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2015年11月16日月曜日

ニッチとは居心地の良い場所(日東電工髙﨑社長)

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今週号の日経ビジネス(2015年11月16日号 No.1816)で日東電工がとりあげられていました。髙﨑社長のインタビュー記事もあり、興味深い内容でした。同社の強みが感じられた文章を以下に引用します。

はじめは髙﨑社長の発言です。

<問> ニッチを重視すると言っても、ニッチな分野は市場規模も限られます。どう稼ぐのでしょうか。

<答> もうかるかどうかではなく、もうけるんですよ。ニッチと言うと「隙間」というイメージがあるかもしれませんが、我々の考え方はちょっと違います。市場規模が小さいというより、競合がなかなか入れない「居心地の良い場所」が我々の定義するニッチです。

ここを守り続ければいずれ大きな事業に育つ可能性もある。今は大きな収益基盤となっている液晶パネル向けの偏光板だって 、最初は電卓など小さい市場からスタートしているんです。

<問> 模倣対策はどうしているんですか。

<答> そこは、ビジネスモデルから特許でバチッと押さえます。過去にたくさん苦い汁を吸っていますからね。

特許で守らなければ、どんなに良い物ができても、すぐまねされて、あっという間に追いつかれます。それこそ世界中で特許を取っておかないと戦えない。攻めの特許戦略が必要なんです。(p. 80)

もうひとつはCTOの西岡氏による説明です。

「『こんな製品があればいいのに』と思ったお客さんは、それを作ってくれそうな企業に相談する。結果的に、様々な分野で市場シェアの高い製品を抱える我々の元に、顧客ニーズが集まるようになる。そうした情報を照らし合わせることで、ものになりそうな技術、なりにくそうな技術の見極めができる」(p. 75)

蛇足です。数年前に当社へ投資してから少しずつ売却し、現在は1単元を残すのみです。名残惜しくて売り切れない。当社もそんな企業のひとつです。

2015年4月26日日曜日

エクソンモービル前CEO;短期の価格予測は重視しない(『石油の帝国』)

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投資候補として石油ガス業界に注目していることもあり、業界の筆頭企業エクソンモービル社を取りあげた著書『石油の帝国』を少し前に読了しました。同社や業界環境を知ることができたのはもちろんですが、ある種のエンターテイメントとしても楽しんで読めました。同社のことは以前から「あつかましい企業」の最右翼とみなしていました。本書を読み始めてもその通りで、むしろ想像していた以上にあつかましい企業行動の描写がつづきます。主役がアンチヒーロー的な存在なので感情移入しづらく、読みにくさをはらんでいる反面、サスペンス小説や映画のような展開が目白押しで、意図せずして話に引き込まれました。そしてある話題では当社を応援している自分に気づき(ベネズエラの案件)、著者の巧みな文章と構成に感心させられました。

今回は同書から一部を引用します。はじめは、同社の社風を表した3か所の文章です。

エクソンのように世界的に散らばった事務所や製油所、油田等で何万人もの従業員を抱えた大規模で多様性に富んだ会社においては、「規律ある結果を得るための唯一の方法は、やりすぎるくらい徹底することだ。つまり、机をたたき脅しをかけなければ、これだけ大規模な従業員たちは易きに流れ、凡庸な結果しか残せない」と彼は考えた。[前CEOのレイモンド氏](p.46)

ブッシュ政権による野心的なエネルギー外交が開始されたころのエクソンモービルのプーチン政権との関係はこのような状態だった。サハリンは成功裏に船出した。しかし、そこには条件をめぐる厳しい闘いがあった。ロシア流の脅しとはったりによる交渉カルチャーは、エクソンモービルが得意とするものでもあった。エクソンモービルとロシアは、似た者同士だった。初期の厳しい交渉姿勢こそがプーチンをサハリンに歩み寄らせた、と幹部たちは確信していた。(p.257)

ブッシュは、アメリカ政府は石油外交としてプーチンの再交渉要求を押し返す用意がある、と言った。ティラソン[現CEO]は大統領に謝意を表したが、その後、ワシントン事務所を通じて、手出しをしないことを要望する、とブッシュ政権に伝えてきた。エクソンモービルのKストリート事務所がホワイトハウスに伝えたことは、要するに、プーチンは我々が相手にしている各国元首の中では比較的おとなしいほうであり、自分たちで処理したほうが上手くいく、ということだった。(p.417)

もうひとつは、同社による需給予測や価格予測についてです。なお同社のWebサイトでは一般向けの需給予測資料『The Outlook for Energy: A View to 2040』[PDF]を公開しています。わたしも参考にしています。

エクソンモービルの経営戦略企画部門の書庫には、1940年代ごろからの、エネルギー需要と石油価格についての20年予測が所蔵されていた。(中略)分析の結果判明したことは、1980年代に、エクソンの予測担当者たちは将来について半分正しく半分間違っていた、ということだった。彼らは、2000年の世界のエネルギー消費量見通しについては、わずか1パーセントの誤差で正確に予想していた。特筆すべき成功だった。しかしながら、石油価格の見通しについては大きく外していた。1970年代の急変動や高騰を踏まえて予想した価格トレンドは高すぎた。この失敗を分析してみて、レイモンドたちは2つの結論にたどり着いた。1つ目は、新たな油層の発見を助ける技術革新をあまりにも軽視していたことだった。これがグローバルな供給を増やし価格を抑えていた。2つ目は、地政学的な変化が石油価格に及ぼす影響が非常に大きいため、需要と供給の均衡のみに依拠した通常の価格見通しは現実的ではない、ということである。(中略)「我々は短期の価格予測はできない。ではどうやってビジネスをするのか?」レイモンドは同僚に尋ねた。答えは、「堅実でムラなく管理すること、そしてファンダメンタルを正しく保つようにすることだ」と返事が返ってきた。価格を予測することよりも、レイモンドは量を予測することに力を入れた。世界の消費者が必要とする石油その他エネルギー資源の量及び供給可能な量である。(p.304)

蛇足の話題です。上の文章で「あつかましい」企業と書きましたが、これは私企業が存続発展する上での必要条件ととらえています(少なくとも一時的には)。社会人道的には称賛しかねるものの、生物学的な見方をすれば「あつかましさ」が種(しゅ)の相対的な適応度を高めると考えるからです。名を成した大企業をあげれば、それぞれのニッチで「あつかましさ」を発揮した歴史が思い当たります。従業員に対して(京都系等の部品メーカー)、下請け企業に対して(自動車OEMメーカー)、国民に対して(大銀行)、世界に対して(エクソンやロッキード・マーティン)、パートナー企業に対して(任天堂)、競合他社に対して(マイクロソフトやインテル)、消費者に対して(製薬・嗜好品メーカーや公益企業)、子会社のCEOをよいしょして(ウォーレン・バフェット)。大切なのは「あつかましさ」が度を越さないことです。いかにして変曲点のこちら側に踏みとどまるか。経営をアートと呼ぶのもそのひとつだと思います。

2015年4月16日木曜日

シェールオイルについて(エクソンモービルCEOレックス・ティラソン)

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少し前にエクソンモービル社をえがいた『石油の帝国』を読了し、その流れで先だって同社が開催したアナリスト向けミーティングのトランスクリプトを読みました。目新しい情報はあまりなかったように思います。が、現在の市場動向に振り回されることなく以前からの基本戦略を踏襲しようとする経営姿勢は、同書に描かれているとおりでいかにも同社らしいと感じました。今回引用するのは、CEOのティラソン氏がアナリストの質問に答える形で、原油の価格動向とシェールオイル業界について触れた部分です。(日本語は拙訳)

Exxon Mobil's (XOM) CEO Rex Tillerson Hosts 2015 Analyst Meeting (Transcript) (Seeking Alpha)

<ティラソン> 世界中の地政学的イベントによって、ある程度の供給量が阻害されてきました。そのことが長期にわたってものごとを維持してきた、というのが私の見方です。しかし昨年になってからマーケットは実際に起こっていることを認識しはじめ、それで価格の訂正が始まったのだと思います。つまり、供給が需要を超過しているだけの問題です。その期間がどれだけ継続するかを言葉で表すのは常に困難なことですが、いくつか気づいた点があります。そのひとつが、北米でのタイトオイル[シェールオイル等]の供給は、一部の人たちが考えているよりも弾力的な点です。それと直接は関連しないものの、この5年から7年間にシェールガスの領域で生じた掘削リグの稼働本数の減少から類推できることがあります(以降、音声不良)。

[シェールガス田における]リグの稼働数は、1,600基超から現在の280基まで減少しました。しかしリグが減少している環境下で、ガスの生産能力は日産550億立方フィートから740億立方フィート へと50%増加しています。価格の下落動向はもっとひどいもので、8.25ドルから3ドル以下まで落ち込みました。しかしタイトオイルはあきらめたらどうかと示唆してはいません。それらの知見から学べるものがある、というのが私の考えです。最初に申した見解、つまり北米のタイトオイルはある人たちが予想する以上に弾力的な動向を示すものと考えられるわけです。

The geopolitical events of the world were keeping some supplies disrupted. And so, I think that's what supported things for a long time until last year the market began to realize what was happening. And I think that's when the correction occurred. So it's simply supply outstripping demand. In terms of the duration, it's always hard to say the duration, but I would just make a few observations. One, I think the North American tight oil supply is more resilient than some people think it is. And I would draw some -- not direct correlation, but I would draw some analogy from the shale gas experience of the last 5 to 7 years where reductions of rig counts [Technical Difficulty].

Where rig counts went from north of 1600, down to 280 today and gas capacity went from 55 billion cubic feet a day to 74 billion cubic feet a day, a 50% increase in a declining rig environment, and a terribly declining price environment, $8.25 to south of $3. Now I am not suggesting you're going to have a lay down on tight oil, but I think there are a few lessons you can learn from observing that. So I think the first comment, I'll make is I think North America tight oil is going to be more resilient than some people think it's going to be.

『石油の帝国』については、あらためて取り上げるつもりです。読みごたえたっぷりの著作です。

2015年2月19日木曜日

バークシャー・ハサウェイのIBM株保有状況(2014年12月末)

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バークシャー・ハサウェイの持ち株状況(13F-HR)が2月17日に更新されています(EDGARの検索結果)。ウォーレン・バフェットはIBMを買い増ししていました。持ち株の増加数は約650万株、取得金額はたとえば11億ドル程度かと予想します(期間中の最高株価190ドルと最低株価150ドルの中間である170ドルで取得したと仮定)。実際には暴落した10月20日あたりで購入したでしょうから、もう少し安かったものと思われます。なお、前回期間から株数が増加した割合は1割程度です。


一方の売却株で目についたのはエクソン・モービル(XOM)です。こちらは全株(約4100万株)を処分しており、売却金額は37億ドル程度です(IBMと同様、最高株価97ドルと最低株価86ドルの中間である約91ドルで売却と仮定)。

2015年2月2日月曜日

2014年の投資をふりかえって(8)その他:日精ASB,任天堂,しまむら,ツムラ

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2014年の投資に関する振りかえりは、今回で最後です。昨年と保有数の変わらない2社(日精エー・エス・ビー機械、任天堂)と、購入したもののすぐに売却した2社(しまむら、ツムラ)について、簡単に触れます。

■日精エー・エス・ビー機械(6284)
- 当社Webサイト
- Yahoo! Japan ファイナンス 株価

以下のリンク先は、昨年の振りかえり記事です。
2013年の投資をふりかえって(6)継続投資銘柄:日精ASB機械

日精エー・エス・ビー機械(6284)株価の推移(2014年)

株価は年始が2,600円、年末が3,000円でした。上昇率は15%です。

当社への投資はポートフォリオ中に占める割合が小さいため、業績を細かく確認することなく放置したままでした。半値近くまで下がる局面がありましたが、持ち株数は昨年と変わらずです。決算資料によれば受注残は前年度以上の数字ですが(当社発表資料最終ページ[PDF])、円安が進んでいる影響は割り引いてとらえています。当社は景気変動が大きい製造装置業界に属しており、下りの局面では売上げが大きく低下すると予想します。ですが現在の株価ではあえて売買はせず、今年も継続保有したいと考えています。


■任天堂(7974)
- 当社Webサイト
- Yahoo! Japan ファイナンス 株価

以下のリンク先は、昨年の振りかえり記事です。
2013年の投資をふりかえって(5)継続投資銘柄:任天堂

任天堂(7974)株価の推移(2014年)

株価は年始が14,010円、年末が12,605円でした。下落率は10%強です。

先週発表された第3四半期決算では、営業利益が下方修正されました。400億円から200億円への減額です(当社発表資料[PDF])。ただしそれは早い時期からある程度予想できたものです。今期発売した主な自社製品は、実質的にマリオカート8(WiiU)、ポケモンのリメイク作品(3DS)とスマブラ新タイトル(3DS及びWiiU)の3.5本と言える状況だったからです(この2月にはゼルダのリメイクが3DSで発売予定)。実質的にこれだけのバリエーションと既発売の作品と他社製品で、前年度並みのソフトウェア売上げを計上しています。

来期はWiiUの大型自社製品がいくつか発売されますが(ゼルダ、スターフォックス等)、個人的に注目している製品があります。5月に発売予定のスプラトゥーンです。

(下の映像は、2014年6月のE3で公開されたものです)



