ot

2012年5月6日日曜日

成功するのに必要なこと(ウォーレン・バフェット)

0 件のコメント:
バークシャー・ハサウェイの年次株主総会も終わり、各所に投稿されたレポートを読み始めています。ウォーレン・バフェットもチャーリー・マンガーも健在で、まずは何よりです。それらのレポートの中から近日中にご紹介したいと考えておりますが、今回は少し前の3月30日に行われたウォーレンと学生の会合でのやりとりから引用します。引用元は、西オンタリオ大学のビジネススクールのサイトに掲載されているインタビューノートです。(日本語は拙訳)

<質問>
あなたが初期の頃に手がけていたのは、情報の格差を利用したアービトラージ[サヤ取り]だったと存じます。今では世の中も変わり、情報はそれこそ光の速さでいきわたっています。どうすればすばらしい成功をおさめ続けられるでしょうか。

<バフェット>
今の時代は情報の面ではよくなりましたが、人がとる行動は非合理的なままですね。

わたしが最初の仕事として証券アナリストについたころは、公開株に関する情報は2つしかありませんでした。ムーディーズかS&Pのマニュアルです。ですから私が文字どおり一日中やっていたのは、その本を1ページずつ読みすすめて、割安なものがないか探すことでした。

あるとき、1株当たりの純利益が13ドルの会社が、株価22ドルで取引されているのをみつけました。PERが2倍、すごいお買い得ですね。ところが株主は全部で400名ぐらいだったので、買おうにも買えなかったのです。そこでわたしはその会社の本社がある町へでかけて新聞広告をだしました。「株、買います」。

よい取引をするには、少しぐらいは一生懸命にやらなければならないこともあります。ここ最近も、韓国株のマニュアルを読んで同じようなお買い得をみつけました。ですが、成功をおさめるのに本当に必要なのは、情緒が安定していること、これに尽きると思います。

お金持ちになるには、知能指数が高い必要はないのです。

<Q>
The key to your early career was essential information arbitrage. Given the changes in the world and that information now moves at the speed of light, how do you continue to have such great successes?

<A>
People have better information now, but they still act irrationally.

When I took my first job as a security analyst there were only two sources of information on public equities; the Moody’s manual or the S&P manual. So I would literally spend all day looking through this book page by page, looking for undervalued securities.

I found a company with around $13/share in earnings, and was trading at $22. So at a 2 times P/E it was a great buy. But there were only 400 shareholders and I couldn’t actually buy a piece of it. So I went to the town where the company was headquartered and ran an ad in the newspaper to buy shares.

Sometimes you have to work a little bit hard to get the good deals. And looking through the Korean stock manuals I’ve found some of these same opportunities today. But ultimately, the key to success is emotional stability.

You don’t need a high IQ to get rich.

2012年5月5日土曜日

誤判断の心理学(9)お返しする傾向(チャーリー・マンガー)

0 件のコメント:
今回は、心理学者のロバート・チャルディーニによる実験が紹介されています。人間の持つ心理学的傾向を逆手にとった、見事な実験です。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その9)お返しする傾向
Reciprocation Tendency

反射的にお返しをしたり、しかえしをするのは行き過ぎることもある、と考えられてきました。実のところ、類人猿、猿、 犬、あるいはもう少し知性の劣る動物も同じように振舞うのです。この傾向は一丸となって協力するのが望ましい場合に役立つので、その点では[アリのような]社会的昆虫の持つ遺伝的な性質から多くを借りています。

The automatic tendency of humans to reciprocate both favors and disfavors has long been noticed as extreme, as it is in apes, monkeys, dogs, and many less cognitively gifted animals. The tendency clearly facilitates group cooperation for the benefit of members. In this respect, it mimics much genetic programming of the social insects.


次は、この傾向がうみだす望ましい側面です。

近代社会は商業交易のおかげで繁栄をむかえましたが、そこでは人間が生来持つ「お返しをする」傾向が大きな役割を果たしています。交易の場では、お互いの返報を期待しつつ自己利益を追求する、といった聡明なやりかたが建設的な取引につながります。結婚生活における日々のやりとりでも、この返報する傾向が役に立っています。この傾向がなければ、よき関係はかなり喪われてしまうでしょう。

It is obvious that commercial trade, a fundamental cause of modern prosperity, is enormously facilitated by man's innate tendency to reciprocate favors. In trade, enlightened self-interest joining with Reciprocation Tendency results in constructive conduct. Daily interchange in marriage is also assisted by Reciprocation Tendency, without which marriage would lose much of its allure.


