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2012年2月6日月曜日

(答え)戦闘機の防御性能を高めるには; 選択バイアスについて

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まずは、前回とりあげた問題の回答です。

調査の対象は戦闘から帰還した機体に限られているので、攻撃を受けた戦闘機の一部しか見ていないのだ。さらに重大な問題は、実は調査されていない戦闘機の方が重要なサンプルだということだ。補強が必要な箇所を特定するには、基地に戻れないほど致命的な損傷を受けた戦闘機を調査しなければならない。

これは選択バイアスの典型的な例だ。一部のデータにのみ着目したことで誤った結論を導いている。 (p.76)


正解された方が多いと思いますが、いかがでしたでしょうか。このように文書にまとめて改まった形で問題が提起されると、人は冷静に解決できるように思います。どこかのスイッチが入ってモードが切りかわり、バイアスがかからないよう注意するのでしょうか。一方、自分だけなのかもしれませんが、実生活で短時間で判断を迫られる場合には、問題解決がずっと下手になります。あとになってじっくり考えるとアイデアがわくのに、その場では出てこない。チャーリー・マンガーのいう「人は速やかに疑念を払う」を地でいっています。

本書に戻りますと、著者のジェフリー・マーは、バイアスを起こさないためにデータ収集の指針を記しています。以下に引用します。

軍関係者が帰還した戦闘機だけでなくすべての戦闘機を調査していたなら、機体の補強すべき部分についてかなり異なった結論に至っただろう。確証バイアス[参考記事1,参考記事2]と選択バイアスの具体例は、過去のデータを漫然と眺めるだけではいけないことを教えてくれる。肝心なのは過去のすべてのデータに目を配ることだ。もちろん、データとして適切なサンプルを選び出すことも重要である。

では、データが適切であるという確信を得るにはどうすればよいか。一言で言えば、データを見るときは一部ではなく、必ず全体を見よということだ。

(中略)

それでは、データ収集においてよく見られる失敗を避けるため、いくつかのルールを設けよう。まずは、これまでに述べたバイアスを回避するにはどうすべきか。確証バイアスを回避するには、自説を裏付けるデータだけでなく、あらゆるデータを客観的に検討することが重要だ。選択バイアスを避けるには、包括的なデータを揃える必要がある。意識的であろうとなかろうと、抽出されるデータは母集団の一部を無視したものであってはならない。どちらのバイアスについても、原則は可能なかぎり多くのデータを検討することだ。

だが、ここで興味深い問題が生じる。データの重みは一律ではないということだ。データには、それ自体は客観的かつ包括的であるのに、将来を予測する力をほとんど持たないものもある。そして、将来を予測する力こそが私たちがデータに期待する最も重要な特徴だ。データは将来の予測に役立つものでなくてはならない。 (p.77)


ただし、いかによいデータがそろっていても解釈するのは人間ですから、データ収集プロセスだけではバイアスを完全には回避できないと思います。意思決定の際にもバイアス回避の仕組みが必要ですね。

(2012/2/26追記)コメント欄に、raccoon様よりマンガーの「まるごと抜粋」があります。そちらも、どうぞご覧になってください。


2012年2月5日日曜日

(問題)戦闘機の防御性能を高めるには

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今読んでいる本『競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法』は、統計の知識を駆使してブラックジャックで大勝ちをおさめたMIT出身のジェフリー・マーによるものです。客観的なデータの重要性を説くだけでなく、人間が陥りやすい心理上のバイアスについても触れています。今回は、同書からバイアスの一例を引用します。ちょっとした問いですので、どこが誤っているのかお考えになってください。答えは次回にご紹介します。

[第二次世界大戦において]アメリカ軍が帰還した戦闘機の損傷を調査したところ、「機体の部位によって敵の攻撃を数多く受ける箇所とそうでない箇所がある」ことがわかった。そこで、機体の銃痕のパターンの分析結果をもとに、戦闘機の防御性能を高めるため、攻撃を受けやすい部分を補強した。

いかにも理にかなっているようだが、この分析には明らかな欠陥がある。(p.75)