この作品からは「前向きなニンテンドー」らしさが感じられ、来期のWiiU拡販の試金石として働くのではないかと想像しています。ただし中心的な遊びかたがインターネット対戦型のソフトのようで、当社としては微妙なマーケティングと思える節もあります。ですが、北米での評判や売上げに注目したいと思います。

今期の当社は「定番ゲーム屋」さんとして消費者に受け入れられる施策を堅実に実行してきたと受けとめています。来期2015年度には、まいた種の成果がある程度実るだろうと思われます。ただし当社が掲げている基本戦略「ゲーム人口の拡大」の視点からみると、ほとんど前進していないようです(トモダチコレクションの国外販売は評価できます)。現在は収益基盤を取り戻すことで精いっぱい、といったところでしょうか。「消費者に新しいオドロキを与える」ことが当社らしい商売のやりかたですから、次の回ではぜひ期待したいものです。

最後に備考です。昨年の投稿で、当社の研究開発費が急増した話題をとりあげました。以下のグラフは、今期までの3年間にわたる研究開発費の推移です。

(データの出所: 当社四半期報告書)

これをみると、昨年度の増加は期末に集中しており、金額も突出しています。どうやら、ゲームソフト開発に資金を大量投下したというよりも、新開発棟での業務開始に備えた物品やソフトウェアの購入に使われた、とみるべきだったようです。


■しまむら(8227)
- 当社Webサイト
- Yahoo! Japan ファイナンス 株価

しまむら(8227)株価の推移(2014年)

当社の株を購入したのは、昨年4月中旬に株価が90万円を下回った頃でした。そして8月のはじめに売却しました。ただし1単元だけ残しています。現在は模索の時期に入ったようにみえる当社ですが、今回もかつてのように殻を破って新たな段階へと進めるのでしょうか。優良企業である当社には、それなりの金額を投資したい気持ちもあります。株価がふたたび下がる時機がくれば、購入を検討しなおすつもりです。


■ツムラ(4540)
- 当社Webサイト
- Yahoo! Japan ファイナンス 株価

当社については過去の投稿で一度取りあげています。
『復活を使命にした経営者』、芳井順一会長によるツムラ再生の物語

ツムラ(4540)株価の推移(2014年)

しまむらと同様、当社も昨年投資に踏み切り、時を置かず売却した会社です。両社に共通するのは、良好な業績をあげており、すばらしい企業文化を持っており、そして輸入型の企業であることです。円安の時期だからこそ、市場からの評価が低迷して株式を購入する機会が生まれるのでしょう。ですが、購入した株価水準が納得できなかったため、早々に売却しました(損失を確定しました)。次に機会があるかどうかわかりませんが、そのときがくれば今度は継続保有したいと考えている会社です。

2015年1月28日水曜日

2014年の投資をふりかえって(7)継続銘柄:モザイク

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■モザイク(MOS)
- 当社Webサイト
- Google Finance 株価


肥料を採掘・生産・販売する当社に投資し始めたのは、2013年の夏からです。以下のリンク先はそのときの振りかえり記事です。

2013年の投資をふりかえって(8)新規投資銘柄:モザイク

<株価の状況>
年初の株価が47.27$、年末は45.65$となり、3.5%の下落でした。現在の株価は47.94$です。発表されたばかりの最新の業績予想を反映すると、当社の2014年度実績EPSは約2.6$、PERは約18.5になります。過去1年間の配当実績が1$、配当利回りは2%強です。

MOS株価チャート(2014年)

<事業の状況>
当社の2大事業であるカリウムとリン肥料はコモディティーであり、業績はそれらの販売価格に左右されます。2013年夏にカリウム業界で大きな事件が発生したことで、カリウム肥料の価格が大きく下落しました(リンも連れ安の状態です)。それから1年以上が経過しましたが、価格の大幅回復には至っていません。カリウムの主要生産者であるウラルカリ社とベラルーシカリ社がいまだに関係を改善していないことが、価格低迷がつづく大きな原因だと思われます(併せて、穀物価格も低迷しています)。ただし後述するように、ウラルカリの供給体制に変化があり、価格改善の動きが出てきています。またインドで政権が交代したことも、需要回復そして価格改善につながる材料とみられています(肥料に対する補助金政策の見直し)。

(以下の2つのチャートは、いずれもIndexMundiからお借りしたものです)

塩化カリウム月次価格(USD/t)

一方のリン肥料の価格は底を打ち、ある程度(450$/t)の水準まで回復しました。ただしこの水準では利益をあげるのが厳しい生産者も少なくないので、価格がもう一段階上がるのではと予想しています。

リン酸二アンモニウム月次価格(USD/t)

価格水準は別として、当社の事業自体は順調に進展しています。ひとつは販売量の状況です。リン肥料(DAP)は第3四半期の実績で前年比20%増の3.3Mt、カリウム肥料(MOP)は30%増の1.38Mtでした。いずれも価格が低下したところで需要が増加しているわけですから、経済学的な法則がすなおに働いています。業績見通しの上方修正が先日発表されましたが、需要状況は好ましい状態です。価格が見直されていく段階にあると受けとめています。

もうひとつは事業拡張への投資です。ひきつづき市場拡大が期待できるブラジルでは、流通案件の買収が12月に完了しました。またリン事業で競合していたCFインダストリーズ社から買収した部門(フロリダのリン鉱山)も統合されました。この買収は「市場低迷時に競争環境が集約整理される」典型的な事例で、当社にとってはありがたい案件だったと思います。その他に以前から遂行中のプロジェクト(カリウム鉱山のK3増強や、サウジの国営企業Ma'aden社とのリン事業JV)がありますが、第3四半期決算の発表資料によれば順調に推移しているとのことです。

<当社に対する投資方針>
当社への投資を評価するにあたって、現在の株価ではPER水準が高い点を指摘すべきでしょう。前述したように現在のPERは約18.5です。1/22現在のS&P500が18.6なので(3か月遅れの決算ベース)、ほぼ同じ水準です。

コモディティーの適正価格を見積もるのはむずかしい仕事なので、個人的には供給側のコストを基準にして判断しています。シルバーへの投資でも触れたように、採算割れの供給は長続きできないからです。カリウム業界は寡占が進んでいることから、現在の価格水準でも生産者は利益をあげられます。そのため、利益確保のために価格を無理に上昇させる理由はありません。リン業界は先にも触れたように450$/tの価格ではほとんど利益が出ない企業もあると考えます。もしリン肥料の価格改善が1割程度進むとすれば、当社の利益水準は現在の5-10%増しになると予想されます。しかしそうだとしてもPERはそれほど下がらず、割安とは言いがたい株価です。

そうだとしたら、そもそも2013年夏の事件で暴落した株価を割安だと判断したこと自体が甘かったのでしょうか。この可能性は自分でも折に触れて考え直しています。当時は、いずれ商品価格がもっと回復する可能性を評価していたのですが(特にカリウム肥料)、その判断が甘いのではないかと。

超長期的(10年以上)にみれば、肥料価格が上昇する可能性は高いと思います。しかし中長期的にどうなるかは、正直なところ読めません。しかし逆に言えば、これは機会にもつながります。当社はカリウムとリン事業の利益バランスが比較的とれており、両事業とも大手です。厳しい価格低迷がつづいても、生存できる確率は相対的に高いと期待できます。逆に、競合他社の資産を安く取得できる機会がうまれます。一方で以前の投稿でも触れたように、食糧政策では政治や気象・天災といった巨大リスクを考慮する必要があります。そのため、甘い見積もりと思われるかもしれませんが、若干のリスク・プレミアムは上乗せできると考えています。

つまり現在の株価水準は無条件に安いと言える水準ではないと考えますが、次のような点を考慮すると、中長期的にはまずまずの利益が期待できる投資対象かと判断しています。

・キャッシュフローを再投資することによる販売数量の増加
・それと併せて、規模の経済が進展することによる利益率の向上
・突発的リスクに対するプレミアム
・肥料成分バランスの見直しから生じる販売水準の改善(インドや中国では窒素系が優位)
・超長期的なインフレ傾向による肥料価格の上昇
・低迷期にも競争力を強化できる潜在的な可能性

その一方で、最近の原油価格下落は穀物需要の低迷につながる可能性があります(バイオ燃料)。これは、上記の追い風を相殺するリスク要因としてあげられると思います。

具体的な持ち株数についてですが、上記の株価チャートに示したように正味で少し売却しました(赤矢印が購入、青は売却)。しかし基本的には継続保有したいと考えています。そうは言っても、ずっと有望なコモディティー関連の銘柄をみつけたときには、乗り換える可能性はあります。

最後に、「カリウム肥料業界の問題児」ウラルカリ社の近況について触れておきます。同社の状況はインターネット上のニュースでも散見されますが、業界紙である化学工業日報でも事故の状況をとりあげていました(2015年1月8日)。かん水が流入して問題となったソリカムスク2鉱山は、閉山するリスクが高いようです。年間の生産能力が約2Mtなので、市場シェアの数%に相当します。さて、今年は需要側が動いてくれるでしょうか。

(写真はPotash Investing Newsから、孫借りしました)

ソリカムスク2鉱山から3.5Km離れた地点での陥没(30m * 40m)

2015年1月24日土曜日

2014年の投資をふりかえって(6)継続銘柄:インテル

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■インテル(INTC)
- 当社Webサイト(IR)
- Google Finance 株価

以下のリンク先は、昨年に新規投資を始めた際の振りかえり記事です。
2013年の投資をふりかえって(9)新規投資銘柄:インテル

<株価の状況>
年始が25.96$、年末が36.29$で、40%弱の上昇でした。現在の株価は36$強で、予想配当は0.96$ですから、配当利回り(予想)は約2.6%です。


<事業の状況>
当社では2003年春にCEOが交代し、現在はエンジニア出身のブライアン・クルザニッチ氏が指揮をとっています。2014年度の業績はクラウドがあいかわらず好調だったことに加えて、Windows XPのリプレースの影響もあり、売上高が559億ドル(前期比6%増)、純利益が117億ドル(22%増)になりました。大きな課題であるモバイル向け領域(スマートフォンやタブレット)では、年初に掲げた野心的な販売目標(タブレット用で4,000万個)を達成しました(4,600万個)。力技でねじふせる戦略を選び、それをきちんと遂行できるのは、当社が伝統的に有してきた強みなのかもしれません。クルザニッチCEOの新体制がうまく機能している証拠のひとつと受けとめています。

当社の動向のうち、小さな取り組みながらも評価したい点が2つあります。ひとつはIoT(Internet of Things; 車載などの機器やウェアラブル等のさまざまな物体のインターネット接続化)分野での取り組みです。2013年には小型SoC(System on a Chip)のQuark、2014年には小型プラットフォーム(統合チップ)のEdisonを、そして今年は年頭のCESでボタン大のCurie(キュリー)モジュールを発表しました。IoT事業における売上高は21億ドル(前期比19%増)の段階ながら、それらの製品には市場やイノベーション面での主導権を握ろうとする意欲が表れています。

CurieをつまんでいるクルザニッチCEO(同社Webサイトより)

懸案であるスマートフォン用プロセッサー市場では、先行する他社と競争できる製品を必死に開発中だと思われます。本格的な攻勢に出られるのは、2016年あるいは2017年になってからでしょう。しかしIoT向け市場は立ち上がってから時間が経っておらず、当社が足場を築くことは今からでもできます。IoT市場では、適用される分野によっては小型かつ低コストなチップが要求されます。これは当社が先行している微細化路線の方向性と合致します。実験的ながらも実製品を開発販売して多様な機会をさぐることによって、市場に認知してもらえるだけでなく、市場の本質を早くつかむ可能性を高められると想像します。

ふたつめの点は、モバイル向けプロセッサーのファブレス開発企業2社と提携した件です。相手企業(いずれも中国企業)は、ロックチップ社(Rockchip)及びスプレッドトラム社(Spreadtrum;実際には親会社の紫光集團と提携)です。どちらの提携においても、当社の設計方式(インテル・アーキテクチャー)にもとづいて、モバイル向けSoCを共同で設計・製造・販売することを合意しました。これは、当社がこれから奪おうとしている市場の一部を譲ることを意味します。そのためこれらの提携を結んだのは、ローエンド向け市場からの売上げを高めるよりも、他社の力を借りることでインテル・アーキテクチャーのすそ野を広げて、開発者コミュニティーやエコシステムの拡大をはかるほうを選んだためだと想像します。提携先企業が脅威になるほど成長したとしても、ARMアーキテクチャーが脅威でいるよりはマシでしょうから、この提携は現実的な選択だと思います。

最後に、今期の業績についてです。先日の決算発表会で今期の業績予想が発表されました。売上高の増加はひとケタ中位、そして粗利益率は前期比で低下と平凡な数字にとどまりました。市場からは失望視されている節もあります。見通しの中で確度が高いと思えるものは、スマートフォンやタブレット向けプロセッサーの赤字幅が縮小する点です(コストダウンが中心のため)。そして未知数なのがWindows10需要です。Windows10がねらう大きな目標のひとつは、企業で採用されているWindows7からの切り替えでしょうから、本命の商機は来期以降になります。その一方で消費者にも強く訴えるものがあれば、今年の年末商戦で当社製品を搭載したPCの需要増が期待できるかもしれません。