今度は、この傾向を使って他人をあやつる例です。

心理学者のチャルディーニが行った有名な心理学の実験は見事なもので、実験者による見えざる影響力をつかって、被験者の潜在意識下にある返報傾向を呼び起こすように誘導しています。

この実験でチャルディーニは、実験者に対してキャンパスを歩き回り、めぼしい人をみつけたら保護観察中の若者たちを動物園へ引率してほしい、とお願いするように指示しました。かなりの数の被験者が得られましたが、同意してくれたのは6人に1人でした。この実験結果をまとめた後、チャルディーニは今度は別の実験を行うことにしました。実験者がキャンパスでつかまえた人に対して、今後2年間にわたって保護観察中の若者を監督するのに毎週それなりの時間をあててほしいと依頼したのです。こんなとんでもない要求に応じる人は皆無でした。しかし重要なのは、実験者がこのあとすかさず出した次のお願いです。「それではせめて1回でかまいませんので、例の若者たちを動物園へ連れて行って頂けないでしょうか」。これが効果てきめんで、応じてくれた人の割合は2人に1人までになりました。実に3倍に増えています。

チャルディーニが実験者をつかってやったのは、相手からちょっとした譲歩を引き出したものです。それも正面ではなく、裏口からです。潜在意識を刺激して、譲歩という形でお返しをさせたことで、保護観察の若者を動物園へ連れて行く人の割合を増やしたのです。このような実験を考え出せるような教授は、それがすごく重要なことだと言い表わせれば、広く世間で評価されるでしょう。実際、チャルディーニの衣鉢を継いでいる大学からは高く評価されています。

In a famous psychology experiment, Cialdini brilliantly demonstrated the power of “compliance practitioners” to mislead people by triggering their subconscious Reciprocation Tendency.

Carrying out this experiment, Cialdini caused his “compliance practitioners” to wander around his campus and ask strangers to supervise a bunch of juvenile delinquents on a trip to a zoo. Because this happed on a campus, one person in six out of a large sample actually agreed to do this. After accumulating this one-in-six statistic, Cialdini changed his procedure. His practitioners next wandered around the campus asking strangers to devote a big chunk of time every week for two years to the supervision of juvenile delinquents. This ridiculous request got him a one hundred percent rejection rate. But the practitioner had a follow-up question: “Will you at least spend one afternoon taking juvenile delinquents to a zoo?” This raised Cialdini's former acceptance rate of 1/6 to 1/2 a tripling.

What Cialdini's “compliance practitioners” had done was make a small concession, which was reciprocated by a small concession from the other side. This subconscious reciprocation of a concession by Cialdini's experimental subjects actually caused a much increased percentage of them to end up irrationally agreeing to go to a zoo with juvenile delinquents. Now, a professor who can invent an experiment like that, which so powerfully demonstrates something so important, deserves much recognition in the wider world, which he indeed got to the credit of many universities that learned a great deal from Cialdini.


ロバート・チャルディーニの実験は、当人の著書『影響力の武器』から引用されたものです。この本は心理学の世界や顧客獲得に励む営業部隊では必読書に指定されているのではないでしょうか。チャーリーは本書を読んで感激し、バークシャー・ハサウェイのA株を著者チャルディーニへ贈ったとされています。現在のA株の価格は、約1,000万円です。

蛇足ですが、私も仕事の様々な局面でチャルディーニの心理学的なアイデアをお借りしました。華々しいということはなかったですが、たいていはその通りに働いて、小さな成功をおさめられました。マネージャーに限らず、交渉に悩むみなさんにお勧めの一冊です。もちろん本書はチャーリーの推薦図書です。

2012年5月4日金曜日

競争優位性をさぐる例(ウォーレン・バフェット)

0 件のコメント:
いよいよ明日5/5(土)はウッドストック音楽祭ならぬ、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会です。最近では、質疑応答の様子があっというまにトランスクリプトに起こされてインターネットに公開されるので、ありがたく読んでいます。とはいっても株主のはしくれとして、いつかはオマハ詣でをしたいと考えてはいるのですが、もたもたしていると時間切れになってしまうかもしれません。

