, during which a full load of passengers must get out in some short period of time. The government directs that the test be realistic. So you can't pass by evacuating only twenty-year-old athletes. So McDonnell Douglas scheduled such a test in a darkened hangar using a lot of old people as evacuees. The passenger cabin was, say, twenty feet above the concrete floor of the hangar and was to be evacuated through moderately flimsy rubber chutes. The first test was make in the morning. There were about twenty very serious injuries, and the evacuation took so long it flunked the time test. So what did McDonnell Douglas next do? It repeated the test in the afternoon, and this time there was another failure, with about twenty more serious injuries, including one case of permanent paralysis.


このお粗末な結末に影響を及ぼしたのはどのような心理学的傾向だったのでしょうか。さきに私が挙げてきた一連の傾向をチェックリストとして使って説明してみましょう。試験に合格しないと旅客機を販売できないため、マクドネル・ダグラス社は「報酬に過剰反応する傾向」に従って作業を急ぎます。次に後押しするのが「疑いを持たない傾向」で、ある決定を下した後は、惰性的にそのまま物事を進めようとしています。一方、政府が現実的な試験を実施するように要請したことで、マクドネル・ダグラスは「権威によって、誤って影響される傾向」によって過剰に反応し、危険なこと明白な試験方法を採用しました。そして実行方針が決まったことで「終始一貫しようとする傾向」が働き、常識はずれともいえる計画のまま進むこととなったのです。さて試験の当日、ご年輩の実験参加者全員が暗い格納庫へ入場してきた様子をみたマクドネル・ダグラスの従業員。見上げた先には乗客席、一方の床はコンクリート製。これは怪しいのではないかと感じたことでしょう。ところが他の従業員や監督からは反対の声があがりませんでした。ここで「社会的証明の傾向」が登場し、疑念の上に覆いかぶさったのです。さらなる「権威によって、誤って影響される傾向」によって導かれ、試験はそのまま実行されましたが、失敗におわっただけでなく、重傷者を出す結果となりました。しかしマクドネル・ダグラスは午前中の失敗で得られた強力な反証を無視しました。確証バイアスとともに「剥奪されることに過剰反応する傾向」が強く働いたことで、当初の計画を固守する道を選んだのです。まるで、大損したギャンブラーが躍起になって最後の大勝負にでるようなものです。予定通りに試験に合格しないと、マクドネル・ダグラスは大きな損失をかかえる恐れがあったからですね。別の心理学的観点からもっと説明できるかもしれませんが、私の申し上げたシステムが役に立つことをチェックリスト的に使って説明するという意味では、これで十分にお話しできたかと思います。

What psychological tendencies contributed to this terrible result? Well, using my tendency list as a checklist, I come up with the following explanation. Reward-Superresponse Tendency drove McDonnell Douglas to act fast. It couldn't sell its airliner until it passed the test. Also pushing the company was Doubt-Avoidance Tendency with its natural drive to arrive at a decision and run with it. The government's direction that the test be realistic drove Authority-Misinfluence Tendency into the mischief of causing McDonnell Douglas to overreact by using what was obviously too dangerous a test method. By now the course of action had been decided, so Inconsistency-Avoidance Tendency helped preserve the near-idiotic plan. When all the old people got to the dark hangar, with its high airline cabin and concrete floor, the situation must have made McDonnell Douglas employees very queasy, but they saw other employees and supervisors not objecting. Social-Proof Tendency, therefore, swamped the queasiness. And this allowed continued action as planned, a continuation that was aided by more Authority-Misinfluence Tendency. Then came the disaster of the morning test with its failure, plus serious injuries. McDonnell Douglas ignored the strong disconfirming evidence from the failure of the first test because confirmation bias, aided by the triggering of strong Deprival-Superreaction Tendency, favored maintaining the original plan. McDonnell Douglas' Deprival-Superreaction Tendency was now like that which causes a gambler, bent on getting even after a huge loss, to make his final big bet. After all, McDonnell Douglas was going to lose a lot if it didn't pass its test as scheduled. More psychology-based explanation can probably be made, but the foregoing discussion is complete enough to demonstrate the utility of my system when used in a checklist mode.

2012年7月29日日曜日

必ず朝食の前にやりたいこと(動物行動学者ローレンツ)

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自分が誤った考えをしているときにどうすれば気がつけるのか、本ブログで何度かとりあげています。いま読んでいる本『ビジュアル版 科学の世界』で、それと少し関連する文章が目にとまったのでご紹介します。

多くの科学者は、うぬぼれるどころか、科学は仮説の反証によってのみ進歩すると考えている。動物行動学の祖、コンラート・ローレンツは、自分の仮説を必ず朝食の前に1つは反証してみたいと言っていた。それは、とくに動物行動学の大御所の言葉としてはおかしな話だが、科学者が、何よりもみずからの誤りを認めることで仲間に一目置かれることも確かなのだ。

大学の学部生だった頃の私に人格形成上大きな影響を及ぼしたのは、オックスフォード大学動物学科の高名な老教授が、自分の惚れ込んでいた仮説について、ある客員講師におおっぴらに誤りを立証されたときにとった対応である。老教授は大教室の教壇へ大股で歩み寄り、講師と温かい握手を交わし、高揚した口調で朗々と述べた。「君に感謝したい。私はこれまで15年間、間違っていた」聴衆は、手のひらが赤くなるほど拍手をした。(p.8)