2012年2月3日金曜日

チャーリー・マンガーによる投資対象の評価手順

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ウォーレン・バフェットはバークシャー・ハサウェイの年次報告書を通じてビジネスや投資に関する示唆を行ってきましたが、一方のチャーリー・マンガーはそのような場を積極的には求めていません。本ブログでご紹介しているような講演が主な発言の場ですが、その内容も投資やビジネスには限定されず、より一般的で抽象度の高い、いわば「とっつきにくい」ものが多くみられます。今回ご紹介するのはチャーリー自身の企業分析のプロセスですが、実はこの文章は本人によるものではなく、引用元の「Poor Charlie's Almanack」の編者ピーター・カウフマン(Peter D. Kaufman)が著したものです。だからといって価値が低いかというと、そうではありません。ピーターは非公開の製造業のCEO及び会長を務めるかたわら、チャーリーが会長を務めるWesco Financialの取締役に2003年から就いています。同様に、チャーリーが会長を務めるデイリー・ジャーナルの取締役にもなっています。ですから、チャーリーとは親交が深く、彼の意思決定や思考プロセスになじんでいることは容易に想像されます。ですので、この文章はチャーリーのやりかた全てをあらわしたものではないでしょうが、目のつけどころを学ぶきっかけにはなるかと思います。(日本語は拙訳)

チャーリーは包括的に評価を行っていくが、データに盲従しているわけではない。対象企業及び業界について内外問わず、互いに関連する全ての観点を考慮にいれる。特定しにくいとか、測りにくいとか、数値化しにくくてもだ。しかし完璧にやるからといって、彼のエコシステム的な主題をおろそかにするわけではない。ときには、ある要因を最大化したり、最小化したり、(特筆すべきは、彼が好んで指摘するコストコの低価格倉庫店のような「特化」)、そういったことを行う。すると、その要因が大きく取り上げられ、重要なものとなる。

チャーリーは、財務諸表やその前提となる会計に対して、中西部人らしく懐疑的にみる。企業の本源的価値が計算しきれるものではなく、せいぜい初めの一歩になるものと捉えている。彼の調べる要因は他にも延々と続く。たとえば、今後の法規制の風向き具合、労働環境、供給者や顧客との関係、技術の進展による潜在的な影響、競争優位性や弱点、価格決定力、拡張性、環境問題。潜在的な脅威がないかは、特に注意している(もちろん、チャーリーはリスクのない投資候補などありえないことは承知しており、容易に理解できるリスクがほとんどない企業を探している)。彼は財務諸表上の数字を、自身の目にうつる現実にあてはめなおす。例えば、フリー・キャッシュ、在庫、運転資金、固定資産、のれんのような過大評価されがちな無形資産といったもの。またストック・オプション、年金給付、退職者向け健康保険給付が実のところどう響いてくるのか、将来をみすえて評価する。貸借対照表の負債についても同じように精査する。例えば、適切な環境下ではフロートを債務とみるのは適切でないとし、資産とみなす。フロートとは、[保険業界において]支払い請求がされるまでは何年間も払い戻す必要がない準備金のこと。さらに経営陣に関しては、よくやるような数字の解読以上に厳しく精査する。現金をどのように使ったのか、株主のために賢く使ったのか、それとも自分自身に過大な報酬を出したのか、あるいはエゴを満たすような、成長のための成長を追求したのか、という風にだ。

結局のところ、彼はあらゆる観点を考慮して競争優位性とそれがいつまで続くのかを評価し、理解しようとつとめる。観点には、製品、マーケット、商標、従業員、物流チャネル、社会的トレンドなどが含まれる。チャーリーは企業の競争優位性を「堀」とみる。侵入しようとするものに対して築かれている、目に見えない物理的な障壁だ。優れた企業は深い堀をもち、いつまでも守り抜けるように、それを広げ続けている。同じように、チャーリーは破滅的な競争に至る道も注意深く考慮する。長期的にみると、ほとんどの企業が囚われてしまうからだ。マンガーとバフェットはこの問題を注視する。ときには痛い目にあいながらも、長期にわたるビジネス上の経験で彼らは学んできたのは、何世代にもわたって生き延びるビジネスはほとんどないということだ。そういうわけで、その厳しい選別をくぐりぬけられそうなビジネスをみわけ、それだけを買うように力を注いでいる。

Throughout his exhaustive evaluation, Charlie is no slave to a database: He takes into account all relevant aspects, both internal and external to the company and its industry, even if they are difficult to identify, measure, or reduce to numbers. His thoroughness, however, does not cause him to forget his overall “ecosystem” theme: Sometimes the maximization or minimization of a single factor (notably specialization, as he likes to point out regarding Costco's discount warehouses) can make that single factor disproportionately important.