<当社に対する投資方針>
マイクロソフトと同様に、当社に対するPERの評価も上昇しました。実績EPSは2.31$で、PERにすると16倍弱です。モバイル向け事業の赤字幅が来期から縮小すれば利益は数%上乗せされることが見込まれますが、それを考慮しても株価の水準はまずまずの段階にきています。株価上昇の期待だけでなく、下落する可能性も十分考えられます。そのため、当社の株式もマイクロソフトと同じように売却したいところですが、これもまたマイクロソフトと同じように長く保有したいと考えている企業です。マイクロソフトと違うのは売上高が景気に左右されやすい点であり、不況になれば株価の下落幅も大きくなると思います。それは覚悟の上で、継続保有したいと考えています。

2015年1月20日火曜日

2014年の投資をふりかえって(5)継続銘柄:マイクロソフト他

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2014年は、ポートフォリオの大半は手を付けることがなく、そのままの状態でした。全体としてみれば、好業績や市場からの評価の変化を享受できたように思えます(だからといって、今年も同じように期待できるとは考えていません)。気にとめている企業の四半期決算はそれなりに確認しましたが、そうでない企業はざっと数字に目を通しただけでした。今回と次回と次々回でポートフォリオ中のおもな現状維持銘柄について、ひととおり触れたいと思います。なお記述順は、ポートフォリオにおける評価金額の大きなものからです。また過去にブログで触れていない銘柄(従来からの保有分)は、取りあげていません。

■マイクロソフト(MSFT)
- 当社Webサイト(IR)
- Google Finance 株価

以下のリンク先は、過去2年間における振りかえり記事です。
2013年の投資をふりかえって(1)継続投資銘柄:マイクロソフト
2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(マイクロソフト)

<株価の状況>
年始が37.41$で、年末には46.45$でした。上昇率は24%強です。現在の株価は46$強で、予想配当は1.24$ですから、配当利回りは約2.6%です。


<事業の状況>
当社の前CEOだったスティーブ・バルマーが2014年2月に退任して、新CEOに生え抜きのサティア・ナデラ氏が就任しました。次期CEOとして個人的に予想していたのはノキアのCEOだったスティーブン・エロップ氏ですが、1年間の実績を見るかぎりではサティア・ナデラを選んで正解だったと思います。サティアは実際的なレイオフや現実的な製品戦略・協業を確立・実行し、淀んでいたようにもみえた当社の空気を変えようとしています。スティーブ・バルマーの「マーケティング」主導路線を改め、「エンジニア」主導の企業文化へと向きを変えているようにもみえます。そのような空気はハイテク企業にとっては欠かせないもので、いずれ人材採用にも良い影響を及ぼしてくると想像します。

サティア・ナデラ(当社Webサイトより)

昨年の経営陣交代でサティア以上に画期的だったのは、ビル・ゲイツが会長を退任して、後任にジョン・トンプソン氏が就任したことです。創業者であるビル・ゲイツの立場では意思決定の際にバイアスがかかりやすかったでしょうが、他社での経験が豊富なトンプソン氏に交代したことで、経営判断の質が以前より向上したように思えてなりません。当社がくだす大きな経営判断は、トンプソン会長による厳しいテストを必ず受けることになるでしょう。これは今後も注視していきたい点です

ジョン・トンプソン(当社Webサイトより)

もう2点ほど触れます。まずはOffice365の成長についてです。当社の業績を昨年度(FY2014)とその前期(FY2013)で比較すると、粗利益が約23億ドル増加して598億ドルになりました。そのうち企業向け部門が占める増加幅の割合は100%超で(つまり消費者向けやOEM向けのWindowsでは粗利益が減少しています)、その中でも利益成長に大きく貢献していると思われる製品がOffice365です。

Office365の販売形態は月額(や年額)使用料を支払うサブスクリプションであり、1契約あたりの売上金額の貢献度は従来方式よりも小さくなっていると思われます。しかし事実上永続的に課金できるだけでなく、わずかずつ値上げするのに好都合な契約形態であるため(電力会社やガス会社と似ていますね)、当社の収益基盤を強固にします。ライセンス方式によるソフトウェアの販売は当社でも以前から存在していますが(サーバーにアクセスするCALなど)、看板ソフトであるOffice(及び関連サービス)もその方式へと大きく前進しました。Office365はこの数年間に当社が進めた施策の中でもっとも重要な戦略だったと、個人的には捉えています。

もうひとつがクラウドについてです。上述したOffice365もクラウドで展開されるサービスの一環ですが、その他にOneDriveやAzure、Dynamics CRMがあります。クラウド業界では名だたる企業がしのぎを削っています。現在の最大手はAmazonで変わらず、2番手が当社、そしてGoogleやIBMなどがあげられます。この中でIBMには絶対的な既存顧客がついているので(おもに金融業界や政府部門)別枠と考えることにして、その他の有力企業であるAmazonやGoogleと競争して当社が勝ち残れるかが問題になります。昨年の記事でも喚起しましたが、今でもそれは変わっていません。個人的な答えとして確信までは至っていませんが、当社は勝ち残っていくだろうと予想しています。CEOになる前のサティア・ナデラが担当していた分野も、クラウドを含む企業向けシステムでした。このテーマは自分なりの考えをまとめて、いずれ取り上げたいと思います。

<当社に対する投資方針>
市場からの評価が大きく変化し、現在のPERは18前後と株式購入時より大きく上昇しました(キャッシュフローの観点では、償却額が大きいものの、設備投資も多額となっているのが現状です)。そのため株価の下落リスクも大きくなり、売却したい気持ちもあります。しかし当社の株式は売却せずに保有し続けたいという想いのほうが強く、今後しばらく(数年間か?)の株価下落は甘受するつもりです。


■バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)
- 当社Webサイト
- Google Finance 株価


当社の株価は年始が118.56$で年末が150.15$でした。上昇率は約26%です。当社に関する私見は今回は取りあげず、2014年度の年次報告書が2月末に発表された後に書くつもりです。

2015年1月16日金曜日

2014年の投資をふりかえって(4)買い増し銘柄:日進工具、クラレ

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今回は、数年前から投資して2014年に若干ながらも買い増しした企業2社をとりあげます。日進工具とクラレです。日進工具に投資を始めたのは2011年の秋から、そしてクラレは2012年の秋からです。以下のリンクにあるとおり、両社ともに過去2年間の投稿でも取りあげました。

2013年の投資をふりかえって(3)継続投資銘柄:日進工具
2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(日進工具)

2013年の投資をふりかえって(4)継続投資銘柄:クラレ
2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(クラレ)

なお2014年の新規投資銘柄としてサンリオ(8136)をあげましたが、同社については昨年に一度投稿していますので、今回は省略します(過去記事)。購入した株式はそのまま保有しており、今後も継続するつもりです。当社の第2四半期決算説明会動画を観たところ、鳩山常務の出番が増えていました。彼の表情はいつもどおりに戻ったようで、社内での位置づけが少し好転したように感じられました。欧州での訴訟問題もあり、当社のためにバリバリ働いているのではないでしょうか。

■日進工具(6157)
- 当社Webサイト
- Yahoo Japan! 株価

<事業の状況>
スマートフォン向けや自動車向けの需要が伸びているとのことで、業績は好調です。設備の増設を検討されているようで、好調な時期はどこの会社も似たような匂いが感じられます。

<株価の状況>
当社は2012年の秋に株式分割(1:2)を行いましたが、昨年2014年秋にも再び1:2の分割を行いました。その影響があったのか、前半は横ばいだった株価が7月から上昇しました。年初に867円(分割調整後)だった株価が年末には1,665円となり、上昇率は90%強でした。


一昨年の2013年に買い増ししたときは購入数が少なかったので、2014年に買うならばもう少しまとめて、との意識はありました。が、振り返ってみるとそれほどにはなりませんでした。買った時期は上図の赤矢印で、2月、4月、5月でした。その後に株価が上昇してからは買い増ししていません。


■クラレ(3405)
- 当社Webサイト
- Yahoo! Japan 株価

<事業の状況>
上述した日進工具とはちがって、当社に対する市場の評価はもうひとつの1年でした。しかし事業や会社のほうは変化があり、個人的には当社のほうを注視しています。

まず変化のひとつめは、昨年も触れたデュポン社からの部門買収が完了した件です。この部門が製造している主要製品に、ビニル・アセテート・モノマー(VAM)と呼ばれる原料があります。これは当社の主力製品である光学用ポバールフィルムやエバールの原料であるため、今回の買収で上流の領域を統合したことになります。このことは当社が長期的な戦略を遂行する上で重要な一歩になる、と想像します。それというのも、当社はポバールやエバールでとことんやっていく覚悟を持っており、そのためには原料供給の面で不安を残したくないからです。後顧の憂いを断っておき、そして北南米市場で大きな前進を遂げる。これがビニル・アセテート系事業における当社の長期戦略です(と書きましたが、単なるわたしの妄想です)。

もうひとつは、この1月から社長が交代して新中期計画が始まると共に、組織が変更された点です。当社の稼ぎ頭である光学用ポバールフィルムがこれまで属していた事業部門は、「ビニルアセテートカンパニー」でした。ここには他の主力製品群であるポバール樹脂やエバールも含まれており、各々の業績が混合して示されていました。しかし1月からの組織体制では、これが2つに分割されます。(光学用も含む)ポバールフィルムの事業はデュポンから買収したGLS部門等とまとめられて、「ビニルアセテートフィルムカンパニー」になりました。一方、ポバール樹脂とエバールは「ビニルアセテート樹脂カンパニー」です。この組織変更には、「ポバール樹脂やエバールさん、助けがなくても自分たちだけでしっかり利益を増やしなさいよ」という意図が感じられます。前述した個人的妄想につながる部分です。さらに一般投資家の視点という意味では、主力事業の成績を個別に把握しやすくなるのでは、と期待しています(当社発表資料[PDF])。(2015/2/17追記:決算発表会の説明映像によれば、ビニルアセテート系事業の情報開示は、分割せずにひとつにまとめるとのことです)

その光学用ポバールフィルムで少し暗い話題があります。第2四半期の決算説明会で質疑が交わされたように、当社顧客の日東電工が自社開発した材料(コーディングPVA)をもとに製造した偏光版フィルムが、セット・メーカーに採用されたようです(iPhone 6?)。一方で当社は超超広幅(かつ薄膜)の製造ラインを新たに稼働させており、ターゲットとするアプリケーション領域が遷移しているようにみえます。各社のアナリストはこの件を心配し続けていますが、わたしも自分なりにリスク要因として念頭に置くようにしています。ただし、この事業が具体的にどのように縮小(あるいは持続)するのか、正直なところよくわかりません。

さて当社は会計期を変更したため、この1月から新会計年度になります。そのため年末のタイミングで業績修正が発表されましたが、デュポンからの買収関連に伴う評価損等で、純利益が50億円減少するとのことでした(当社発表資料[PDF])。「高値を払ったつけが回った」と非難を受けるかもしれませんが、それは前社長である伊藤文大会長の責任です。50億円は、彼から新社長伊藤正明氏に向けた餞別でしょう。バランス・シートの掃除がそれなりに済んで、新たな一歩を気持ちよく踏み出せると思います。

<株価の状況>
年初が1,253円、年末が1,378円と、上昇率は10%弱でした。買い増しをしたのは下図の赤矢印で、1月下旬から2月上旬でした。いつもと同じで、ポートフォリオに影響を及ぼせない程度の数量にとどまりました。


<おまけ>
新体制、新中期計画ということで、当社の企業CMのヒロインも変更になりました。当社のサイト「クラレ ミラバケッソ キャンペーンサイト」から、黒島結菜さんの映像をお借りしました。


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しかし、広告などのキャンペーンで女性を起用する慣習は、繊維業界の名残か何かで続けているのでしょうかね。

2015年1月12日月曜日

2014年の投資をふりかえって(3)新規銘柄:シルバー・ウィートン(SLW)他

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シルバーに関する投資対象はいくつかありましたが、そのほとんどはシルバー・ウィートン社とシルバーETF(SLV)でした。シルバー自体については前回の投稿で書きましたので、今回はおもにシルバー・ウィートンを取りあげます。

■シルバー・ウィートン(銘柄コード:SLW, 英名:Silver Wheaton Corp.)
- 当社Webサイト
- Google Finance 株価

<投資に至った背景>
シルバーへの投資自体は以前からつづけていたのですが、近年はETFのひとつSLVへ投資していました(昨年の投稿)。しかし2014年になってもシルバーの価格下落がとまらず、それ以上に株価が下落している鉱山会社に興味を持つようになりました。それまで当社の銘柄コード(SLW)を目にしたことはあったものの、実質的には何も知りませんでした。しかし事業概要の文章を目にして、一般的なシルバー鉱山会社とは商売のやりかたが大きく違っていることがわかり、詳しく調べてみたいと考えるようになりました。