今回は昨年の年次総会の質疑応答から、ウォーレンがMoat(経済的な堀、転じて長続きする競争優位性)を探るくだりについてご紹介します。ファンドマネージャーでもあるiluvbabyb女史が作成したトランスクリプトから引用させて頂きました。(日本語は拙訳)

デイヴィッド・ソコルがバフェットにルーブリゾールへ投資したらどうかと紹介したとき、バフェットは皆目見当もつかないビジネスだと答えた。[同社製品の]潤滑油添加剤のことは化学的な観点では理解できないだろうが、それは必須というほどではない。重要なのは業界における経済的な力関係を理解することだ。競争力の点でMoatがあるか。業界には容易に他社が参入できるのか。バフェットは、石油のことはチャーリーのほうがうまく判断できるから彼にきいてみる、とソコルに答えた。数日後にチャーリーと話したが、彼もそのビジネスのことはわかっていないと返事をした。

When David Sokol mentioned Lubrizol to Buffett as an investment idea, Buffett said it struck him as a business he didn't know anything about initially. He said he would never understand the chemistry of petroleum additives, but that's not necessarily vital. What is important is that he understands the economic dynamics of the industry. Is there a competitive moat? Is there ease of entry into the industry? Buffett suggested to Sokol that he contact Charlie with the idea since Charlie is a lot smarter about oil than Buffett felt he was. When Buffett talked to Charlie a few days later, Charlie said he didn’t understand the business either.

その後、ウォーレンはルーブリゾールの経営陣と話をして、「Moatがある」と判断しています。
「かれらは特許を山ほど保有していますが、それ以上なのが顧客と密な関係を保っている点です。たとえば顧客が新型のエンジンを開発しているときには共に働き、適切な添加剤を開発するのです。そのような話をしているうちに、化学のことはいっこうに理解が深まっていなかったのですが、ビジネスの経済的な側面については合点のいくところがありました。イスカル社の人と話をしたときと同じような感じです。そのときも、採掘したタングステンを精錬した原料から、炭化タングステンの小型超硬工具をつくって、といったことが競争優位として長続きするのではという話になりました。最終的にはもう少し調べた上で、イスカルは持続する競争優位を有しているだろうと判断しました」

They've got lots and lots of patents, but more than that they have a connection with customers. They work with customers when new engines come along to develop the right kind of additive. So I felt that I had an understanding --didn't understand one thing more about chemistry than when I started, but I felt I had an understanding of the economics of the business, the same way I felt when the Iscar people talked to me. I mean, who would think you can take some Tungsten out of the ground and shine it and put it in little carbide tools and that you could have some durable competitive advantage, but I decided Iscar had some durable competitive advantage after looking at it for a while.

2012年5月2日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度決算説明会)

0 件のコメント:
当社のことを1月下旬に取り上げたときは、株価が10,000円に近づいていました(過去記事)。その後、市場の回復と共に株価は上昇しましたが、ここにきて10,000円近辺に戻ってきました。来期の業績予想がもうひとつだったからとのことですが、個人的には第一四半期もWii買い控えによる低迷が続くものと予想しています。

今回は、2011年度決算説明会での岩田社長の質疑応答から、マーケット・セグメンテーションの話題を引用します。チャーリー・マンガーも指摘する心理学的傾向のひとつが登場しています(過去記事)。

<A7 岩田社長>
新しいお客様を獲得しようとして重視した点と、ゲームを趣味としてお楽しみいただいているお客様に満足していただくために重視した点において、少し偏りがあり過ぎたために、「Wiiというゲーム機は自分たちのものではない」と感じられ、「少々魅力的なソフトが出ても遊んでみる気になれない」というムードをつくってしまったことも事実だと思います。今回、過去のニンテンドーDSやWiiの時と比べて、ニンテンドー3DSでは、いわゆるユーザー拡大型のソフトウェア展開が遅いように見えているということについては、ある程度考えてやっていることでもあります。最初にお客様が、「この機械は自分たちのものではない」と受けとめられた場合、後からその認知を変えることはとても難しいということを私たちは学んでいます。そのため、まず私たちは「幅の広さと深さを両立させたい」と申し上げてニンテンドー3DSやWii Uを展開し、ニンテンドーDSやWiiの時には幅の広さについては多くの方にご評価いただきましたが、奥の深さという点でみなさんに満足いただけたとは言い切れませんので、今度は奥の深さでも、幅でも満足していただきたいと考えています。そのためには、まず深さから始めようということがあり、今のニンテンドー3DSのソフト展開となっていますので、今後についてはこれから変わっていきます。この幅の広さと深さの両方を充実させることで、一つのプラットフォームでより幅広いお客様に満足していただけるようにしたいと思います。Wii Uで考えていることも基本的に同じです。そういうことを継続していった時に、世帯当たりのプレイ人数も多くなり、ユーザー人口の増加とともに、持続力のあるマーケットをつくることができるのではないかと思っています。今申し上げたような形でニンテンドー3DSやWii Uが今後どうなっていくのか、これからお目にかけたいと思います。

