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2014年3月14日金曜日

2013年度バフェットからの手紙 - 無形資産の償却費について

ウォーレン・バフェットによる2013年度「株主のみなさんへ」[PDF]から、買収などに伴って発生する無形資産の償却費に関する話題を引用します。一見すると初歩的な説明ですが、企業買収というテーマを考え直す材料になる文章だと思います。(日本語は拙訳)

真剣にとりくんでいる投資家であれば、無形資産という分類には異なった性質のものが混ざっていることを理解しておく必要があります。あるものはまさに時間と共に減耗する一方、価値をまったく失わないものもあります。たとえばソフトウェアにかかる償却費はまさに本物の支出です。しかし他の無形資産、たとえば顧客との取引関係(customer relationships)に関する償却費はパーチェス法を通じて発生するもので、あきらかに実際の支出ではありません。たとえ投資家の視点から見てそれらが大きく異なっていたとしても、企業会計原則(GAAP)ではその2種類の違いを区別せず、利益を算出する際にどちらも費用として計上します。

本文書の29ページ[損益計算書]に載せた数字は企業会計原則に準ずるものです。そこでは、この章に含まれる企業群[バークシャーの子会社]に関する償却費6億4,800万ドルが費用として計上されています。そのうち「実際の支出に即したもの」は20%で、残りはそうでないと言うことができます。わたしどもは多くの買収をしてきたことで、この違いが重大なものとなってきました。今後も買収を続ければ、違いがさらに大きくなるのはまず間違いありません。

もちろん帳簿上だけの費用計上は、その資産の残存価額がやがてゼロになることで終了となります。しかしそうなるまでには、たいていの場合15年間かかります。つまり残念なことに、今の分の償却が終わることで報告利益上の恩恵をうけるのは、わたしのあとを継ぐ人になるでしょう。

一方わたしどもが報告する減価償却費は、そっくりすべて実際に支出される費用です。このことは、どの他社でもまずそのとおりだと言えます。ウォール街の住人は評価基準のひとつとしてEBITDA(利払い税引き償却前利益)を売り込んできますが、それを目にしたら財布のひもを締めてください。

もちろんわたしどもが提出する利益報告はひきつづきGAAPに準拠していきます。しかしあるがままを受け入れるには、報告上の償却費用の大部分を足し戻すことを覚えておいてください。(PDFファイルの13ページ目)

[前略] serious investors should understand the disparate nature of intangible assets: Some truly deplete over time while others in no way lose value. With software, for example, amortization charges are very real expenses. Charges against other intangibles such as the amortization of customer relationships, however, arise through purchase-accounting rules and are clearly not real costs. GAAP accounting draws no distinction between the two types of charges. Both, that is, are recorded as expenses when earnings are calculated - even though from an investor's viewpoint they could not be more different.

In the GAAP-compliant figures we show on page 29, amortization charges of $648 million for the companies included in this section are deducted as expenses. We would call about 20% of these “real,” the rest not. This difference has become significant because of the many acquisitions we have made. It will almost certainly rise further as we acquire more companies.

Eventually, of course, the non-real charges disappear when the assets to which they're related become fully amortized. But this usually takes 15 years and - alas - it will be my successor whose reported earnings get the benefit of their expiration.

Every dime of depreciation expense we report, however, is a real cost. And that's true at almost all other companies as well. When Wall Streeters tout EBITDA as a valuation guide, button your wallet.

Our public reports of earnings will, of course, continue to conform to GAAP. To embrace reality, however, remember to add back most of the amortization charges we report.


現在83歳のウォーレンは、15年後には98歳になる計算です。上の文章では後継者云々と書いていますが、実のところご本人は15年前を振り返って「株主のみなさんへ」を書くつもりでいると思います。個人的にはその年齢はむずかしいだろうと考えていましたが、ウォーレンがこの話題を書いたことで確率を再検討しました。98歳になっても筆をとっている確率は、3割から4割ぐらいと予想します(あくまでも軽い予想です)。

4 件のコメント:

ブロンコ さんのコメント...

