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2012年2月24日金曜日

注意!この先危険(ボブ・ロドリゲス)

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今回ご紹介するのは、ファンド・マネージャーの「超慎重派」ボブ・ロドリゲスが2/18に富裕層投資家のグループ向けに行った講演Caution: Danger Aheadです。

講演の前半では、欧日米の当局が放漫な財政や金融政策を続けている状況を取り上げ、低金利の続く現在の債券市場の危うさやインフレへの懸念を示しています。次に株式市場に対する見方が続きます。あくまでも、主に米国在住の投資家を前にした講演なので、日本の状況とは違うものです。個人的には、日本の個別銘柄はもっと楽観的にみています。そのような前提ですが、興味深かった発言を以下に引用します。(日本語は拙訳)

まずは、米国株式市場の低PERについてです。
図7では、黄色の線はS&P500のPERを示しています。この12年間はずっと下がり続け、1950年代半ば以来見られなかった水準まできています[1970年代からの株式の死と言われた頃にも、10以下になっている模様]。この低下傾向は、これまでの半世紀でもっとも長く続いています。そのため、株価はほどほどか割安だと考える人が多くなっていますが、歴史的にみれば、現在の価格には様々なリスクが考慮されていません。私もそうだったのですが、企業の収益の回復ぶりには驚いた人が多いでしょう。最近の記録的な税引前利益率は最たるものです。並み以下のこの経済成長下にも関わらずです。



ですから、この状況もおしまいになります。ただし、それほど急速ではないでしょう。細かく調べてみると、非金融企業の税引前利益率の増加の73%は、低金利(38%)や低賃金(35%)によるものでした。加えて、S&P500企業の売上の45%は、国外であげたものです。そのため、ヨーロッパや日本が景気後退にむかえば、さらなるリスクとなります。ヨーロッパから飛んでくる火の粉を甘くみないでください。新興国への貸出しの大部分は、ヨーロッパの銀行が占めているからです。株式市場のPERが下がっているのは、さまざまなリスクの高まりをおりこんでいるものと、私は考えています。利益率の低下、悲観的な経済成長の見通し、財政政策のあやまり、世界経済の不透明さといったリスクです。株価の騰落が大きくなっているのも、そのひとつに加えられるでしょう。ポートフォリオ・マネージャーたちは入ってきたニュースをほぼ即座に解釈して反応するからです。企業活動の先行きが低成長になるとみられると、現在の高水準の利益率や株価騰落が大きい状況とあいまって、投資家は株価を低PERへと押し下げます。マーケットがこんな状況ですから、株式に資金の多くを投じるのであれば、より低PERを心がけて安全余裕を大きくとらなければなりません。個人的には、今後10年間の平均的なリターンは、一桁台前半から中ほどになるのでは、と考えています。それでも楽観的かもしれませんが。

Exhibit 7 shows that the S&P 500’s P/E ratio, the yellow line, has declined over the past 12 years to a level not seen since the mid-1950s and is the longest sustained decline in a half century. Many consider the stock market reasonably or cheaply valued, when compared to history, so, its current valuation discounts numerous risks. The corporate earnings recovery surprised many, including me, particularly with near record pre-tax profit margins, despite substandard economic growth;

therefore, case closed--but not so fast. Upon closer examination, 73% of the non-financial corporate pre-tax profit margin expansion resulted from lower interest (38%) and labor (35%) costs.(note 19) Furthermore, approximately 45% of the S&P’s revenues are internationally sourced, so European and Japanese recessions pose additional risks. Contagion from Europe should not be underestimated since European banks dominate emerging market lending. I believe the market’s P/E decline reflects the growing risk of profit margin contraction, a sluggish economic growth outlook, fiscal policy mismanagement and international economic uncertainty. Increased market volatility adds to this list, as portfolio managers digest and react to news almost instantaneously. When a company’s operations are viewed as having low growth expectations, combined with peak margins and high volatility, investors typically ascribe a lower P/E valuation to the company’s stock. This portrayal describes the market and, therefore, a higher margin of safety, through a lower P/E, should be required for an aggressive equity allocation. In my opinion, low to mid single-digit returns will be the norm for the next decade and this may prove to be optimistic.

