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2012年3月6日火曜日

企業の目的とは何か

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前にご紹介した赤門マネジメント・レビューの論文長期存続ものづくり‘中企業’の群発(岸本 太一)を読んでいて目にとまった文章をご紹介します。この論考の筆者は中小企業の製造業経営者と接する中で、彼らが抱いている「企業の目的」とは何か、を肌身に感じています。よく言われることではありますが、研究者によるフィールドワークの成果ゆえ、生の声が感じられます。

ペンローズや既存の戦略論の学者は「利潤の最大化」を企業の目的と仮定して、理論の構築を行なっている。しかし、私が現場で見た国内ものづくり‘中企業’の目的は、どうもそれだけではない。「従業員(家族) の雇用の確保」および「企業(家業) の存続」といった目的も強く存在するように見受けられた。特に‘中の小’企業では、「利潤最大化」よりこれらの目的を優先していることを感じさせるコメントに、数多く遭遇した。また、「長期存続と成長がトレードオフとなる状況に、これまで何度も直面してきた」という話も何度も伺った。そのひとつが、第2 節で紹介した豊田周辺地域に所在する自動車2次サプライヤーにおける海外展開と国内開発能力維持のトレードオフの話であった。やはり、(日本製造業の)‘中企業’と大企業は同じ企業という生き物でも、種がやや異なるのであろう。 (PDFファイルのp.37)

中小企業では資本と経営が一体となっていることが多いので、自分たちのニッチを見つけてそこで暮らすことができれば、どれだけ成長を望むかは経営者すなわち資本家次第です。長く存続してきた中小企業は大きくは成長できなかったかもしれませんが、生き残ってきたという実績があります。あるいは成長したいという誘惑よりも、もっと充実したものをみつけたのかもしれません。

株式を公開したり資本参加を募った企業は、一転して投資家から冷徹な扱いを受けます。うまくいけば喝采が、そうでなければ非難が待っています。投資家と経営者の距離が離れるだけで、二者の関係は大きく変わるものです。「信用」という言葉は、実に重い意味を持っていますね。

競争に明けくれ、利益があがらず、行き先に迷っている大企業はいったいどこへ行けばよいのでしょう。その答えは、上にもあげた「ニッチ」という言葉にあると思います。つまり、人とは違う自分の居場所を探す、それに尽きるのではないでしょうか。

2012年3月5日月曜日

投資に活かす世知入門(はじめに)(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは学問的な話題を好んでとりあげます。彼には大きな持論があり、全てはそこに流れ込みます。学問は各専門領域にとどまるべきではなく、領域を超えて連携したり融合して使うことでもっと大きな力を発揮する、という主張です。その知識やスキルが、ビジネスや投資判断や日常生活にも適用できるとなれば、私のような一般大衆にとってはうれしいものです。チャーリーは自らがそれを実践し、体現してきました。その成果のひとつがバークシャー・ハサウェイです。バークシャーは売上高が10兆円を超える企業となりましたが、もしチャーリー・マンガーがいなかったらどうなっていたでしょう。企業規模はもちろんのこと、今のような存在感は出せなかっただろう、と思います。

学問的知識やスキルを横断的かつ自在に使えるにはどうしたらよいのか。チャーリーは「頭の中に多面的、学際的なメンタルモデルを作る」ように説いています(過去記事「ほとんどの人より、うまくいくやりかた」)。では、何から取組んでいくのがよいのか。チャーリーは細かな指針はあまり出さないタイプですが、ここではそれらしいことを示しています。短いですが重要な文章なので、ご紹介します。出典はおなじみの「Poor Charlie's Almanack」です。(日本語は拙訳)

基礎的なミクロ経済学的モデル、少しばかりの心理学、少しばかりの数学、そういった一切合財は、私が言うところの「世知を支える普遍的な礎(いしずえ)」を築くのに役立つでしょう。

Well, so much for the basic microeconomic models, a little bit of psychology, a little bit of mathematics, helping create what I call the general substructure of worldly wisdom.


少しばかりの数学として、順列と組み合わせは以前にご紹介しました(過去記事「世の中の働きと驚くほど一致する」)。心理学は既に「誤判断の心理学」シリーズを進めています。このシリーズでは、残りのモデルについて少しずつご紹介していきます。

2012年3月3日土曜日

誤判断の心理学(7)カントの「公正」なる傾向(チャーリー・マンガー)

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??公正さ」についてはチャーリー・マンガーの話を聞くまでもなく、我々日本人にきちんとしみこんでいる概念でしょう。具体的には表現しにくくても、見ればそれが公正かどうかわかる、そういうものです。ただ、この指摘は冷静に活かすべきで、例えば商売を進める上で公正を悪用する者には注意すべきだし、あるいは公正さを貫いて顧客からの信頼を築くのが王道だとも受けとれます。後に取り上げる「返報の傾向」と同様、この文章も人間の心理的側面をあらわにするものです。

今回も短い文章ですので、原文全てになります。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その7)カントの言う「公正」の傾向
Seven:Kantian Fairness Tendency

カントは「定言命法」で有名ですが、これは一種の黄金律で人の従うべき行動基準を示しており、あらゆる人がこれに従うならば、人間をとりまくあらゆるシステムは完璧に機能するというものです。文化的に様変わりした現代人は多くの公正をあらわにし、また他人からも期待するものですが、元はといえばカントが定義したものです。