<事業の状況>
当社はカナダのバンクーバーを拠点とする鉱業会社で、シルバーやゴールドを販売して収益をあげています。ただし自前の鉱山を操業するのではなく、鉱山会社に対して資金を提供し、そのかわりに契約対象となる鉱山から産出されるシルバーを一定期間(あるいは当該鉱山での採掘終了まで)にわたって固定価格で買い取る契約を結ぶ事業を展開しています。たとえば契約先企業が生産したシルバーを1オンス当たり5ドルで買い取る契約をしていれば、市場やディーラーに1オンス15ドルで売却すると、粗利益は10ドルになります。彼らは自社を"streaming company"と呼んでいますが、日本語にすると「購買条件付き資本提供会社」といったところでしょうか。

2013年度の業績概要は、売上高が7億ドル、営業利益が4.2億ドル、純利益が3.7億ドルでした。従業員数は30名弱のため固定費が少ないのと、有効税率が低い点が特徴です(税率については後述します)。

契約を結ぶおもな相手企業は、シルバー以外の金属を採掘する鉱山会社です。おもに生産される金属がゴールドや銅、鉛、亜鉛などで、シルバーは副産物として生産されます。契約案件数は約20件で、2013年度に買い取ったシルバーの数量は約26Moz(ミリオン・オンス)でした。シルバー全体の年間新規産出量が約800Mozでしたので、それなりの位置にいます。

鉱山開発を進める企業では、当該鉱山が商業生産を始める前はキャッシュフローの流出がつづきます。そのため、そもそもの当初資金を調達したり、開発プロジェクト中に追加資金を工面するといった財務は、事業活動の初期段階における重要な仕事です。一方、生産が軌道に乗ればキャッシュフローは流入に変わり、シルバー等の副産物収入が減っても許容できると考えるのでしょう。そのため当社が提供するソリューションは、契約先企業にとっても有益なものだと考えられています。

具体的な契約先企業の例としては、次のような会社があります(数字は2013年度)。

・グレンコア・エクストラータ(Glencore Xstrata); 売上高2,396億ドル
・ヴァーレ(Vale); 売上高467億ドル
・バリック・ゴールド(Barrick Gold); 売上高125億ドル
・ゴールドコープ(Goldcorp); 売上高36億ドル

なお近年になって、ゴールドを産出したり鉱山開発している企業と契約を結び、ゴールドを買い取る事業も行っています。CEOのスモールウッド氏によれば、「基本的な投資先はシルバーだが、機会があればゴールドにも投資する」とのことです。

<株価の状況>
当社の株式はNYSEに上場されています(カナダのトロント市場にも上場)。2014年の年初が20.19$、年末が20.33$と、結果的には横ばいでした。現在の株価は21$強です。直近1年間の配当実績は0.26$で、配当利回りは1%強です。


<投資方針>
2014年の9月下旬から11月上旬にかけて集中的に購入しました(上図の赤矢印)。平均購入単価は20$弱でした。ただしETF銘柄のSLVを一部売却した資金も回しているので、その部分は銘柄を乗り換えたことになります(後述します)。

投資する際に当社を評価した大きな点は、次の2つです。

1. 複数の企業と契約し、シルバーやゴールドの調達先を分散していること
そもそもシルバーを副産物として産出する企業と購買契約を結ぶわけですから、ひとつの鉱山から産出される量は限定的です。そのため当社が商売を拡大しようとすれば、必然的に複数企業と取引することになります。しかし、この点がおのずと当社の優位につながると考えます。

契約先企業が複数社にわたることで、経営体が分散されるだけでなく、金属種的な分散(ゴールド、銅、亜鉛など)と地理的な分散が実現します。そして言うまでもなく、それらの契約先企業はシルバーの価格下落リスクからおおむね分離しています。このことは、シルバーの価格下落リスクやその他のリスクが生じても、当社が生存できる確率を高めることに寄与します。

生物学的にたとえれば、当社を「寄生虫」とみなすことができます。宿主が幼少期にあるときに生育を助ける代わりに、残りの生存期間にわたって寄生させてもらいます。ただし合意による寄生ですから、共存関係にあると言えるでしょう。さらに複数各種の宿主に掛け持ちで寄生することで生存確率を高めると共に、段階的に宿主を乗り換えることができます。そして、場合によってはシルバー価格の高騰も期待できます。これは、宿主から頂く栄養分がローヤルゼリーに変わるようなものです。

もうひとつはあくまでも推測に過ぎませんが、操業をつづける複数の鉱山会社と長期の契約を結ぶことで、鉱床から採掘する際の鉱床学的な事実情報を相手先から入手でき、知見を深められる点を評価したいと思います。このような知見は、将来の契約候補先を検討評価する際に役に立ちます。リスクの項目で触れますが、この事業で競争相手に差をつけられるとすれば、「案件に対する目利きの良さ」が重要になると考えます。その点で現在おかれている当社の位置づけは、将来にもつながるものと捉えています。

2. 契約先企業との契約期間が長期であること
当社がシルバーを買い取る期間として、契約条件に「鉱山が経済的寿命をむかえるまで」と定める案件が少なくありません。それ以外でも10年間や20年間といった期間を指定しています。そして、当社が相手先からシルバーを買い取る固定価格はおよそ5ドルです。シルバー主体の鉱山会社の財務を考慮すると、シルバーの価格がこの水準まで下落する可能性は著しく低いと予想します。上述した1.の要因と組み合わせれば、当社にとってシルバーの価格上昇に賭けられる期間が長期間持てることを意味します。

前回の投稿で書きましたが、現在のシルバーは需給バランスの観点から見ると、価格上昇の機会が十分にあると予想します。そうであれば、「シルバーの価格上昇時に市場から高く評価されるシルバー主体の鉱山会社のほうが、投資先として良い選択だろう」と考えるかもしれません。しかしこれも前回触れたように、先物市場の行方が短期的にどうなるのかは予測しがたく、低迷が長く続いても分のある当社に投資したほうがよいと考えました。

<リスク>

1. タックスヘイブン子会社の活用
当社の収益の大半は、ケイマン諸島に設立された子会社が計上しています。また過去においてもタックスヘイブン子会社を使っています。そのため、当社の本社がカナダ本国で課される税率は本来の25%ではなく、大幅に少ない金額にとどまっています。たとえば2012年には、営業利益6億ドルに対して本来のカナダの税率(25%)に従うと、所得税は1億5千万ドルになります。しかし、実際の税額は1,400万ドル強にとどまっています。なおこの件に関連して当社の年次報告書では、カナダの税務当局が当社の2005年度から2010年度の国際取引について現在監査中であることが記載されています。

この件がどのような結末に落ち着くのか予想できません。ただし、あまり厳しく締め上げると、当社がカナダを出ていくことも考えられます。そのため更生や新たな規制が実施されるとしても、ほどほどの水準にとどまるのではないか、と(希望的なのですが)考えています。

2. 今後の事業の拡張発展に対して、特定個人の力量が大きな影響を及ぼすこと
当社が新規の契約を獲得するには、相手先企業の存在が不可欠です。そのほかに、適切なタイミングと資金、そして学術的(鉱床地質学)な洞察力が要求されます。それらがそろうことで、当社にとって質の高い投資案件を得ることができます。この中でもっとも安価に入手できる可能性のあるものが、人材です。たとえば当社のナンバー2の地質学者が別の会社に引き抜かれたら、商売自体は容易に模倣できます。この課題は当社に限らず不変のもので、やがては顕在化するリスクだと予想します。

ただしすでに成立している契約案件は確定的です。そのため、当社の企業価値を判断する上では、あくまでも過去を評価し、将来の発展性はボーナスと考えるようにしています。

3. 他社の参入による事業拡張機会の減少
当社の事業に参入するには、資本と学術的能力と交渉力があれば可能で、参入障壁はあまり高くありません。そのためシルバーやゴールドの価格が高値の水準に戻れば、新規参入が増えると思われます。その場合、当然ながらパイを争うことになり、投下資本利益率は下がるでしょう。

これについては当社経営陣の規律が試されるときであり、ひとりの個人投資家としてできることと言えば、過去の実績を振り返るぐらいです。当社の投資家向けプレゼンテーション資料(2014年9月版)で、過去の契約実績が図示されていました。それによれば、2011年のシルバー価格高騰前後の時期には新規契約を締結していません。このことから、現在の経営陣は一定の規律を保っていると評価できそうです。



■シルバーETF(銘柄コード:SLV、英名:iShares Silver Trust)
- Google Finance 株価

シルバーのETFが上場されてからは、基本的にSLVを対象に資金を投じてきました。しかし上述したように今回はシルバー・ウィートン(SLW)に興味を持ち、SLVのほうはある程度売却して乗り換えることにしました(SLV売却にともなって、損失を確定しました)。ただしSLWとは値動きが異なるため、価格下落時に追加投資する際には、相対的に割安な銘柄のほうにしたいと考えています。


■その他のシルバー関連の投資
上記以外にもシルバーに関する投資先がありましたが、ポートフォリオに占める割合がわずかなので、それらの説明は省略します。なおシルバー関連の全投資を単一の銘柄としてとらえれば、ポートフォリオに占める割合は主力級となりました。

2015年1月4日日曜日

2014年の投資をふりかえって(1)全般について

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ここ数年における自分の投資動向をふりかえってみると、2011年や2012年の頃には新規で投資してみたいと思える銘柄があり、実際にいくつかの銘柄の株を購入しました。2013年に新規で投資した主な銘柄は2件、そして昨年も事実上2件でした。結果的には昨年も市場全般が好調で、安全余裕が十分にあると自分なりに判断できる銘柄を見つけ出せませんでした。反対に従来から保有している銘柄は、過去数年間と同じように漸次売却しています。

今回は昨年の投資状況について概括し、次回以降の投稿で個別銘柄を取り上げます。ただし、ポートフォリオの構成銘柄は基本的に2013年とほぼ変わらないので、過去に取り上げた銘柄はあまり触れないつもりです。(そのため、本シリーズは長くはつづきません)

昨年売買した主な銘柄は、以下のとおりです(各分類での並び順は、時価評価額の大きなものから)。

<新規購入(New Buy)>
・シルバー(銀)関連; ただしSLVは以前からの買増し銘柄。
・サンリオ(8136)

<買増し(Add)>
・日進工具(6157)
・クラレ(3405)

<現状維持(Hold)>
・マイクロソフト(MSFT)
・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)
・インテル(INTC)
・日精エー・エス・ビー機械(6284)
・任天堂(7974)

<売却(Reduce or Sell)>
・従来から保有している主力・準主力銘柄
・モザイク(MOS); 基本的には現状維持ですが、正味で若干売却しました。

<購入後、早々に売却した銘柄>
・しまむら(8227); ただし1単元だけ残しています。
・ツムラ(4540)
・伊勢化学工業(4107)

資金管理上の面で、2013年から意識していることがあります。投資せずに待機させておく現金の絶対額について、おおよその目安を決めている点です。そのため昨年(の夏まで)は、手元資金に余裕があってもやたらと使わずに、株を買いたい場合にはすでに保有している銘柄の売却分を充当する感覚を持つようにしました。ただし昨年秋以降はまとめて投資したいと思える銘柄があり、資金を投資に回しました。

2014年11月26日水曜日

IBMで考えた戦略(前CEOサム・パルミサーノ)

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DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2014/12月号に、IBMの前CEOだったサミュエル・パルミサーノ氏のインタビュー記事「投資家をマネジメントする」が掲載されていました。今回は、同記事から一部を引用します。

サムが敷いた路線は、基本的には現CEOのバージニア・ロメッティ女史にも受け継がれていると捉えています。そのため彼の意見は、IBMにおけるマネジメントの現状を代弁しているように思えました。なお、本家であるHarvard Business Reviewに原文が掲載されたのは今年の6月号です。

まずは、対話を通じて主要な機関投資家から受けた要望についてです。

大株主の意見に耳を傾ければ、自社の戦略に合致した方法でうまく対応できることに私は気づきました。彼らは基本的には、株主にも配慮して資本を配分してほしいと申し入れているだけでした。売上げの伸びよりも、利益率の拡大やキャッシュの創出を求めていたのです。なぜなら、企業がキャッシュを生み出せば、自社株買いや配当という形で株主に還元されると心得ていたからです。だれも価値が見出せない、無意味な大型買収に走るようなことはないと百も承知なのです。 (p.43)

つぎは、IT企業のライフサイクルについてです。

企業は創業後、私が「第一幕」と呼ぶ段階を経験します。商品がヒットしたり、大成功を収めたりする第1フェーズです。現時点でも、グーグルやフェイスブックのように大成功している企業があります。このような企業はアイデアに秀で、かなりの収益を上げているでしょうが、たちまち第2幕が必要になります。はたして第2幕は、時価総額をたとえば300億ドルから1000億ドルに押し上げてくれるでしょうか。これは、少々やっかいです。マイクロソフトが現在直面しているのは、この種の課題です。 (p.46)

最後は、戦略の策定や実行についてです。

とにかく、すべてを整合させることです。まず着手すべきは戦略です。IBMの場合、利益率と創出価値がより高い事業に移行するという戦略を策定しました。すなわち、陳腐化しつつある事業から撤退し、価値を生み出せると判断した事業分野に進出するというものです。アナリティクスやクラウド、ビッグデータ、つまり数々のソフトウェアがこれに当たります。その次に、投資家が「その戦略は私にも成果をもたらす」と言えるような財務モデルに戦略を転換しなければなりませんでした。そのうえで、この財務モデルを経営システムに焼き直して、各事業部門がそのロード・マップを実行できるようなプランを策定しなければなりません。さらに報酬体系を整備し、戦略の成功可能性を高める必要がありました。つまり、戦略を起点として、端から端までをしっかり結びつけたのです。 (p.47)