次は、今後の運用環境についての彼の考えです。
みなさんの中には、もっと何かをするような策を私が出すだろう、と期待していた方も多くいらっしゃるかと存じます。しかし、私としては元本を減らさないことを最上の務めとしています。今は辛抱のときです。私が思うに、世界的に高水準となっている債務が招くリスクや混乱を、多くの投資家が過小評価しています。今はまだ、経済や金融市場が不安定のまま拡大していく第2段階です。このような時勢で投資から際立った成果をあげるには、柔軟であること、現金比率を高くすること、適切ならば集中投資をすることが求められます。資金全額を投資し、インデックスにあわせてポートフォリオ中の配分を見直すような時代は、一昔前に終わったのです。

I know many of you would like more actionable ideas but principal protection is uppermost in my mind. Patience is required now. I believe many investors underestimate the potential risks and disruptiveness from high global financial leverage. We are in phase 2 of a continuing and expanding economic and financial market instability. Flexibility, high liquidity, and concentrated asset deployment, when appropriate, will be key elements in attaining superior investment performance. The era of being fully invested and adjusting portfolio weights relative to an index has been over for more than a decade.

聞き手は富裕層が中心なので、全額投資うんぬんのくだりはそれに見合った資産規模を想定した発言かと思われます。個人的には、給与所得などの比率がそこそこ高い時期は、現金比率を気にする必要性は小さいと考えています。

最後に、聴衆のみなさんへの助言になります。
最後になりますが、これまでの長い経歴の中で、私はたくさんの過ちを犯してきました。そういった過ち自体もそうですが、なぜそうなったのか考え直すようにしたおかげで、物事の行く末を予測する助けになりました。[著述家の]ノーマン・カズンズはこう言っています。「知恵とは、結末を予測することからできている」。失敗をしたらいい経験ができたと考え、そこから何かを学んでください。なぜ起こったのか分析し、お金に関する知恵を増やしてください。混沌としたこの時期に、みなさんがよき収獲をえて、無事な旅を過ごされますように。

「この先危険につき、注意」どうぞ、お忘れなく。

In closing, during my long career, I have made many mistakes. These mistakes, and my pursuit of understanding why they occurred, have been instrumental in helping me to anticipate consequences. As Norman Cousins said, “Wisdom consists of anticipation of consequences.” When you make a mistake, embrace it as a learning experience, analyze why it occurred, and increase your financial wisdom. I wish you all good hunting and safe journey through these turbulent times.

Remember, CAUTION: DANGER AHEAD.

同氏はマクロ予測だけでなく、個別企業に対しても徹底した分析を行いますが、最近は立場がかわったため、マクロの話題が目につきます。個人的にはマクロ予測には振り回されないようにしていますが、心構えと資金を準備するために参考にしています。そういえば、先日ご紹介したウォーレン・バフェットの発言も似ており、債券市場に対して注意の声をあげていましたね。

2012年2月23日木曜日

ウォルター・シュロスの投資成績

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前々回にウォルター・シュロスが亡くなった話題を取り上げましたが、今回は脂がのっていた頃の彼の投資成績についてです。

ベンジャミン・グレアムの会社をやめてから、ウォルター・シュロスは自分のファンドを立ち上げました。1955年のことです。ウォーレンが同氏を「大投資家」と紹介した講演資料に彼の成績を残しているので、グラフの形で以下にご紹介します。なお、Y軸の目盛は対数表示です。








青線がシュロスのパートナーシップの成績です。シュロスへの報酬をひいた後の金額です。当初元本が28年間で67倍になっています。赤線はS&P(500?)の配当込みのリターンですが、こちらは12倍弱にとどまっています。インフレによってドルは1/3程度に減価しているので額面どおりには受け取れないのですが、1975年以降の成績はあざやかです。1973年から1974年の厳しい下げの時期も、年率1ケタ台の減少で乗り切っています。

もう一つ引用があります。こちらはウォーレン・バフェットの2006年度「バークシャーの株主のみなさんへ」からで、同氏を取り上げた一節です。(日本語は拙訳)

ウォルターはビジネススクールだけでなく、大学にも行きませんでした。1956年当時、彼の事務所にはファイル・キャビネットが1本あるだけでした。2002年までには、それが4本に増えました。ウォルターは、秘書や事務員、会計係を雇いませんでした。ただ、息子のエドウィンとだけ、仕事に勤しみました。エドウィンはノースカロライナ芸術学校の卒業生です。ウォルターとエドウィンは、インサイダー情報には一切近寄りませんでした。彼らが手にしたのは公開された情報だけで乏しいものでしたが、ウォルターがベン・グレアムのもとで働いていた頃に学んだ簡単な統計手法を使って株式を選び出しました。ウォルターとエドウィンは、1989年にOutstanding Investors Digest[バリュー投資家に好評のインタビュー誌]のインタビューで、こう聞かれています。「おふたりのやりかたを一言でいうと、どうなりますか」。エドウィンの答えは「株を安く買うようにつとめています」。モダンポートフォリオ理論、テクニカル分析、マクロ経済の見解、複雑なアルゴリズム。そういうのはお呼びじゃなかったのです。