アメリカではよくみられる光景ですが、小さな街で車が1台しか通れない幅の橋やトンネルがあると、譲ってもらった相手に返礼を返すものです。お互いに何も合図をしていないのに、です。高速道路でも同じように、車線変更などをしてくる他のドライバーが前に入るように譲ります。私もそうですが、立場が逆だったら自分にもそうしてほしいからです。それだけではなく、現在社会では他人から様々な礼儀をうけています。これは、「早い者勝ち」をよしとする傾向に則ったものです。

また、人はしばしば自発的に、先行き不透明な幸運や不運を共に分かち合うものです。そのような「公正な配分」をする振る舞いがあるゆえ、期待をうらぎって公正にしないと意趣返しされることがよくあります。

世界中に広まっていた奴隷制度がこの300年で粛々と廃止されていったのは、興味深い出来事です。過去には長きにわたって、世界中の多くの地域でそれぞれ許容されてきたものです。こうなったのも、カントの言うところの公正なる傾向が大きな役割を果たしたものと、私は考えています。

Kant was famous for his “categorical imperative,” a sort of a “golden rule” that required humans to follow those behavior patterns that, if followed by all others, would make the surrounding human system work best for everybody. And it it not too much to say that modern acculturated man displays, and expects from others, a lot of fairness as thus defined by Kant.

In a small community having a one-way bridge or tunnel for autos, it is the norm in the United States to see a lot of reciprocal courtesy, despite the absence of signs or signals. And many freeway drivers, including myself, will often let other drivers come in front of them, in lane changes or the like, because that is the courtesy they desire when roles are reversed. Moreover, there is, in modern human culture, a lot of courteous lining up by strangers so that all are served on a “first-come-first-served” basis.

Also, strangers often voluntarily share equally in unexpected, unearned good and bad fortune. And, as an obverse consequence of such “fair-sharing” conduct, much reactive hostility occurs when fair-sharing is expected yet not provided.

It is interesting how the world's slavery was pretty well abolished during the last three centuries after being tolerated for a great many previous centuries during which it coexisted with the world's major religions. My guess is that Kantian Fairness Tendency was a major contributor to this result.

2012年3月2日金曜日

こわくて眠れなかったんだよ(ジョリー・オルソン51歳)

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アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの記事Investors' Sell Signal: Surging U.S. Stocksで、株式投資信託の資金状況の記事がありました。最近の相場の上昇とは反対に、個人投資家は解約傾向が続いているとしています。以下の右図でピンク色の棒がマイナス側にでており、ファンドからの資金流出を示しています。

(出典:The Wall Street Journal)









記事中のインタビューに応じている人は、株式を売って債券を買っているとのことです。51歳になるエンジニアの彼は、こうも話しています。(日本語は拙訳)

「2009年の春に、どんなにひどい思いをしてたか、思い出すようにしてるんだ」、彼は危機当時の安値に言及した。
「こわくて眠れなかったんだよ。今は状況が逆になっているけど、上がったのと同じように下がるのも速いんじゃないの」

"I remind myself of how bad it felt in March 2009," he said, referring to the crisis-era low. "I just didn't sleep because it was horrible. Now, we're on the other side of that swing and this could just as easily go down as it could go up."

上記の記事にならって、日本の状況がどうなっているか、グラフにしてみました。原資料は投資信託協会がとりまとめている公募投資信託の資産増減状況(実額)になります。








赤線が株式投資信託への資金の純流入出額を示しています。アメリカと違って、日本で大きく流出超になった時期は、2008年10月と、この2011年10月以降です。2011年4月にもそうでしたが、大震災直後のためと思われます。短期的な変動はともかく、こうして長期間の傾向をみると2006年から2007年にかけた活況ぶりがよくわかりますね。

2012年3月1日木曜日

IBMの株価は、簿価の何倍?(チャーリー・マンガー)

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以前に一部をご紹介した、チャーリー・マンガーの講演その2 「投資やビジネスで活かす世知入門」(A lesson on Elementary, Worldly Wisdom as It Relates to Investment Management and Business)で、IBMの名が引き合いに出されていました。今回はその部分を引用します。出典は、おなじみの「Poor Charlie's Almanack」です。(日本語は拙訳)

株式市場では、すぐれた競合や強い組合に頭を悩まされている鉄道会社には、簿価の三分の一の値になることもあります。対照的に、全盛期の頃のIBMは簿価の6倍で取引されていたものです。まさしくこれが、パリミュチュエル方式なのです [賭けの配分方式。代表的な例が競馬]。大ばか者なら、単に鉄道会社よりもIBMのほうが商売の見通しがよいからとみるでしょう。しかし株価を式に当てはめてくらべてみると、どちらの株を選んだほうがよいのか、あまりはっきりしなくなります。パリミュチュエル方式とよく似ています。だからこそ、勝つのは難しいのです。

In the stock market, some railroad that's beset by better competitors and tough unions may be available at one-third of its book value. In contrast, IBM in its heyday might be selling at six times book value. So it's just like the pari-mutuel system. Any damn fool could plainly see that IBM had better business prospects than the railroad. But once you put the price into the formula, it wasn't so clear anymore what was going to work best for a buyer choosing between the stocks. So it's a lot like a pari-mutuel system. And, therefore, it gets very hard to beat.

ところで現在のIBMの株価はUS$200の少し下ですが、PBRのほうは11となっています(Mkt. cap.が230Bで、Total IBM stockholders' equityが20B)。自社株買いを続けているため、株主資本が低く抑えられています。上述の講演は1994年のものですから、時代は変わるものですね、チャーリーさん。