この文はまえがきの一部ですが、『利己的な遺伝子』で有名なリチャード・ドーキンスが寄稿したものです。

2012年7月27日金曜日

(問題)逆向きに考えると簡単に解けます

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Yahoo Japanで紹介されていた頭の体操クイズ、よくあるマッチ棒のならびかえ問題です。はじめは直感的に解いてみようとしたものの、どうもうまくいきません。そこで、やっかいな問題を解く秘訣「逆向きに考える」をやってみました。自分で感心してもしょうがないのですが、あっさり解けました。引用元のサイトでは回答も載っていますので、ぜひ逆から解いてみてはいかがでしょうか。

【頭の体操クイズ】マッチ棒を2本動かして、5つの正方形を4つにして下さい


ミッションはいたってシンプル。上の画像に写し出されたマッチ棒16本のうち、2本だけを動かして、5つの正方形を4つの正方形にしてほしい。

ここで守って頂きたいルールは、4つの正方形は「すべて同じ大きさ」でなければならないということ。ひとつの正方形だけ大きかったり、小さかったりしてはダメ。4つの正方形すべてが、同じ大きさでなければならない。またこの他にも、次のルールを守って頂きたい。

1.マッチ棒を重ねてはダメ
2.マッチ棒はすべて正方形の一辺として使わなければならない

「逆向きに考える」ことについては、本ブログでたびたびとりあげています(過去記事の例: チャーリー・マンガーの名言「逆だ、いつでも逆からやるんだ」ダーウィンの「逆ひねり」)。

2012年7月25日水曜日

(映像)チェリーコーク好きのウォーレン・バフェット..

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Bloombergのサイトに、ウォーレン・バフェットがチェリー味の各種コーラを飲み比べする動画が掲載されていました。愛飲しているコカ・コーラ社のチェリーコークを当てよという趣向です。

Boomberg: Will This Video Break Hearts of Cherry Coke Fans?



ウォーレンは確率や心理学に強いはずです。それに留意しながら映像を見ると、二重にも三重にも楽しめるような気がします。(ただの考えすぎかもしれません)

2012年7月24日火曜日

アインシュタインの警句を守る(チャーリー・マンガー)

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以前の投稿で、チャーリー・マンガーの投資における意思決定プロセスを、『Poor Charlie's Almanack』の編者ピーター・カウフマンが書いた文章をご紹介しました(過去記事)。今回の文章も同氏によるものですが、もう少し一般的な表現でチャーリーのやりかたを描いています。(日本語は拙訳)

自分の置かれた状況がどうであれ、チャーリーはどう進めたらいいかを考えはじめる前に、何をすべきでないかのほうに焦点をあてることが多い。彼のお気に入りの言い回しに、こういうのがある。「どこで死ぬかさえわかっていれば、そこには行かないようにしますよ」。日常生活と同様で、ビジネスにおいても勝ち目の低い次の一手はさっさと切り捨てる。このやりかたがチャーリーに大きな優位を与えている。時間を節約し、より建設的な分野に集中できるからだ。複雑な状況にでくわすと、彼は本質的で感情の入らない基本原理まで還元しようと努める。しかしながら、合理性や単純さを追求するうちに、彼自身のいう「物理学羨望症」にかかってしまわないように注意してきた。経済学のような格段に複雑なシステムを、ニュートンによるいくつかの法則のようなもので説明しようとするのは人の性だが、彼はそうせずに、アルバート・アインシュタインが残した警句のほうを忠実に守ってきたのだ。「科学法則はできるだけ簡潔にすべきだが、必要以上にやってはならない」。チャーリー自身の発言も挙げておこう。「自分がまさにしたことを、害をなさずして益をなすだろうと考えて満足にひたるのは、わたしには賛成できませんね。おわかりですか、高度に複雑なシステムの中では、あらゆるものがお互いに影響を及ぼしあっているのですよ」

Often, as in this case, Charlie generally focuses first on what to avoid ? that is, on what NOT to do ? before he considers the affirmative steps he will take in a given situation. “All I want to know is where I'm going to die, so I'll never go there” is one of his favorite quips. In business as in life, Charlie gains enormous advantage by summarily eliminating the unpromising portions of “the chess board,” freeing his time and attention for the more productive regions. Charlie strives to reduce complex situations to their most basic, unemotional fundamentals. Yet, within this pursuit of rationality and simplicity, he is careful to avoid what he calls “physics envy,” the common human craving to reduce enormously complex systems (such as those in economics) to one-size-fits-all Newtonian formulas. Instead, he faithfully honors Albert Einstein's admonition, “A scientific theory should be as simple as possible, but no simpler.” Or in his own word, “What I'm against is being very confident and feeling that you know, for sure, that your particular action will do more good than harm. You're dealing with highly complex systems wherein everything is interacting with everything else.”


ウォーレン・バフェットの伝説的な文句で"Rule No.1: Never lose money."というのがありますが、逆から考えるチャーリーのやりかたが強く影響したのかもしれませんね。