Walter did not go to business school, or for that matter, college. His office contained one file cabinet in 1956; the number mushroomed to four by 2002. Walter worked without a secretary, clerk or bookkeeper, his only associate being his son, Edwin, a graduate of the North Carolina School of the Arts. Walter and Edwin never came within a mile of inside information. Indeed, they used “outside” information only sparingly, generally selecting securities by certain simple statistical methods Walter learned while working for Ben Graham. When Walter and Edwin were asked in 1989 by Outstanding Investors Digest, “How would you summarize your approach?” Edwin replied, “We try to buy stocks cheap.” So much for Modern Portfolio Theory, technical analysis, macroeconomic thoughts and complex algorithms.
(p.21)

ウォルター・シュロスが残してくれた投資家へのメッセージ「株式投資で利益をあげるのに必要な16の要因」、ご興味を持たれた方はごらんになってください。

2012年2月22日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(過去の価格政策)

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最近読んだ本『ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力』で、過去の新ゲーム機発売前の価格政策に触れている文章がありましたので、ご紹介します。

まずはファミコンです。
山内は、ファミコンはヒットすると確信していたので、アーケード部門を廃止し、資金と経験をファミコンに集中投下した。価格は、山内が決して譲歩できない重要なポイントだった。ファミコンは安くしなければならない--市場のどの製品よりも安く。確かに、アップルのリサやゼロックスのスターは最高級マシンだったが、価格が高すぎたために大失敗に終わった。

山内は1万円を切る小売価格にして、その上利益を出そうとした。これは言わば二部料金制のビジネスモデルにおいて、基本料金からも大きな利益を期待するようなものだ。たとえば、このビジネスモデルでよく知られる剃刀メーカーのジレット社では、1度しか買わない剃刀本体の価格を安く、継続的に買わなければならない刃の価格を高く設定している。山内はゲームとゲーム機の両方で儲けたいと主張した。 (p.78)

次はゲームボーイです。
横井は、着脱式のカートリッジが使える携帯型ゲーム機ができないものかとブレーンストーミングをはじめる。実は以前にも考えたことがあったのだが、当時は満足なものができなかった。表示が不鮮明で、なにしろ馬鹿高い。適正価格、ハードウェアの能力、プレイのしやすさ、消費者の興味関心--横井はこれらをよく理解していた。今度はできるはずだ。

ファミコンと同様、価格は何よりも重要だった。安さは絶対条件だったが、安っぽい作りではだめだ。横井は、発売直後で高価な、実績のない先端的な技術ではなく、既存の技術を利用するよう強く主張した。彼の哲学である「枯れた技術の水平思考」とは、既存の技術や部品を新しいアイデアで活かすという意味だ。テクノロジー、メモリ、トランジスタ。あらゆるものがどんどん小さく、安くなっている。ではなぜわざわざ高い最新の部品を採用して、そのコストを顧客に転嫁しなければならないのだ?これは島国の経済学の初歩だ。材料を輸入し、付加価値をつけ、利益が出る価格で売る。

たとえば、液晶画面のバックライトなど問題外だった。高価でバッテリーを食う上に重い。確かにゲームボーイ(この機械の呼び名だ)は暗いところでは遊べないと苦情が来るだろう。だが軽く安くバッテリーが長持ちする製品という条件のほうが、バックライトの長所より重要だった。

さらに驚いたことに、液晶画面はカラーではなかった。カラーもバッテリーを消耗するので、横井はグレーというか、ソ連の軍服のようなオリーブグリーン一色のモノクロ画面を提案したのだ。彼はシャープがこのグレー画面の開発に莫大な投資をするのを、胃が痛くなる思いで見ていた。シャープの初期製品は画面を正面から見ると非常に見づらく、見る角度によっては室内や太陽の光が映り込んでしまうような状態だった。

だが横井とシャープは最後の最後でやり遂げる。4階調の緑がかったグレーがきちんと表示されるようになったのだ。「ほうれん草ペーストの色」とライバル企業が広告で馬鹿にした色だ。横井はそうした雑音などまったく気にかけなかった。ゲームボーイにはイヤホンがついているので、よりプライベートにゲームを楽しめ、サウンドもモノラルではなくステレオにできる。バッテリー寿命も延びた。1つの電池パックで約40時間プレイできる。通信ケーブルを使えば2人同時プレイも可能だった。その他にもカートリッジをロックするスイッチなどさまざまな工夫をこらしたので、耐久性も上がり、なおかつスマートなゲーム機になった。

(中略)

ゲームボーイ本体も売れ続け、1億1800万台と言う驚異的な数に達する。 (p.126)