IBMの企業戦略と聞けば、過去記事で取りあげたルイス・ガースナーの言葉が思い返されます。

2014年11月20日木曜日

バークシャー・ハサウェイ、IBM株保有状況の推移(2014年9月末まで)

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バークシャー・ハサウェイが保有する公開企業の株式のうち、時価ベースでの上位3社はウェルズ・ファーゴ、コカ・コーラそしてIBMです(2014年9月末時点)。今回はそのうちのIBMの話題です。

IT企業であるIBMはウォーレン・バフェットが手を出さないできた種類の企業ですが、2011年からバークシャーのポートフォリオに加わりました。意外さを説明しておきたかったのか、彼の想いはいわゆる「バフェットからの手紙」で触れられています(過去記事)。

そのIBMは今年度第3四半期の業績が悪く、直前には180ドル近辺だった株価が160ドル強まで下落しました(Google Finance)。実績PERは10倍強と、興味が出てくる水準です。そこで今回は、ウォーレンがIBMの株価水準をどう捉えてきたのか想像する材料のひとつとして、バークシャーがIBM株を購入してきた推移(四半期ごと)をグラフにしました。情報源は、同社が提出した報告書13F-HRです。

EDGAR Search Results - BERKSHIRE HATHAWAY INC Filing Type: 13F-HR


グラフをみれば明らかなように、大半は2011年の間に購入されています。当時の平均購入単価はざっと170ドル前後でしょうか。その後株価がやや上昇したせいか、追加購入ペースは激減しました。しかし今回の株価下落で、ふりだしの水準に戻りました。ただしEPSをくらべると、2010年度は11.52ドルに対して2013年度は14.94ドルと、株主から見た収益力は30%ほど増加しています(ちなみに純利益は、148.33億ドルから164.83億ドルへと11%増加)。さて注目のウォーレン・バフェット氏、IBM株を追加購入するのでしょうか。次回の13F-HRが楽しみです。

(蛇足ですが、個人的にはIBMはここ数年にわたって継続監視しており、この株価水準は興味を持っています。しかし現在は別の投資対象を注視しているので、今のところIBMは見送るつもりです)

2014年10月14日火曜日

あなたの考え方はおかしいと思います(サンリオ鳩山常務)

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本ブログで何度か取り上げているサンリオ鳩山常務の記事が、PHP Business THE 21の最新号(2014年11月号)に掲載されていました。当社に身を転じるきっかけになった辻邦彦副社長(故人)との関わりあいについて、一部分を引用します。

私は前職の三菱商事に在籍中の2004年、サンリオとの事業提携を担当していた時期があり、そこで副社長と知り合いました。初めてこちらが事業の提案をしたとき、副社長からダメ出しをされたのですが、私は当時30歳くらいの若造だったにもかかわらず、生意気にも「あなたの考え方はおかしいと思います」と言い返したんです(笑)。すると翌日、副社長がわざわざ私のオフィスに出向いて、「昨日は悪かったね。これから君と一緒に何かやっていけるといいなと思っているよ」と言ってくださいました。その日の夜に飲みに行って、それ以来、週に2~3回は食事に行く仲になりました。

(中略)

辻副社長は昨年亡くなりましたが、今もどこかで自分を見守ってくれている気がします。今後もいただいたご縁を大切に、この会社をより大きく成長させたいと思っています。 (p.75)

積極的にメディアに取り上げられることは、何らかのメッセージを発信したいためと想像します。そして、どちらに転んでも好ましい目が出るように、鳩山さんは話題や言葉を慎重に選んでいるように感じられました。

2014年9月18日木曜日

日本の製造業とサンリオの共通点(鳩山玲人常務)

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DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2014/10月号の内容は「特集:2020年のマーケティング」ということで、サンリオ鳩山常務の小論文が掲載されていました。同社で成功した基本戦略が簡潔にまとめられています。結びの文章を一部引用します。

ブランドやキャラクターといった無形資産は、数値で管理したり、論理的に価値を説明したりすることが難しい。そのため、とかくデザイナーやクリエイターのセンスに依存しがちであった。いいものさえつくれば売れるという思考の下、偶然性に左右されるビジネスを行っていた。どうしてもコンテンツの側面ばかりからビジネスを考えてしまうのだ。

この構図は、技術開発ばかりに熱を上げ、市場の動向を読み違えた、日本の製造業の苦境と同じである。しかし、感覚的なものを感覚的に扱うことから、再現性あるビジネスは生まれない。感性で訴えるものだからこそ、論理の鎧で武装する必要がある。培った経験や感性を、どれだけ仕組みとして根づかせていけるか。そのためには、アカデミックな理論に学ぶ姿勢が必要である。

ビジネスの世界が理論通りいかないのは当然だが、理論は、複雑なビジネス環境で戦略を構築する土台となる。頑強な土台を前提にすることで、複雑な環境でも柔軟に思考する軸となるのだ。(p.89)


サンリオの話題は、過去記事で一度取りあげています。そのときに買った株は継続保有中です。

2014年6月18日水曜日

『復活を使命にした経営者』、芳井順一会長によるツムラ再生の物語

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今年に入ってからツムラ(4540)に興味を持ち始めました(株式も少し買いました)。業績の見通しが停滞気味のせいか、株価は低迷しています。その当社を知る一環として読んだのが、今回ご紹介する本『復活を使命にした経営者』です。

書店で目立ちそうのない地味な装丁の本書は、内容も地味だろうと思われるかもしれません。1990年代に入って低迷し始めた漢方薬メーカーのツムラが薄暗い10年間をくぐり抜けてここまで復活するに至った経緯を、ある人物のエピソードを中心に描いた話です。その人物が、当社の会長である芳井順一氏です。

しかし内容のほうは地味どころか、個人的には全編響くものばかりでした。芳井氏は、まぎれもなく名経営者とお呼びするのがふさわしい方だと思います。芳井氏は当初、第一製薬の営業部門に所属していました。しかしツムラ危機に際して創業者一族の風間八左衛門氏(第一製薬の当時の常務)が里帰りすることになり、風間氏に請われて芳井氏も当社に移ります。そして子会社の整理、人員削減、営業部門の立て直し、事業戦略の転換・改革・発展と、激動の20年間弱にわたって当社の経営に携わってきました。本書に登場するそれらのエピソードは悩んで考えて決断した日々を素直に記したもので、空々しく感じられるところがありません。

しかし芳井氏のすばらしい点をあえて3つだけ選べば、「戦略のしぼりこみと実行、人の心理に通じた交渉力、道義心」になると思います。仕事をこなしている中で、これらの点で悩んだりヒントを得たいと考えている方には、きっとお勧めできる一冊です。

これから本書を通読したい方には申し訳ありませんが、以下に本文から2か所だけ引用します。ご了承ください。

ひとつめは、芳井氏が第一製薬時代に営業担当として活躍した頃の話です。

私が転勤をして、初めて回った病院の医局に、『製薬メーカーMR[営業担当]の5時以降の医局への立ち入りを禁ず 院長』という貼り紙がしてありました。5時までは医局に、MRがたくさんいるのですが、ほとんどのMRは医局の隅に立ったままで医師と話をしないので、『壁の花』と呼ばれていました。

こんなことを繰り返していても埒が明かないと思い、私はその貼り紙に気が付かないふりをして、夕方5時過ぎに宿直の先生のところに行きました。先生方が戻ってこられたときに先生方の机の上にある食事を見て、『先生、これ患者さんと同じ病院食ですか』と声を掛けました。『よろしければ、この病院の前の寿司屋から、出前させましょうか』って申し上げたんです。

すると、あんた誰よ、ってことになりますよね。そこで初めて名刺を出して『実は私、担当したばっかりなんです』と自己紹介するわけです。

そこで寿司屋に電話をして寿司を持ってきてもらい、そこで医局の先生方と夜中2時、3時まで話し込むんです。『こんなにうまいものが食べられるんだったら、毎日おいでよ』という言葉がかかり、『ところで先生、今気が付いたのですが、メーカーは5時以降は訪問禁止なんですか?』って言ったら、『あれは院長だけが言っていることだから、誰も気にしていないよ。芳井君、毎日おいでよ』と言われました。

だいたい宿直の先生方が5人ぐらいいますから、毎晩それをやると、1週間で30数名。その病院の医局にいらっしゃる先生全員と会うことができ、1週間で一気に親しくなります。親しくなったら、そんなことをする必要はありません。今度は昼間に行って、先生と直接お会いして話をする。パンフレットを出して、こんなのもありますよ、とお声掛けをする。そうすれば話を聞いてくれます。そういう繰り返しでした。

当時は、明け方の3時とか4時頃に医局を出て営業車で帰宅していたのですが、辛かったというと逆でした。『日本全国のMRの中で、今ハンドルを握っているのは自分だけだろう。明日もやってみよう』という充実感がありました。これで来週からすごいものにつながっていくという喜びのほうが大きかったですね。(p.124)


もうひとつは、経営者として戦略を具体化する際の考え方についてです。

こうした芳井のビジョンは、すべてが具体的だ。聞こえのいい文言が並ぶ空疎なものではなく、そこには人を動かす力強さが秘められている。こうしたビジョンを芳井は、いつどのようにして描いていくのだろうか。

「私は物事を考えるとき、会社のことなら、10年、20年先のツムラをイメージします。そして、そこに向かって一つひとつ、会社全体のことを、どこがどうあるべきか考えます。

そして、それをもう少しショートタームで考えるのが3カ年計画です。3年先にこうありたい、と思ったら今度は3年先にそこに行くためには1年後にどうなっていないと、そこに行きつけないのかイメージします。1年先をイメージしたら、そこに到達するまでの自らの行動や組織の行動にデザインを加えていきます」

長期的なビジョンを描き、そこから逆算して行動に落とし込む。それだけなら目標達成の方法としては王道だ。しかし、芳井の場合、その方法にも独自の工夫がある。実際に手を動かすのである。

「そのために1か月後にはどのくらい進んでないといけないのかを考え、頭の中でイメージします。私は、休みの日には自分の部屋で、A4のコピー用紙を4枚並べて、そこに絵を描きます。頭の中だけで考えると、どうしても堂々巡りになってしまいます。

絵にすると具体的な考えが次々に浮かんできます。会社の将来の絵を描く。それに対して、今、妨げになっているものは何か考え、この妨げているものを取り除いていけば必ずイメージに近づいていけます。それに拍車をかけるためにはどういうことをやったほうが勢いが出るのか、それを絵に描きながら考えるのです」(p.257)


ツムラに興味を持たなかったら(たとえば株価がずっと割高だったら)、本書を手に取ることはなかったと思います。本書を通して芳井会長のことを知ることができたのは、わたしにとっては幸運でした。しかし芳井氏はあと数日で取締役会長を退任し、相談役に就任される予定です。ツムラにとっては新たな試練が始まります。

2014年5月28日水曜日

(8136)サンリオの限界、鳩山体制の終わり

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決算説明会の翌日にあたる5月22日(木)、下落基調だったサンリオの株価がさらに暴落しました。終値は前日比16%安の2,598円にとどまりましたが、一時はストップ安2,410円をつけました(Yahoo!株価情報)。当社IRはその状況に対して「アナリストが発表した内容が混乱を招くもととなっている」との見解を示し、誤解を解くように要請しました(当社発表[PDF])。アナリストの発信では「ビジネスモデルの方針転換が利益率の低下につながる可能性がある」とあったそうですが、あえて婉曲な表現にとどめたように感じられます。本心では、「経営の質が低下するリスクがある」と書きたかったのではないでしょうか。

来期予想も増収増益を掲げている当社の「経営の質が低下する」とはどういうことなのか。今回は、ここ数年間のサンリオの動きを踏まえた上で個人的な見解を記述します。

1. 株価の動向と市場の不安
投資家の視点でみたときの当社は、20年来「悩ましい企業」でありつづけました。余剰資金の運用失敗、そしてテーマパーク事業の不振が企業価値を損ねてきたからです。当社の株価に新しい春がやってきたのは2010年でした。当時700円ほどだった株価は成長期待によって4年近く上昇し続け、昨年9月のピーク時には6,000円をつけました。しかし現在は高値の半分を割り込み、2,800円前後まで下落しています。

[サンリオ株価の動向; Google 10年超のチャート]

2. 業績の推移
近年の業績は2008年度を底にして2009年度以降回復し、再成長の軌道に乗りました。利益成長に大きく貢献しているのは海外事業(ほとんどがライセンス供与)です。一方の国内事業(物販、ライセンス、テーマパーク)は当時からほとんど横ばいがつづいています。

[営業利益の推移; 当社説明会資料より。誤差あり]