個人的には、Wii Uは戦略的にもっとも重要な製品として位置づけられている、と受けとめています。6月に開催されるE3での続報が楽しみですが、現在の株価にも少し魅力を感じます。10,000円は、やや割安と捉えています。

2012年5月1日火曜日

わたしがお手本としている人(ウォーレン・バフェット)

0 件のコメント:
今回ご紹介するのは、ウォーレン・バフェットによる2002年度「株主のみなさんへ」での、わたしが好きな一節です。バークシャー・ハサウェイが買収した子会社の経営は以前からの経営陣に任せるのが常ですが、ここではその理由を説明しています。この手のちょっとおもしろい話で楽しませてくれるだけでなく、要所をきちんとおさえているところが、ウォーレンの魅力のひとつですね。(日本語は拙訳)

経営の上でわたしがお手本としている人物をご紹介しましょう。バットボーイをしていたエディー・バネット氏です。1919年に19歳だった[16歳の誤りか?]エディーは、シカゴ・ホワイトソックスで仕事を始めました。その年のシカゴは[リーグ優勝し]、ワールド・シリーズへの出場を果たしました。翌年、エディーがブルックリン・ドジャースに移ったところ、これまたリーグ優勝の成績をおさめています。ところがわれらがヒーロー氏は何かをかぎとったのでしょうか、1921年には別の区のチーム、ヤンキースに加わりました。なんと、またもや早々にチーム史上初のリーグ優勝です。そこでエディーは腰をおちつけ、チームの行く末を見守ることにしました。これが賢明な判断で、ヤンキースはそれからの7年間で5回のアメリカン・リーグ優勝を果たしたのでした。

この話から経営者はどんな教訓をえられるでしょうか。そう、簡単ですね、「自分が勝ちたければ、勝者とともに働きなさい」ということです。例えば1927年にエディーは、ワールドシリーズ後のボーナスとして700ドルが支給されました。当時のヤンキースはルースとゲーリックがいた伝説的な時代で、優勝チームのメンバーに対するボーナス満額の1/8が彼に認められていたのです。ヤンキースは負けなしの4連勝だったので、このボーナスをもらうのにエディーが働いたのは、わずか4日間。これは、普通のチームで働く当時のバットボーイが1シーズン働いて得る収入とだいたい同じぐらいの金額でした。

いかにバットをせっせと運ぼうが、それは全然重要でない。エディーにはわかっていたのです。肝心なのは、最上の選手たちがいるところで働くことだ、と。エディーからの教訓どおり、アメリカビジネス界でも猛打者ぞろいのバークシャーで、わたしは毎日バットを手渡しています。

My managerial model is Eddie Bennett, who was a batboy. In 1919, at age 19, Eddie began his work with the Chicago White Sox, who that year went to the World Series. The next year, Eddie switched to the Brooklyn Dodgers, and they, too, won their league title. Our hero, however, smelled trouble. Changing boroughs, he joined the Yankees in 1921, and they promptly won their first pennant in history. Now Eddie settled in, shrewdly seeing what was coming. In the next seven years, the Yankees won five American League titles.

What does this have to do with management? It’s simple - to be a winner, work with winners. In 1927, for example, Eddie received $700 for the 1/8th World Series share voted him by the legendary Yankee team of Ruth and Gehrig. This sum, which Eddie earned by working only four days (because New York swept the Series) was roughly equal to the full-year pay then earned by batboys who worked with ordinary associates.

Eddie understood that how he lugged bats was unimportant; what counted instead was hooking up with the cream of those on the playing field. I’ve learned from Eddie. At Berkshire, I regularly hand bats to many of the heaviest hitters in American business.


エディー・バネットのことは、Wikipedia(英語版)のこちらにも投稿されていました。