昨年発売された新型機3DSは、当初は価格が25,000円だったため、普及に苦労しました(値下げ後の現在は15,000円)。もちろん、楽しめるソフトがそろっていなかったことも大きな原因でしょう。ですが本書を読むと、製品価格も同じように、当社の経営層が細心の注意を払って意思決定してきた課題のようです。昨年の3DSの失敗で、岩田社長は前社長の山内氏にお灸をすえられたのでは、と邪推してしまいます。

今年の新製品Wii Uでは同じミスを繰り返さないはずです。思わず財布のひもがゆるむような、魅力的な価格をつけてくるでしょうか。

2012年2月21日火曜日

ウォルター・シュロス氏死去

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ウォーレン・バフェットの旧友であり、また彼から「大投資家」と呼ばれたウォルター・シュロス氏が亡くなりました。享年95歳になります。情報元は、ブルームバーグのこちらの記事です。Walter Schloss, ‘Superinvestor’ Who Earned Praise From Buffett, Dies at 95
今回は、同記事から何箇所か引用します。(日本語は拙訳)

はじめは、ウォーレン・バフェットの言葉です。

「ウォルター・シュロスとは親しくお付き合いさせて頂いて、61年になります」
バフェットは昨日の声明の中で述べた。
「彼は飛びぬけた投資成績をあげてきましたが、それ以上に重要なのは、投資ビジネス界で誠実さのお手本になったことです。顧客が大きな利益をあげないかぎり、ウォルターはびた一文受けとりませんでした。つまり、固定報酬はとらずに、あがった利益の一部を受けとったのです。信義という面でも、投資能力に匹敵していました」

“Walter Schloss was a very close friend for 61 years,” Buffett said yesterday in a statement. “He had an extraordinary investment record, but even more important, he set an example for integrity in investment management. Walter never made a dime off of his investors unless they themselves made significant money. He charged no fixed fee at all and merely shared in their profits. His fiduciary sense was every bit the equal of his investment skills.”


続いて、シュロス氏自身の言葉です。

「ふつうは割安になっている株を買うのが好みなので、もっと下がったときにもっと買うだけの度胸がいります
1998年に開催されたGrant’s Interest Rate Observer協賛の会合で、シュロスは述べた。
「それこそが、ベン・グレアムがずっとやってきたことなんですよ」

“Basically we like to buy stocks which we feel are undervalued, and then we have to have the guts to buy more when they go down,” Schloss said at a 1998 conference sponsored by Grant’s Interest Rate Observer. “And that’s really the history of Ben Graham.”


最後に、同氏の息子さんの言葉です。

エドウィン・シュロスはすでに引退しているが、昨日のインタビューで、父親の投資上の哲学と長命の間には因果関係があったのでは、と述べた。

「最近のマネー・マネージャーには、四半期ごとの決算も気になっている人が多いですね。朝の5時まで[眠れずに]爪をかじりあげているようですが、私の父は四半期決算の動きなんて、全然気にしてませんでした。だから、ぐっすり寝てましたよ」

Edwin Schloss, now retired, said yesterday in an interview that his father’s investing philosophy and longevity were probably related.

“A lot of money managers today worry about quarterly comparisons in earnings,” he said. “They’re up biting their fingernails until 5 in the morning. My dad never worried about quarterly comparisons. He slept well.”


シュロス氏のことは本ブログでも2回とりあげました。「あるファンドの始まり」と、「株式投資で利益をあげるのに必要な16の要因」です。最初の記事には粋な同氏の写真も載せています。未見の方は、ぜひごらんください。

2012年2月20日月曜日

50年間待ちました(ウォーレン・バフェット)

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前々回にご紹介したウォーレン・バフェットのインタビューで、IBMの株式を購入するきっかけについて、やりとりがありました(5分過ぎ)。原文のトランスクリプトは"Person to Person": Warren Buffettから引用しています。

そうです、チャーリー[・ローズ]。IBMの年次報告書はだいたい毎年読んできて、50年になります。今年のを読んでいて納得できるものがありましたので、8,000億円ほど投資することにしました。

Yeah. Charlie, I'd been reading IBM's annual report, literally, every year for 50 years. And then this year...I saw something that sort a clicked in terms of adding to my-- feeling of confidence. And -- so we spent $10-plus billion. (CLEARS THROAT)


ウォーレンの答えはさすがです。50年前というと1960年過ぎです。IBMが大ヒット作のメインフレーム・コンピューターSystem/360を出したのが1964年ですので、ウォーレンは絶頂期の頃からずっと同社を見守ってきたことになります。1987年にCoca-Colaの株式を買い始めたときも、長く待ち続けた後のことでした。彼らの辛抱強さや継続して取組む姿勢は、そっくり見習いたいものです。