3. 業績反転の主導者
業績回復のきっかけとなったのは、当社の辻邦彦副社長(故人。後述)が社外から人材を招へいしたことでした。その人物とは、現常務取締役の鳩山玲人(れひと)氏です。高名な一族の一員で1974年生まれの鳩山氏は大学卒業後に三菱商事に入社し、当社にかかわる業務等に携わった後、ハーバードのビジネススクールに進学してMBAを取得しています。また辻邦彦副社長に声をかけられたことで2008年5月に当社に入社し、経営に参画することとなりました。

[鳩山玲人氏; 早稲田大学サイト記事より借用]

現社長の息子である辻邦彦副社長は当社でずっと仕事をしてきました。父親の辻信太郎社長は現在80歳代半ばと高齢であり、副社長が経営管理の実質的な責任者を務めていたものと想像されます。また先日行われた決算説明会(後述)で辻信太郎社長が発言していたように、この6月には辻邦彦副社長の昇進が内々定していました。副社長は父親社長が築いてきた当社の長短両面をよく理解していたはずです。その想いの一部は数年前の有価証券報告書に課題として端的に表現されています。

[2005年度有価証券報告書]
当社グループは、Project2006により売上高指向から利益指向へシフトし、国内外において物販ビジネスの拡大とともにライセンスビジネスに注力し、特に、厳しい現状を踏まえての国内における販売力強化が当面の課題と認識しております。(PDF14ページ目)

辻邦彦副社長が鳩山氏を迎え入れた2008年度を底にして業績が改善しはじめました。海外ライセンス展開が伸長したことが大きく、鳩山氏が少なからず貢献していることがうかがわれます。短中期で成果のあがる戦略を見定めるとともに、欧米の現地法人を指揮し、顧客との直接交渉にも参加してきたようです。自身や鳩山家の人脈も役立ったかもしれません。中期計画(Project2015)は円安の好条件も重なったおかげで、1年前倒しの2013年度に営業利益目標を達成しています。

業績の数字以外にも鳩山氏の貢献度はうかがえます。過去の決算説明会の映像をみると、アナリストからの質問に応じている主役は彼でした。登場する話題は経営全般にわたっており、たとえばM&Aや配当性向といった資本配分、定量的なパフォーマンス管理に基づいた業務の評価・改善、業界でのポジションを意識した上での長期的なビジョン策定の必要性などにも触れていました。このことは、彼が最上層の経営に深くかかわっていたことを裏付けています。

鳩山氏の示す経営管理の方針や戦略実行のやりかたは基本から逸れておらず、聞いていて違和感を感じさせません。アメリカなどの優良企業の経営者と似た雰囲気です。説明内容は具体的で的を外すことが少なく、聞き手に安心感を与えるもので、アナリストからも評価されていたと思います。ただしそのようなやり方はスマートにみえるため、「若造の経営ごっこ」と受けとめられる危うさも負っていたかもしれません。

4. 辻邦彦副社長の死去(2013年11月)
2013年11月20日に辻邦彦副社長が急死しました。以下の報道記事によれば、出張先のロサンゼルスで客死されたとのことです。株価は2013年9月にピークをつけており、副社長が死去された後もひきつづき下落が続き、今日に至っています。

「ハローキティ」サンリオ株急落の陰で御曹司急死 [副社長の写真あり] (週刊文春WEB)

5. 「鳩山ショック」(2014年5月22日)
先週の5月21日に、当社の前期決算発表会が行われました。「この頃思うこと」と題した恒例の説話の中で、辻信太郎社長が当面の経営体制を発表しました。社長自身は留任のままで、辻邦彦副社長の抜けた穴を埋めるために各事業・現地法人の責任者をより前面に立たせ、全体を統括指揮する人物としては江森常務を指名しました。経営企画室長である彼は三菱銀行の出身であり、借入先銀行からの連絡役・お目付け役だと想像します。現在の当社は業績低迷から抜け出して好調な時期に入っています。そのような時期にとられた新体制に対して、説明会に参加していたアナリストからは疑念が度々投げかけられていました。

半年前まで経営改革のリーダーであった鳩山常務はどうやらその責務を解かれたようで、この2年間業績が低迷している欧州担当となりました。欧州は海外事業の中でもっとも利益貢献の大きかった地域でしたが、現在は米州(おもにアメリカ)に逆転されています。市場規模が大きいためにうまくテコ入れできれば大きな利益回復が期待できます。その意味で、鳩山常務を専任として問題対応にあてるのは理に適った判断だと思います。しかし当社の船頭から鳩山常務を外したことは大きな方針転換だと、少なくとも証券業界は受けとめたように感じました。

決算発表会における鳩山常務の様子には興味ぶかい点がありました。ここで比較したいのは、昨年11月6日に開催された第2四半期決算会での振舞いです。アナリストに対する応答は彼が中心になってこなしており、態度や回答内容からは自信がうかがえます。以下の両リンク先に映像があります。

[サンリオ2013年度第2四半期決算説明会; 鳩山常務(左)、江森常務(右)]

そして先日の5月21日に開催された決算説明会での様子です。前回までと大きく違った点を以下に列挙します。

[サンリオ2013年度決算説明会; 鳩山常務(前列左端)、辻社長(同右端)]

(1) 席次がひとつ後退していること(たとえば1:29:20-)
前回までは社長からかぞえて3番目でしたが、今回は4番目になっています(女性秘書を除く)。物理的にも社長から遠い座席に座っています。

(2) アナリストが質問する内容のメモをとらないこと(たとえば1:34:15-1:35:09)
質問に対しては基本的には社長や江森常務が回答し、固有の質問だけ鳩山常務が答えること、と事前に段取りされていたと思われます。しかし、自分が答える必要のない質問でもメモをとって備えておくのは大人が一般的にやることです。この席での鳩山氏はペンをとっておらず、自分には様々な権限がなくなったことを態度で示しています。(第2四半期決算映像では、たとえば54:15-での映像でメモをとっている)

(3) 質疑応答の際の視線の動き(1:31:20-1:33:25)
過去の映像では、鳩山常務はアナリストへ話をする際には視線を頻繁に移動させる傾向がみられます。しかし前回までと今回では、その動き方が大きく異なっています。前回まではメモの内容と質問者の双方に対して交互に視線を向けていました(2013月11月開催の第2四半期決算では、たとえば映像の55:20-)。今回は視線が左右へ泳いでおり、しかも質問者に対して力強くありません。これは潜在意識にある不安が表出したものと個人的には捉えました。この場合、権限や立場が大きく縮小されたことを示すと受けとめることができます。「欧州の立て直しを一時的に命じられたものの、仕事にけりがつけばかつての仕事に戻れる」、彼がそのような約束に基づいていたとすれば、ここで指摘した不安げな様子はみせなかったと思います。

6. 今後のサンリオと鳩山常務
鳩山常務が当社において自分の望む仕事を遂行できる可能性は大きく低下したと想像します。いい話があれば他社へ移る可能性は極めて高いと思われます。一方の辻信太郎社長にとっては、鳩山常務がやめることに異論はないようにみえます。ただし欧州立て直しの観点では鳩山常務の利用価値は大きく、たとえば今後1,2年間は結果が出ることと両建てで待つ手も考えられます。

鳩山常務はコミットメントを旨としており、欧州立て直しはきちんと取り組むと思われます。その仕事に区切りがつく1年後あるいは2年後に向けて、次の活躍の場を探しながら過ごす日々になるものと想像します。あくまでも個人的な見解ですが、鳩山氏にふさわしいのは自分を必要と考えてくれて大きな仕事を任せてくれる環境だと思います。ただし次の職場では、「偉大なるネコちゃん」の力を頼ることはできませんが。

7. 当社の企業価値
当社の営む事業の質は極めて高いために、経営者が大きなミスをするぐらいではなかなか揺らぎません。当社にとってこのことは幸福でもあり不幸でもあります。そして辻邦彦副社長と鳩山氏のコンビが海外ライセンス事業を大幅に強化したことで、この数年間で基礎体力が向上しています。このことは、鳩山常務がいなくても当社がひきつづき成長できる可能性が高いことを意味します。

鳩山常務が欠けることで本当に問題なのは、「当社が大化けする機会が遠ざかり、あるいは喪われる」可能性が高まることです。辻邦彦副社長と鳩山氏の間では、大きな夢を共有していたように思えてなりません。株式市場もそれを期待して評価を高めてきたことでしょう。しかし副社長が亡くなり、そして鳩山常務が外された現在では、当社に対する評価が低下して当然だと思います。しかしそうであっても当社の実力は地に落ちることはなく、「少なくともしばらくは堅実な成長が期待できる質の高い事業」と評価できると考えます。

株価に対する個人的な見解としては、5月22日に暴落した終値2,600円前後は「わずかに割安」な領域に突入したとみています。実際にわたしも22日と23日にわたって当社の株をはじめて購入しました(平均購入単価2,600円強)。株価は現在反転して上昇中ですが、まだ大幅な割安とは言えず、2,600円あるいは先日のストップ安2,410円を割り込んでくる可能性は十分に考えられます。配当利回りを考慮すると下落率は小さくとどまると思いますが、もし厳しく下落すれば買い増しするつもりです。

以下の表は、鳩山常務の去就の観点から決定木を書いて企業価値を算出したものです。意思決定上で重要な要素はほかにもあるはずですが、現在の当社の状況で重要なのは経営の手綱さばきにあると簡略化できれば、このような粗い評価でも何らかの意味はあるだろうと考えています。ただし数字をみれば明らかなように、予定調和的なバイアスがかかっている可能性は承知しているつもりです。

[サンリオ企業価値の評価]

2014年2月16日日曜日

バークシャー・ハサウェイの現金比率

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前々回の投稿ではスティーブン・ローミックが率いるファンドの現金比率を取り上げました。今回はウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイについて過去10年間ほどの推移をみてみます。原資料は同社の10-K及び10-Qです。

<金融資産における現金比率>
はじめの図はおもな金融資産(現預金、債券、株式)の構成比を示したものです。ここで「その他の投資」という項目も登場していますが、2008年以降に大きく発生しています。これはゴールドマン・サックスやGE社などへの優先株投資の割合が大きいため、債券に近いものとみなしました。


この図からは次のようなことがみてとれます。

1. 現預金の比率は低下傾向
しかし、金融危機以降は横ばいがつづいています。

2. 2013年9月末時点で、現預金や債券の割合は全体の4割程度
債券投資のうちの1/3は外国政府債で、もう1/3は一般企業の債券です。米国財務省証券や地方政府債の比率は大きくありません。その意味で、完全に流動的であるとは言いきれない保有構成です。

3. 現預金や債券比率が相対的に高水準だったのは2004-2006年
当時は純利益も横ばい基調であり、そのせいか株価も停滞していました。

この図をもとにすれば、バークシャーにおける現金+債券の比率は4割程度に達していると判断できます。

<総資産における現金比率>
しかしバークシャーにはもうひとつ重要な側面が残っています。買収した事業会社に関する資産です。それら子会社の資産を含めた上でバークシャーの資本配分の推移を示したものが、次の図です。


さきほどの観察と大きく変わるのが次の2点です。

1. 事業会社の割合が増加
現預金等の比率が低下すると共に、特に2006年から事業会社の比率が増加しつづけています。これはおもにエネルギー会社で株式転換したり鉄道会社を買収し、さらに資本を継続投下したためです。ここで留意したいのは、それら企業自身も借入れを行っていることです。そのため、グロスの資産という観点ではレバレッジがかかっています。

2. 現預金や債券等の割合は10%強まで低下

このことから、バークシャーの資本政策からは次のようなねらいがうかがえます。

1. 相対取引でビジネスを買うことに活路を見いだすこと
現在のバークシャーの資本規模では、それを有効に生かせる機会が株式市場ではなかなかみつからない、と解釈できます。2008年の金融危機のときには投資する機会があったと思われますが、多くはゴールドマンやGEといった企業へ優先株の形で投資されました。これには、金融危機を側面から救済する目的があったのかもしれません。それでもさらなる下落に備えて余剰現金を残す必要があり、結局は1987年のコカ・コーラ的な買いには到らなかったのかと想像します。

2. 償却期間の長い投資を早い段階で実行すること
よく言われるように、今後予想されるインフレに備えて先払いしたほうが有利な投資にバークシャーは注目しているようにみえます(鉄道やエネルギー会社)。そのためには、安くはない値段であっても、相対取引によって早めに機会を手にしておいたほうがよいと判断しているように思えます。

個人的には、このアイデアは参考にしていきたいと感じています。「ゴールドに投資するよりもビジネスに投資したほうがよい」と発言した真意が感じられるやりかただとも思います(過去記事)。

<総資産の構成(金額ベース)>
最後の図です。上の図は資産を比率ベースで示していますが、絶対額ベースにすると以下の図になります。


この図をみると、現預金+債券の絶対額は微増しています。増加した余剰資金を消化するのが精一杯のようにもみえます。

<おわりに>
バークシャーのことを「ウォーレン・バフェットの投資会社」と表現されることがあります。その表現が当たっているのもたしかですが、もうひとつの側面を見落とさないようにしたいと感じています。それはバークシャーが時と共に変容し、今では「ユニークな性質をもった、そこそこ普通の持ち株会社」になったことです。自分自身の資産管理の観点では、先に取り上げたスティーブン・ローミック的なやりかたはわかりやすく、親しみを感じます。しかし資本配分の究極である当社の姿にも、全部まるごとではないにせよ、学べる点は十分に残されていると思います。