== No title ==
バフェットが98歳になっても筆をとっている確率を3割から4割ぐらいと予想された根拠に非常に興味があります。

betseldom さんのコメント...

== 平均余命(ブロンコさんへ) ==
ブロンコさん、こんにちは。お久しぶりです。
ご質問をありがとうございました。この件は「軽い」ながらも資料を参照したところもあるので、簡単にご説明します。
予測の起点となっているのは米国の平均余命の資料です。下記PDFファイルの16-17ページ目に、米国白人男性の平均余命が記載されています。
United States Life Tables, 2008 (CDC)
(http://www.cdc.gov/nchs/data/nvsr/nvsr61/nvsr61_03.pdf)
以下の数字はPDFファイル19ページ目からの抜粋です。
83-84歳時点: 6.5歳
90歳時点: 約4歳 =(4.2 + 3.9) / 2
この2つの数字から、83歳の米国白人男性が94歳まで生存する確率はおよそ25%になると考えました(この計算に対する別の見方は後述します)。さらに以下の要因(プラス要因とマイナス要因)を加味することで、ウォーレン・バフェットの98歳生存確率を予測しました。
+ 10年後の2025年頃には、本統計実施時(2008年)にくらべて平均余命が3歳程度延長している可能性があること(PDFファイル6ページ目の図)
+ 米国における最高水準の医療を受けられる状況にあること
+ アルコールやたばこを嗜まないこと
+ ストレスが極めて少ない生活環境
+ とことん生き延びたい、というウォーレン個人が持つ強い欲求
+ 現時点での健康状態
- 肉食、ソフトドリンクの摂取
- チャーリー・マンガーに先立たれた場合の精神的な落ち込み
これらの要因が生存率にどれだけ寄与するのかは、あくまでも主観的な判断によるものです。「ウォーレンが98歳まで生存し、それなりの知性を保っている」確率を30-40%と結論づけたものの、40%というのは行き過ぎた数字だと承知しています。が、30%前後は考えられる範囲だと思っています。
とここまでが当初の予測値についての説明です。一方、同じ資料に含まれている別の観点からのデータをみつけて、上記の予測値は楽観的だと考え直しました。具体的には、PDFファイルの5ページ目のデータです。
Table C. Number of survivors out of 100,000 born alive, by age, sex, race, and Hispanic origin: United States, 2008
この表によれば、85歳時点での生存者数は10万人当たり33,026人で、それに対して95歳時点は5,105人となっています。これは「統計実施時に85歳だった33,026人が、95歳になった時に5,105人しか生存していないだろう」ということを意味するものではありませんが、さきの予測値を冷静にみつめなおす材料になると考えました。
結論として「4割は行き過ぎ、調子が良ければ3割到達」程度の確率になると予想を修正します。当初書いたときは、「強打者クラスの打率になれば」とウォーレンを応援していたところもあります。
またよろしくお願いします。
それでは失礼致します。

ブロンコ さんのコメント...

== No title ==
生命保険数理で条件付き期待値を考えるのであれば、「ステージ1の前立腺がんを発症したことがある」という条件が最重要かと思われますが、どうでしょうか。
ちなみに、平均余命表と死亡率から83歳の日本人男性が94歳まで生存する確率を算出すると約19%、98歳まで生存する確率は約6%でした。
バフェットには生き続けるという点でも類まれなる存在であって欲しいと願っています。

betseldom さんのコメント...

== ブロンコさんのご指摘通りです ==
ブロンコさん、詳細な返信をありがとうございました。
以前に取り上げていたにもかかわらず、前立腺がんのことを失念していました。「再発性前立腺癌」というきちんとした病名があるのですね。具体的な死亡率を当たってはいませんが、ブロンコさんのご指摘どおり、この可能性を考慮に入れる必要があると思います。(もちろん術後の経過を定期的に確認し、何らかの対応をしていることは想像できますが)
平均余命表などの正しい定義や読み方は、実はよく理解しないまま使っています。ブロンコさんからコメントを頂くと、自分の不勉強さを再確認できるだけでなく、何から手をつけていきたいのか、考えるきっかけになります。どうもありがとうございました。
それでは失礼します。