Charlie treats financial reports and their underlying accounting with a Midwestern dose of skepticism. At best, they are merely the beginning of a proper calculation of intrinsic valuation, not the end. The list of additional factors he examines is seemingly endless and includes such things as the current and prospective regulatory climate; state of labor, supplier, and customer relations; potential impact of changes in technology; competitive strengths and vulnerabilities; pricing power; scalability; environmental issues; and, notably, the presence of hidden exposures (Charlie knows that there is no such thing as a riskless investment candidate; he's searching for those with few risks that are easily understandable). He recasts all financial statement figures to fit his own view of reality, including the actual free or “owners” cash being produced, inventory and other working capital assets, fixed assets, and such frequently overstated intangible assets as goodwill. He also completes an assessment of the true impact, current and future, of the cost of stock options, pension plans, and retiree medical benefits. He applies equal scrutiny to the liability side of the balance sheet. For example, under the right circumstances, he might view an obligation such as insurance float ? premium income that may not be paid out in claims for many years ? more properly as an asset. He especially assesses a company's management well beyond conventional number crunching ? in particular, the degree to which they are “able, trustworthy, and owner-oriented.” For example, how do they deploy cash? Do they allocate it intelligently on behalf of the owners, or do they overcompensate themselves, or pursue ego-oriented growth for growth's sake?

Above all, he attempts to assess and understand competitive advantage in every respect ? products, markets, trademarks, employees, distribution channels, societal trends, and so on ? and the durability of that advantage. Charlie refers to a company's competitive advantage as its “moat”: the virtual physical barrier it presents against incursions. Superior companies have deep moats that are continuously widened to provide enduring protection. In this vein, Charlie carefully considers “competitive destruction” forces that, over the long term, lay siege to most companies. Munger and Buffett are laser-focused on this issue: Over their long business careers they have learned, sometimes painfully, that few businesses survive over multiple generations. Accordingly, they strive to identify and buy only those businesses with a good chance of beating these tough odds.


2012年2月2日木曜日

ディスプレイ用ガラスの今期見通し(コーニング)

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日東電工や旭硝子といった、注目している液晶関連企業の株価が安いです。同じように、ディスプレイ用のガラスでトップ・シェアの米コーニングも安いです。こちらもPBR1倍を割っています。今回ご紹介するのは、1/25に発表された同社年次決算で、CFOの発言した今後の見通しです。コーニングジャパンのWebサイトからの引用です。

ディスプレイ業界は過渡期を迎えており、今後の成長および収益予想の見直しを進めています。顧客の経済的負担軽減を支援するために、顧客と密接に協力しガラス価格の値下げを行っています。これを受けて、前年の第4四半期同様、2012年第1四半期のガラス価格は大幅に低下するでしょう。この2四半期を合わせると、2桁台の大幅な価格低下を予想しています。こうした価格設定および製造能力に関する決定が、これ以降の四半期に、より安定した価格低下の状態に戻る一助となればよいと思っています。

私たちの行った製造能力引き下げにより、液晶ディスプレイ用ガラスの供給量は、エンドマーケットの需要量により近づいたと考えています。当社の小売需要とサプライチェーンの動向予想が正しければ、今年のどこかの時点で、世界のガラスの供給量と需要量のバランスが取れるはずです。コーニングでは、製造能力を元に戻すタイミングとそのペースを注意深く検討していきます。

(中略)

液晶ディスプレイ事業およびダウコーニングのポリシリコン事業が過渡期を迎えていることから、当社は収益の点で新たな段階に近づいていると考えています。今後、この新たな水準から、収益増を図っていく計画を立てています。