2014年2月6日木曜日

2013年の投資をふりかえって(9)新規投資銘柄:インテル

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インテル (INTC)

<投資に至った背景>
2011-2012年にマイクロソフトに投資しはじめたころ、当社の株価も同じように低迷していました。しかしマイクロソフトとくらべると当社は設備投資額が大きく、資本効率が良くないことから、はじめは投資対象とみていませんでした。しかしマイクロソフトに投資するリスクのひとつとして消費者向け部門が低迷する可能性を考慮するうちに、当社のことを考えるようになりました。マイクロソフトの業績とは連動せずに、当社独自に成長する機会があるのではないかと。このように、マイクロソフトへの投資を部分的にヘッジできないか考えたのが当社に興味を持ちはじめたきっかけでした。

<事業の状況>
当社の主力製品はよく知られているようにコンピューターの中心部であるCPU(=プロセッサー)です。当社は経営管理上、プロセッサー事業を3つのグループに分けています。

・PCクライアントグループ: デスクトップPCやノートPCのプロセッサー等
・データセンターグループ: サーバー用プロセッサーやストレージ(データ記憶装置)等
・その他のIAグループ: 組込み用や通信用プロセッサー、タブレットやスマートフォン用プロセッサー等

またプロセッサー以外の主要な事業としては、次の2つがあります。

・ソフトウェア及びサービス事業: セキュリティーソフト(旧マカフィー)や組込み用OS等
・フラッシュメモリー事業

FY2013の業績(単位:百万$)は売上高が52,708、粗利益が31,521、営業利益が12,291、純利益が9,620でした。EPSは1.89$です。また以下の図は事業別の業績です。前年とくらべて増益だったのがデータセンターとソフトウェア及びサービスで、減益だったのがPCクライアント、その他のIAグループ(スマートフォンやタブレット含む)、それ以外でした。


<株価の状況>
年初は20.62$で年末は25.96$でした。上昇率は25.9%で、インデックスとくらべると低迷しました。


参考までに、以下の株価チャートは1997年以来のものです。配当は別として、見事な横線です。


<投資方針>
2013年の3月と4月に何度かに分けて購入しました(上図の赤矢印)。平均購入単価は21$強でした。ポートフォリオに影響を与えられる規模までは買いたいと考えています。現在の株価23.5$(実績PERで12.5倍前後)は買い増ししても不都合はないのですが、下落するのを待っています。なお配当利回りは3%台後半です。

投資するにあたって当社を評価している点は、主に2つです。前者は以前から考えていましたが、後者は最近になって加わったものです。

1. 他社に先行して微細化の進んだ製品を研究・開発し、製造できる技術力
コンピューターを代表とする電子製品は年々性能が向上する傾向がありますが、それというのも当社を含む電子機器業界に携わるみなさんが営々と技術革新を進めることで実現されています。そのような潮流の中で当社は技術的な優位性が大きく、それゆえに行使できる影響力も相まって、大きな経済的な見返りを受けてきたと捉えています。

CPUなどのプロセッサーを製造する半導体企業は、「小さなものを作る」すなわち微細化技術を推し進めることで、以下のような利益を享受してきました。

・高付加価値化
以前の製品に匹敵する性能をより小さな面積で実現できるようになるため、余剰な領域が生じます。小型化した形で製品化してもよいですし、余剰領域を使ってさらに高集積化して性能を向上させたり、別の周辺回路を取り込んで多機能化することができます。いずれにしても付加価値を高めることになり、売上増ひいては利益増につながります。

・コスト面の優位
製品の主な原材料であるシリコンウエハーの所要面積が小さくなるとともに、無駄になる領域の割合が減少するため、製品1つあたりの材料費が削減できます。また生産能力が実質的に増加するため、増産することができれば固定費の割合を下げることにつながり、さらなる原価低減を実現できます。

・Moat(経済的な堀)の強化
製品の微細化を進めるには、半導体製造装置においてもいっそう高度な性能が要求されます。ますますむずかしい技術的要求に対応するには、製造装置を製作する費用も高額になります。このことは、相対的に経営基盤の弱い当社の競合企業にとっては余力がなくて設備投資できなかったり、経営上の大きなリスクとなります。賭け金が大きくなると、勝負から降りる人が多くなるのと同じ原理です。そのため自社製造から撤退する企業が増え、現時点での有力企業は3社となりました。メモリー生産に強いサムスン電子、受託生産(ファウンドリー)の台湾TSMC、そしてプロセッサーやフラッシュメモリーを開発生産する当社です。

サムスンは総合力で圧倒的な存在です。TSMCはアップルから受注するなど、受託生産の駆け込み寺となっています。法人税が低いのも強力な追い風です。そして当社は最先端の技術力を有しています。興味深いのは、それぞれ独自のMoatを築いている点です。当社への投資を考え直すとすれば、これらの特徴がもたらす影響を考え直すことにあるかもしれません。

2. プロセッサー分野における全方位戦略
昨年春に当社のCEOが交代しました。先代のポール・オッテリーニが辞任したのは業績停滞がつづき、現在の状況を打開するには不適当と指摘されたからではないでしょうか。新CEOのブライアン・クルザニッチは先代とは違って理科系の教育を受けて技術畑を歩んできました。そのため、当社のコア・コンピタンスをよく理解しているはずです。その彼が最近になって明確な戦略を打ち出しました。「計算するなら何であろうと、インテル製品が一番だ」(If it Computes, it does it BEST with Intel)。これはあらゆるプロセッサー市場で勝ちにいくことを宣言しています。PCやサーバーだけでなく、タブレットやスマートフォン、ウェアラブル端末、車載などの組込み用、そして他社製品の受託生産と、プロセッサーできちんと儲けがでるならそれこそインテルの仕事だと謳っているように聞こえます。個人的にはこの戦略を評価しています。どこにも隙を残さないという姿勢を明らかにし、そして実際に行動することは、他社からは脅威として映ります。戦線が拡大して中途半端になるリスクは大きいですが、経営資源の配分の強弱は走りながら変化するでしょうから、結局は現実的に対応するだろうと想像します。先日クルザニッチは準備中だったインターネットTV事業を売却しました。そのような多角化を進めるよりも、プロセッサーに専念するほうがずっと理にかなった選択だと思います。

<リスク>
ここ数年間の業績は横ばいになり、大きな成長が見込めないことが、当社の株価低迷につながっているように見受けられます。市場が次のような不安をいただいていると考えます。

1. クライアントPC市場における売上のさらなる減少
広く報道されているように、消費者向けPCの市場が縮小しています。最近のスマートフォンやタブレット端末に満足している消費者は、古くなったパソコンを買い替える必要がないのでしょう。企業向けのPC需要はそれほど落ち込まないでしょうが、消費者向け市場ではある水準まで市場が縮小すると予想します。市場がこのリスクを警戒するのは妥当な見方だと思います。

クライアントPC市場の縮小は落ち着きをみせつつありますが、完全に底を打ったのかどうかはまだわかりません。仮にこの市場での売上がさらに2割減少した場合、EPSが現在の1.89$からたとえば1.2$に減少します。それを現在の株価水準24$とくらべると、割高ではあるものの高すぎるほどでもありません。成長しているデータセンターグループの利益増を考慮すれば、もう少し妥当なPER水準に落ち着きます。市場はこのような見通しにもとづいて当社の企業価値を算出しているのかもしれません。

2. スマートフォン及びタブレット市場における市場シェア低迷
スマートフォンやタブレット市場は、ここ数年間で大きく成長しています。代表的な製品にはスマートフォン(iPhoneやGalaxyなど)やタブレット(iPadやGalaxy、kindle fire、Nexusなど)がありますが、それらの端末では当社のプロセッサーは事実上使われておらず、シェアもほとんどゼロです。上述したクライアントPCの売上減少をこの市場で補うことが期待されていますが、現在の当社はそれを実現できていません。

スマートフォンとタブレット市場は個別に分けてながめると、少し違う様相がみえてきます。どちらの市場においても従来(昨年中盤まで)の当社製品は技術的にもうひとつで、端末メーカーに受け入れられていませんでした。しかしタブレット市場向けの製品は当社にとっては技術的なハードルが低く、現段階では競合製品と比肩あるいは上回る製品を出荷しています(Bay Trail)。昨年末から当社製プロセッサーを搭載したタブレット端末が実際に販売されるようになり、ユーザーからも少しずつ評価を得ています。タブレット向け製品は、当社製品の中で今年もっとも成長するものと予想します。

一方のスマートフォン向け製品では、まだ他社製品のほうが技術的に優位です。当社製品は特にLTE等の通信モジュールとの統合や、グラフィックス性能の面で遅れています。スマートフォン向けの製品開発を本格的に始めたのが遅かったため、追いつくまでまだ距離があります。当社のシェアは現時点でゼロに近く、端末メーカーから技術的に評価されない点が残されている以上、横綱を土俵に送ることができるのはもう少し先になります。そのような状況なので株式市場は全般として、当社がスマートフォン市場で一定のシェア(たとえば30%)を確保するのはむずかしいだろう、とみているのかもしれません。

この件は個人的には(控えめながらも)楽観的にみています。技術的な課題は解決され、当社がやがて優位に立つと予想するからです。他社にできたものは当社にもできる、というのが個人的な見立てです。一方で、2強メーカーであるアップルとサムスンがどうなるかは非常に大きな課題です。またプロセッサー・メーカーの強敵クアルコムは無線通信の分野ですばらしい位置を占めています。この領域で当社が勢力を伸ばすには少なくとも3年以上はかかるでしょうし、5年や10年かかるかもしれません。しかしクルザニッチも定年までは10年以上残されています。

なお当社はスマートフォン全盛の船に乗り遅れた印象がありますが、一概にそうとは言えません。当社はデータセンター市場におけるAMD等との争いを優先させ、スマートフォンで採用される省電力型のプロセッサーには注力していませんでした。しかしスマートフォン市場の成長がもたらす果実をデータセンター市場で得る、とする考えは容易に思いつきます。スマートフォンやタブレットのような軽量端末文化を支えるには、「クラウド」という名のサーバー機器が不可欠だからです。ユーザー各人が有する端末台数には限りがありますが、クラウドサービスは有用なものであればいくらあっても困りません。実体が見えないものに対しては、際限なく拡大していくのが人間の欲望です。インターネットの利用がますます進む世界において、成長期待の大きいサーバー事業を先に攻略するとした戦略はまちがいではなかったと思います。

3. サーバー市場における市場シェア低下
スマートフォンで採用されているプロセッサーのほとんどは、当社のライバルメーカーARMのライセンスを受けて設計されたものです。このARMベースのプロセッサーが、今度はサーバー市場に進出する話題がよく登場します。また当社の得意先であるグーグル社がARMベースのプロセッサーを設計し、自社用サーバーに採用する動きをみせているとも伝えられています。このような動きが実現すれば、当社が高い粗利益をあげているサーバー用プロセッサーが価格競争にさらされるとする見方があります。しかしこれは限定的と考えます。第一に、顧客やパートナーがサーバー上で展開しているコンピューター資産はマイクロソフトや当社製品に依存する部分もあり、当社に対して正面から対抗するのはスイッチングコストの観点からむずかしいと思われるからです。さらにこの市場では当社もすばやく低電力消費型の製品開発に着手し、すでに第一弾を出荷しています(Avoton)。この製品は高度な機能や性能が要求されないシステムを稼働させる際に適したものです。

ただし、グーグルが自社内で独自に開発するような動きは実現するかもしれません。損得抜きで選ぶのであれば仕方のないことです。しかし経済的な合理性を考えると、本格的な採用規模には達しないだろうと予想します。自社の要求事項をプロトタイプ検証する程度の規模なのかもしれません。

4. 技術革新の限界
半導体の進歩の歴史を振り返ると、物理的な限界について度々指摘されてきました。しかし当社にはそれらを乗り越えてきた実績があります。むずかしさが増しているのは事実で、次も同じようにうまくいく保証はありません。しかし、業界をリードする技術革新をつづけていくことはほぼ確かだと思います。

2014年2月2日日曜日

2013年の投資をふりかえって(8)新規投資銘柄:モザイク

3 件のコメント:
昨年の新規投資先は3社で、いずれも海外の企業でした。そのうち2社は肥料系の資源会社で、もう1社がCPUメーカーのインテルです。ポートフォリオ中の評価金額が大きい順ということで、今回は肥料会社のひとつモザイク社(The Mosaic Company)を取り上げます。

■モザイク(MOS; The Mosaic Company)

当社はアメリカの肥料会社で、主にカリウム及びリン酸を採鉱・加工・販売しています。この2つの元素はどちらも穀物などの植物を育成するのに不可欠で、窒素と合わせて「肥料の3要素」と呼ばれています。長期的な世界情勢や業界の特性、当社の財務状況や株価の水準を考慮し、当社に投資しはじめました。

<投資に至った背景>
モザイク社固有の話題に入る前に、肥料業界全般それもカリウム肥料についてふれておきます。なお、カリウム関連の話題は過去の投稿でも取り上げています。

POTについて(コメント欄でブロンコさんが解説されています)

1. カリウムとは何か
快適な生活を支えているものは数多くありますが、カリウムなどの肥料もそのひとつです。窒素、リン酸、カリウムは、人間や家畜の食物となる穀物や野菜、果実が生育するのに欠かせない元素です。20世紀からの世界的な人口増加は「緑の革命」があったからこそ達成できたと言われています。化学肥料の大規模な利用もその要因に含まれます。

土壌に施す際のカリウム肥料は化合物(主に塩化カリウムKCl; 食塩にも含まれている)の形態ですが、植物に取り込まれる際には水に溶けたイオン(K+)になります。植物内でカリウムイオンは根の発育を助けて干ばつに強くしたり、光合成を助けることで果実や種子の成長を促したり収率を高めます。反対に、カリウムイオンが不足すると発育不良の原因となります。


[カリウム肥料; モザイク社資料より]







2. カリウムの産出地域
カリウムはイオン化傾向の高い元素で、水によく溶けます。海水中にも含まれていますが、普通の海水からカリウムを取り出すには濃度が低く非効率です。しかし地形的な要因で海水の出入りが止まって水分の蒸発が進むと、塩分が濃集して固形物として堆積します。この中にカリウム化合物も含まれています。そのような条件がそろった場所では、カリウムを経済的に採掘することができます。すぐに思いあたるのがイスラエルの死海やアメリカのグレート・ソルト湖でしょう。しかし地中にあるカリウム鉱床にはもっと大規模なものがあります。ただし先に記したようにカリウムが堆積するには古地形的な条件がそろう必要があり、どこでもできるわけではありません。現在確認されている埋蔵量の90%をカナダ・ロシア・ベラルーシ・ブラジルの4か国が占めています。特にカナダとロシアの埋蔵量が圧倒的です。

[地中にあるカリウム鉱床の断面図;
肌色Potashの箇所が鉱床を示す]

3. 業界における主要企業について
産出地域が偏っていることから、カリウムの生産者も限定的です。主要企業は10社ほどありますが、以下にあげる4社合計で全世界の生産量の約60%を占めています。

a) ウラルカリ(Uralkali; ロシア)
b) ベラルーシカリ(Belaruskali; ベラルーシの国営会社)
c) ポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン(PotashCorp; カナダ)
d) モザイク(Mosaic; アメリカ)


この4社は地理的に見て2つのグループに分けられます。上位2社が旧ソ連で、残りの2社はカナダです。この区分けはビジネスの現場でそのまま使われており、それぞれが共同販売会社を設立してマーケティングを行っています。

旧ソ連に位置するウラルカリ社とベラルーシカリ社はBPC(Belarusian Potash Company)として協調し、ポタッシュ社とモザイク社(と他1社)はカンポテックス(Canpotex)として海外向けに共同販売しています。この2つの共販会社は合法的なカルテルとして働くだけでなく、2つのカルテル同士も歩調を合わせてきたようで、強い価格決定力を維持していました。

4. ウラルカリ社の営業戦略転換と現在の状況
しかし2013年7月に、ロシアのウラルカリ社がベラルーシカリ社側の動向を不満とし、共販会社BPCから離脱することを表明しました。ベラルーシ政府が自国のベラルーシカリ社に対してBPCの許可なしに輸出割り当てを付与していると非難したのです。そしてウラルカリ社はそれまでの価格維持政策を翻し、マーケットシェアを重視する政策へ方向転換しました。業界の先行きを不安視した株式市場はすみやかに下落しました。ポタッシュ社の株価は7月29日の37.9ドルから翌々日には29ドルへ(23%下落)、モザイク社は53.21ドルから41.09ドルに下落しました(22%下落)。

物流体制が整備されていなかったベラルーシカリ社に対して、ウラルカリ社は値下げ攻勢をかけ、インドや中国を中心にシェアを拡大した模様です。

ベラルーシ政府にとってカリウムの輸出は外貨を獲得できる重要な手段です。それを封じ込められるのは死活問題と、ベラルーシ政府自身が行動に移りました。昨年末までの半年間はベラルーシ政府だけでなく、ロシア政府もまきこんだ生ぐさい局面がつづきました。その詳細はここではふれません。カリウムのスポット価格も漸減し、300$前後の水準まで下落しました。しかし局面を変える打開策がとられ、最新の報道では両社の抗争は落ち着きをみせており、よりを戻すという観測もでています。

このように昨年2013年は後半からカリウム業界の見通しが悪化し、各社の業績は低迷しました。その状況からどこまで回復できるのか、今年も目が離せない状況がつづきます。

5. カリウム事業の魅力
上記では供給側企業の現状をあげましたが、ここからは主に需要側の観点をとりあげます。カリウム肥料の需要拡大要因として次のようなものがあげられます。

a) 人口増大
国連の推計では世界人口は現在の70億人から2050年には90億人超へ増加すると見込まれています。年平均換算で約0.9%の増加です。穀物に対する需要もこれに伴って継続的に増加する可能性が非常に高いと思われます。

b) 肉食型食生活への変化
生活水準が向上すると、穀物主体の食生活をおくっていた人が肉食の割合を高める傾向は一般的にみられます。穀物消費の観点からみると、人間が穀物を直接摂取するよりも家畜を育てて肉として摂取するほうがより多くの穀物を費やします。上の項目と同様に、穀物需要の増加は肥料需要の増加につながります。

c) 耕作可能地の減少
人口増加やその他の要因によって1人当たりの耕作地面積は減少傾向にあり、残された耕作地において単位面積当たり収穫量を向上させることが要求されます。特に中国やインドでは相対的に窒素が過剰に施肥されており、単収改善が真剣な課題になってくれば、肥料の質という意味でもカリウムの利用が伸びると予想されています。

d) 気象等による災害
干ばつ、低温、日照不足、水害、台風、降灰などの災害は、収穫を一時的に減少させうる要因です。これらは穀物価格や在庫水準に影響し、間接的に肥料の需要を高めます。

e) バイオ由来燃料の利用促進
穀物生産の盛んなアメリカやブラジルを中心に、今後もバイオ・エタノールの利用が見込まれています。

f) 新規参入が限定的であること
「想定されるリスク」の項目でも取りあげますが、新規参入する競合は皆無ではないにしても、限定的だと思われます。一からの鉱山開発には投下資本が莫大にかかるだけでなく(たとえば2Mtあたり5000億円)、生産開始までの期間も長期にわたるため(たとえば7年間)、資本力と安定した経営基盤が求められるからです。

上にあげた要因は一般に知られているもので、特に新しい指摘ではありません。ここで個人的に重要と考える点は、これらの要因は独立して働くものでなく、協調して同じ方向へと向かう可能性があることです。人間社会において科学技術が継続的に発展してきた結果、生産性が上昇して生活水準が向上したり人口増加をうながすと共に、自然環境に影響を及ぼしてきました。この潮流がつづけば、チャーリー・マンガーの言う「とびっきりな効果」が生まれる可能性が高まると予想します。あるいは、すでに起こっているのかもしれません。これらの傾向は長期的なもので、仮に頂点に達するとしても時間がかかると思われます。カリウムの商売に投資するというのは、そのような長期的な波に乗って進むことと捉えています。

<当社の説明>
当社は2つの会社が合併して2004年に設立されました。合併元企業は、食品コングロマリットのカーギルから分離した肥料部門と、肥料会社IMCグローバルでした。現在、主力の事業は2つあります。売上げ規模が小さいほうがカリウムで、大きいほうがリン酸肥料です。ただし利益率はカリウムのほうが高水準です。


カリウム生産の主力拠点はカナダのサスカチュワン州で、リン酸はアメリカのフロリダ州です。中国やインドにも輸出していますが、現時点の当社の主要な市場は北米及び南米です。特に成長著しいのはブラジルで、同国における物流体制を強化している最中です。

<株価の動向>
年初段階で55.21$、年末には47.27$と、14.4%の下落でした。1月31日(金)現在の株価は44.66$です。


<当社に対する投資方針>
7月末に株価が暴落してから情報を収集・検討したので、購入しはじめたのは2013年の秋になってからです(上図の赤矢印)。ポートフォリオに占める現時点の投資規模は、準主力級です。平均購入単価は46$前後で、現在は含み損です。現在の株価水準であれば、もう少し買い増したいと考えています。

カリウム鉱山会社への投資を考える際には、まずポタッシュ社(POT)が思いつくかと思います。低コスト操業でいて、かつ同業他社にも資本参加しており、利益の絶対額と利益率のどちらも高水準です。また余剰の生産能力が大きく、急激な増産局面があれば利益を享受できる会社です。さらには配当利回りも4%台半ばと魅力的です。一方の当社は相対的に利益水準の低いリン酸が売上高ベースで最大の事業であり、投資対象としてポタッシュ社より見劣りがします。しかし、以下の理由をふまえて当社を選びました。

1. カリウム業界における余剰生産能力
数年前にカリウム・ブームが起こったこともあり、各社は余剰の生産能力を有しています。増産投資もつづいています。そのため、たとえば10年先の需給予測をみても現在と同じ比率で生産能力に余剰があることが予測されています。さらには新規に参入してくる業者として、BHPビリトン(英豪)及びユーロケム(ロシア)が見込まれています。このような状況で、能力拡大に向けた再投資はしにくいものです。そのため、ポタッシュ社のとる余剰利益分の資本政策としては再投資ではなく、配当か自社株買いか借入金返済に使われる可能性が高いと予想します(窒素事業やリン事業に再投資する可能性もあります)。一方で当社の最大規模の事業はリン酸ですが、カリウム業界ほど集約されていないため、事業拡大の余地が相対的に残されています。つまりカリウムで稼いだ資金をリン酸に回す、という資本配分が期待できます。他業界とくらべてみれば、リン酸事業自体の利益率はひどいというほどではないため(直近3年間の営業利益率の平均は15%)、規模を拡大して利益の質と量を追求する価値はあると思います。

2. ブランドの構築
当社はコモディティー事業に甘んじることなく、高付加価値化をはかって製品ブランドを構築しています。現在はリン酸肥料について主に北米市場で展開し、成功をおさめています。カリウムについても今年度から取り組む予定で、事業展開の方向性として評価できます。

3. 原価低減の見通し
当社のカリウム事業における利益率が他社とくらべて相対的に低いのは、坑内における塩水(かん水)対策費用がかかっているためです。この問題を抜本的に解決するために主力鉱区で新規の縦坑(K3)を開発中です。稼働開始は2017年を予定しています。塩水対策を要する設備を停止してK3で生産を代替させることになれば、現状のカリウム事業の粗利益率が10%程度改善される模様です。

4. 余剰資金の使途
ポタッシュ社とくらべて当社が優位な点は財務です。これはカーギル一族等が保有する株式を買い取るために留保しておいたもので、余剰資金が約2000億円あります。また今後も一族の持ち分買戻しが残されています。そのため資本の有効活用という観点では、当社は「買戻しがつづく数年間は、株価が低迷するほど既存投資家に有利」な状況です。

<想定されるリスク>

1. 他社との競争の激化
ウラルカリ社のシェア重視政策がひきつづき継続され、利益を削る消耗戦に引きずりこまれる恐れがあります。しかしウラルカリ社は借入金の比率が高く、今回の騒動が始まる前の2013年度上半期時点でインタレスト・カバレッジ・レシオが3倍未満でした。新興資本家が大株主のためか配当金支払いも欠かせなく、利益のあがらない値下げはいつまでもつづかないとみています。

一方、数年後にはBHPビリトン社やユーロケム社の新規参入が予想されています。また中国系の企業も生産量を増やしています。市場価格が一定以上であれば(たとえば平均400$/t)、それら企業の参入や能力増強は不可避とみます。そのため長期的にみても供給がひっ迫する可能性は小さく、カリウムの市場価格が高騰する場面があったとしても、その価格幅は以前よりも小さくなると予想します。カリウムの市場価格高騰が長くつづき、それに伴って当社の株価も上昇しつづける可能性は、個人的にはほとんど想定していません。

2. 肥料価格の低迷
他社との競争状況が現在と変わらないままでも、市場価格が現在と同水準のまま推移する恐れがあります。しかし、これは実現しにくいと考えます。肥料価格は穀物価格との連動性が高く、その相場に影響されがちです。穀物の生産活動自体に周期性がある以上、需給にタイムラグが生じることになり、穀物価格もある種周期的に変動しつづけると思います。

仮に穀物の価格が低位安定するようであればマクロ的にみた余剰分が別の産業(工業など)に回り、発展を加速させます。ひいては、それらの産業における企業の価値向上につながります。ポートフォリオの一部としてたとえば工業セクターの企業にも投資しておけば、当社のような資源系企業への投資と補完的に働くことが期待できると思います。

3. 環境規制の強化
当社のリン鉱山の主力はアメリカのフロリダ州にあり、環境規制が多く、現在も何件か起訴されています。採鉱停止や和解金・補償金を要求される可能性がますます高まる恐れがあります。しかしリンも食糧面の安全保障上重要な元素であるため、業界トップの当社に一定の責があるとしても連邦政府や裁判所は現実的な水準(たとえば和解金の数割増し)で手を打つのではないでしょうか。なお、当社としても環境保全の対応は継続して実施しています。また現段階で負債に計上されている環境対策引当金の総額は600億円程度(総資産の約5%)です。