(中略)

ディスプレイテクノロジー部門の売上高の伸長は望めませんが、今後も、大きな収益およびキャッシュを生み出すものと予想しています。

液晶ディスプレイの商売が転換期を迎えたのかもしれませんが、見通しがよくない企業にこそ投資の機会が眠っているかもしれないので、これらの企業は今後も注視していくつもりです。

液晶テレビにまつわる蛇足になりますが、ずいぶん前から自宅にテレビがなかったので、出張先のオープン間もないビジネスホテルで大画面の液晶テレビを初めてみたときは、小さな驚きでした。毛穴まで見えるのかよ..。

2012年2月1日水曜日

自然災害リスクの王様、東京

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この報告書「Megacities ? Megarisks Trends and challenges for insurance and risk management」(2005年版)を知ったのは数年前のことでした。作成したのは、Munich Re.(ミュンヘン再保険)、巨大災害リスクを飯の種のひとつにしている会社です。少し前の資料なのでご存知の方も多いかもしれませんが、世界中の50の大都市における自然災害リスクが定量化され、掲載されています。東京(圏)はリスクの指標となる数値が710で最高値でした。これは次に大きいサンフランシスコ湾岸の167を大きく引き離し、「最も高くつく都市」となっています。

浜岡原発が稼動している限り、東海地震が心配されている東京が1位なのは当然だろうと捉えていました。むしろ「遠い国でも、ちゃんと日本のことを見ているんだな」と感じたものです。まあ、再保険屋なので当たり前ですね。昨年の大地震以降、浜岡原発での発電はとまっているため、東京のリスクは以前よりは小さくなっているでしょうが、再保険業界では別の観点も含めた上でリスクを再評価していることでしょう。

ところで、同報告書にあった写真(下のものです)が頭に残っていたので、今回は地震ではなく、富士山噴火リスクについてご紹介します。内閣府の富士山火山防災協議会が作成した富士山ハザードマップ検討委員会報告書から、想定される被害についてです。








7. 噴火の被害想定 (7.54MB / PDF)
・(鉄道) 車輪やレールの導電不良による障害や踏み切り障害等による輸送の混乱
・(航空) 空気中の火山灰による運行不能
・(電気・ガス) 交通の被害等による機能低下
・(水道) 水の濁りが浄水場の排水処理能力を上回り、給水量が減少
・(畑作物) 2cm以上の降灰がある範囲では1年間収穫が出来なくなる
・(稲作) 0.5mmの降灰がある範囲では1年間収穫が出来なくなる
・(健康) 目・鼻・咽・気管支の異常(最大1,250万人に影響。有珠山等の事例から、2cm以上の降灰がある範囲では、何らかの健康被害が出るとした)

雨が降った場合には、電気は「碍子からの漏電による停電(最大約100万世帯)」と被害が拡大(桜島の事例より1cm 以上の降灰がある範囲で停電が起こり、その被害率は18%とした)
降灰が想定される地域はこの資料にあります。









この手の被害予測は当てるのが難しいでしょうから、被害感の参考資料として捉えています。

また地震や火山噴火リスクはいつ起こるかわからないので、個人的には投資面で大がかりなヘッジはしていません。あえて挙げると、固定資産の再建にお金がかかりすぎる企業には近寄らないことと、大きな事件が起きて市場が暴落したときに買える資金をそれなりに残しておくこと、の2点です。

最後に、前にも挙げましたが富士山の近い会社ファナックの有価証券報告書から、同社のリスク認識です。
12 一極集中によるリスク
当社商品は資本財であり、研究所、工場を日本国内に集中させ、そこで開発、製造された製品を全世界に供給することにより、効率化を図っております。
地震、富士山噴火等の自然災害や、長時間にわたる停電などが発生した場合に、当社の開発、製造能力に対する影響を完全に防止または軽減できる保証はありません。また当社工場から各市場への納入途上において何らかのトラブルが発生した場合、物流コストの増加や納入遅延による売上の機会損失などが生じ得ます。(後略)